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40話 立ち眩み

 風舞




「あの、トウカさん? おかしいってどういう事ですか?」



 俺の魂の輪郭をトウカさんに感じ取ってもらったところ、俺の魂はおかしいと言われた。

 ローズやファルゴさんは優しいとか繊細とか言われてたから、俺の魂も無難な占いの様にたくましいとか真面目とかそういう評価を頂けるものだと思っていたから、完全に不意をつかれてしまった。

 だが、まだ慌てるのは早いぞ高音風舞。

 きっと俺の魂がおかしいというのは良い意味でおかしいという事だ。


 ………………。

 いい意味でおかしいってなんだよ。


 そんな感じで一人禅問答を心の中で繰り広げていると、俺の顔を見たトウカさんが少し気まずそうな顔をしながら二の句をついだ。



「その、何故かフーマ様の中に魂が二つあるのです。何か心当たりはありませんか?」

「あぁ、そういう事でしたか」



 俺の中に二つの魂か。

 まぁ、一つは俺のものとして、もう一つは間違いなくフレンダさんのものだよなぁ。

 はぁ、良かった。

 俺の魂がおかしいとかじゃなくて本当によかった。



「それと、そのうちの片方がもう片方の魂の力を殆ど奪って…………」

「ちょちょっとタイム! トウカさん? もういい、もういいから!」

「ん? 最後まで聞かなくていいのか?」

「あぁ、はい。何か聞いてたら恥ずかしくなってきたんで、ここらで勘弁してください」

「そうは言うが、お主の中に魂が二つあるという以外の話はまだ聞けておらんぞ?」

「いや、俺はそれが聞けただけで十分だから。ありがとうございますトウカさん。すごく為になりました」

「はぁ、それならば良いのですけれど。フーマ様の様に魂が二つあるお方を見るのは初めてなので、私も驚きました」

「あぁそうですか。でも、心当たりもありますし、特に困っても無いんで大丈夫ですよ」

「そうですか。しかし、何か困ったことがあったら相談してくださいね?ユーリアのお友達の方は私にとっても大事なお方なので」



 そう言ってニッコリと微笑むトウカさん。


 あっぶねぇ。

 流石にこの場で俺がフレンダさんの力を殆ど奪って白い世界でブイブイ言わせてるなんて暴露されたら、ローズになんて言われるかわかったもんじゃない。

 トウカさんの純粋な優しさが若干チクチクと刺さるが、今は仕方ないだろう。

 いつかはローズにバレることではあるのだが、もう少しだけ先延ばしにしておきたいしな。


 そんな事を考えながら額の汗を拭っていると、トウカさんが両手を合わせて俺とローズにとって嬉しい提案をしてきた。



「それでは、もう日も暮れてきましたし夕飯にしましょうか。あ、フーマ様とミレン様はお風呂が先ですかね?」

「うむ。少し髪が生臭いし、風呂を貸してくれると助かるのじゃ」

「それでは、早速お風呂にご案内しましょう。どうぞこちらです」



 そうして、俺達はトウカさんに案内されて風呂場に向かい、いつもの様に俺がローズの頭を洗ってやってここ数日の汚れや疲れを洗い流した。

 風呂場では特に目立った事はなかったが、特筆するとすれば湯船につかっていると小さな切り傷が塞がっていった事ぐらいだろうか。

 流石は世界樹の真下にある家の風呂場といったところだろう。


 その後、程よいところで風呂からあがった俺とローズがリビングに戻ると、ファルゴさんが一人で紅茶を飲んでいた。



「あれ? トウカさんはどこ行ったんですか?」

「夕飯を作りに行くってあっちの方に歩いてったぞ」



 そう言ってファルゴさんの指さした方の廊下に顔を向けてみると、確かに美味そうな香りが漂ってきた。

 匂い的にビーフシチューとかそこら辺の煮込み料理だろうか。

 そんな事を考えながら、俺もソファーに腰かけて置いてあったティーカップに紅茶を注いでいると、ソファーに腰かけたローズが俺が紅茶を入れたティーカップを手にしながら声をかけてきた。



「のうフーマ。お主、トウカを手伝ってこい」

「ん? 別に良いけど、なんでだ?」

「妾達はこうして森の中で保護してもらった上に、風呂まで貸してもらったんじゃぞ? 流石に何かしら恩を返した方がいいじゃろう。それにほれ、お主は料理が得意なんじゃし」

「あぁ、それもそうか」

「おいフーマ。口元が緩んでるぞ」

「え? そうですか? それじゃあ、俺は行って来ますねー」



 そうして俺は超絶美人エルフお姉さんであるトウカさんの料理をお手伝いするために、料理の良い匂いのする方へ向かった。

 スキップで。




 ◇◆◇




 風舞




 匂いを頼りに台所までたどり着いた俺がドアを開けると、そこにはエプロン姿で鍋をかき混ぜるトウカさんが立っていた。

 なんかこう、グッとくる絵面である。



「フーマ様? もしかしてお待たせしてしまいましたか?」

「いえ、何かお手伝いできる事は無いかと思って来ました。流石にここまでして貰ってるのに、何もせずに待っているのも気が引けますし」

「そうでしたか。それでは、私の代わりにこの鍋を混ぜていてくれませんか?」

「あぁ、はい。任せといてください」



 そうして、俺はビーフシチューの様に茶色くてとろみのあるスープを混ぜる係に就任した。

 なんか思ってたお手伝いとは違うけど、まぁいいか。

 流石に急に一品作ってくれとか言われてもちょっと困るし。



「そういえば、トウカさんは純血のエルフなんですか?」

「はい。私の母は勇者様とエルフのお婆様の間に生まれたエルフで、父も同じく普通のエルフなので私も純血のエルフです」

「ん? トウカさんが勇者の孫だっていうのも驚きなんですけど、その勇者って人間なんですよね? それじゃあ、トウカさんのお母さんはハーフエルフなんじゃないんですか?」

「いえ。ハーフエルフとはエルフと他種族の形質を両方持つ者の事を指します。私の母はエルフの特性のみを持っていたのでハーフエルフではありませんね」

「あぁ、なるほど」



 そういえばローズが以前、エルフや吸血鬼は異種族と子供をなしたとき、産まれてくる子供はその異種族の子供である可能性が一番高くて、継いでハーフエルフやハーフヴァンパイア、それで普通のエルフや吸血鬼が産まれてくる可能性が一番低いって言ってた気がする。

 その話によると、トウカさんのお母さんは一番確率の低いエルフで産まれてきたという事になるのか。

 それで、両親が共に普通のエルフであるトウカさんはユーリアくんは純血のエルフになると。


 遺伝子的にはどうなってるのかよく分からないけど、そういうものとして捉えておくしかない話なのだろう。

 やっぱり異世界は不思議だ。


 そんな取り留めのない事を考えていると、トウカさんが棚から食器を出しながら俺に声をかけてきた。



「次は私が聞いてもいいですか?」

「はい。どうぞ」

「その、フーマ様は勇者様なのですか?」

「違いますよ。この黒髪のせいでよく間違われますけど、俺は別大陸の出身なんでこの色なんです。ちなみに、俺と同郷のマイムってやつも同じ黒髪ですよ」

「そのマイム様というお方はフーマ様と共に旅をされているという女性の方ですよね?」

「あぁ、ファルゴさんに聞いたんですか」

「はい。フーマ様はそのマイム様というお方を大事に思ってるのですね」

「ま、まぁ、そうですね」

「ふふふ。やっぱりフーマ様は可愛らしいお方ですね」



 そう言ってトウカさんが口元に手を当てながら微笑んだ。

 なんか、この可愛らしいって言われるの微妙に恥ずかしいな。

 全然悪い気はしないんだけど、年上のお姉さんにからかわれてるみたいで少しドキッとする。


 そんな感じで微妙に気恥ずかしくなった俺は、照れを隠すために話題を変えることにした。



「それで、そのマイム達と合流したいんですけど、行方とか分かったりしませんか?」

「それでしたら明日の朝、私が里の警備兵の詰め所までお連れしますのでおそらくそこで合流できると思いますよ。ファルゴ様のお話ですと森の結界の中にマイム様達はいらっしゃる様ですし、すでに結界の中にいるマイム様達を捕捉した警備兵が動きだしてると思います」



 良かった。

 舞達は多分森の中にいるだろうし、トウカさんの話の通りならおそらく無事だろう。


 あの金色の目のサイクロプスが何だったのかは未だによくわからないが、遮蔽物の多い森の中で舞達がそう簡単にあのサイクロプスにやられるという事はないだろうし、あっちにはユーリアくんもいるだろうから警備兵と合流するまでに生半可な魔物にやられるとは考えづらい。

 それに、ローズの話だとエルフは魔法が得意らしいし警備兵達と合流した後なら例のサイクロプス相手でも勝てそうな気がする。


 ともかく、明日詰め所に行って舞と合流した時にでも、警備兵の人に金色の目のサイクロプスについて聞いてみるとしよう。

 トウカさんはここに一人で住んでるらしいから大した情報は持ってないだろうし、そういう情報は軍隊の人に聞くのが一番な気がするしな。



「そうですか。何から何まですみません」

「いえ。私も久しぶりにユーリアに会いたいですし、お気になさらないでください。っ………」

「トウカさん?」

「すみません。少し立ち眩みがしただけです」

「もしかして体調が優れないんですか?」

「いえ、別に大した事はありませんよ」

「そうは言いますけど、顔色も悪いですよ? 俺達は野宿でも大丈夫なんでトウカさんは休んでくれませんか?」

「ふふふ。フーマ様はお優しい方ですね。でも、本当に大丈夫です。それに私も久しぶりにこうしてお話できて楽しいんですから、野宿なんてしたら嫌…ですよ?」

「そ、それなら良いんですけど」

「ふふふ。それじゃあ、お料理が冷めないうちに運んでしまいましょうか」



 トウカさんは俺が「嫌…ですよ?」と上目遣いで言われて少し赤くなってるのを見て笑顔でそう言うと、厨房の台の上に置いてあったサラダを持って台所から出て行った。


 あれ、絶対ただの立ち眩みとかじゃないよな。

 別に何か確証がある訳ではないのだが、一瞬だけ頭を押さえてすごく痛そうな顔をしていたしどこか体の調子が悪いのは間違いない気がする。

 ただ、世界樹の管理をしているトウカさんなら万病に効くという世界樹の朝露とか他の貴重な回復系アイテムもそれなりに手に入るだろうし、どうして彼女がああして体調が悪そうにしているのかが分からない。


 まぁ、何はともあれ体調の悪そうな人にあまり無理させるわけにはいかないし、トウカさんには早めに休んでもらえるようにするか。


 俺はそんな事を考えながら、トウカさんの苦労を少しでも減らすために机の上に置いてある食器を持って彼女の後を追った。




5月3日分です。

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