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39話 金と黒の姉

 風舞




「お、二人とも起きたのか」



 俺とローズが二人揃って部屋から出て廊下を突き当たりまで進むと、ユーリアくんによく似た美人のエルフの女性とファルゴさんが俺達を迎えてくれた。

 このリビングの様な部屋は玄関やいくつかの廊下と直接繋がっているみたいで、玄関以外のドアや窓はひとつもない。

 置いてある家具も全て木造で床はとてつもなく巨大な一枚板みたいだし、なんだか不思議な温かみのある空間である。



「はい。お陰様で無事に目を覚ましました。まぁ、起きてすぐにもう一度ミレンに寝かしつけられそうになったんですけどね」

「あれはお主の方が悪いじゃろう。それよりも、お主がユーリアの姉じゃな?」

「はい。やはり聞いていらしたのですね」

「うむ。先ほどは体調が優れなくて話に参加できなかったが、一応聞いてはおった。盗み聞くような形になってしまった事を謝罪させてくれ」

「いえいえ。もうお体の調子はよろしいのですか?」

「うむ。お主らのお蔭で今はもう大丈夫じゃ。世話になったの」

「ふふふ。それは良かったです」



 そう言ってトウカさんがソファーから立ち上がりながら微笑んだ。

 トウカさんは俺と同じくらいの身長で、腰まで伸びる薄い金髪と空のような青い瞳が素敵な女性だ。

 服は今現在ローズが着ている物によく似た淡い緑色の半そでのトップスに白いロングスカートを合わせ、嫌みにならない程度の金の装飾品を身に着けていて清楚なお姉さんといった印象を受ける。

 ただ、女性のエルフの特性なのかは分からないが少し華奢すぎるような気もする。

 化粧で隠しているみたいだが若干肌艶が悪いみたいだし、体調でも優れないのだろうか。


 そんな事を考えながらトウカさんをじっと見つめていると、ニヤついた顔をしたファルゴさんが俺に声をかけてきた。



「おいフーマ。いくらトウカさんが美人だからってそんなに見つめるもんじゃないぞ?」

「あぁ、すみませんトウカさん。少しぶしつけでしたね」

「いえ、フーマ様はミレン様以外のエルフの女性に合うのは初めてだと聞いておりますし、私も特に悪い気はしませんので構いませんよ」

「はっはっは。そう言って頂けると助かります」

「ふふふ。フーマ様は真面目な方なのですね」



 よし、これで第一印象はばっちりだろう。

 トウカさんは頬に手を当てて穏やかに微笑んでいるし、彼女が俺に持った心象は悪くないはずだ。

 そんな事を考えていると、スススっとローズの元に近づいてきたファルゴさんが彼女に耳打ちする声が聞えてきた。



「なぁミレン。なんかフーマが爽やかすぎやしないか? 頭でも打ったか?」

「いや、ユーリアの姉に合うのを楽しみにしておったし、頭の中で受け答えのあらゆるパターンをシミュレーションしておったのじゃろう。こやつはそういう無駄な所にこだわるのが好きな奴なのじゃ」

「受け答えのパターンを想定するのって、性格すらも分からないのにどうやってやるんだよ」

「おそらく、ユーリアに聞いたトウカの話と、ユーリア自身の性格から推測したんじゃろうな」

「うへぇ、そこまでいくと凄いっていうか気持ち悪いな」

「まぁそう言ってやるな。ほれ、フーマもこんなに手を汗で濡らしておるし、かなり緊張しているんじゃろう」

「あ、本当だ」



 そうして俺の左右の手を握るローズとファルゴさん。



「って、全部聞こえとるわ!」

「悪ぃ悪ぃ。フーマがからかっても全く動じなかったから、少し意地悪したくなっただけだ」

「はぁ、ファルゴさんがトウカさんにしつこくナンパしてたって、あらぬことをシェリーさんに言いますよ?」

「え!? 流石にそれはちょっと酷くね!?」

「まぁ、自業自得ですね」

「頼むフーマ! エルフの里で好きなものなんでも買ってやるからそれだけは勘弁してくれ!」

「それじゃあ、そういう事で」

「まったく、お主らは相変わらずじゃな」



 そんな頭の悪い漫才を三人でやっていると、その様子をみていたトウカさんがクスクスと上品に笑い始めた。

 なんか日本にいた頃の舞を思い出す笑い方だな。

 近頃の舞はツボに入った時は腹を抱えて大声で笑うし、こういう上品な笑い方をする女性を久しぶりに見た気がする。

 まぁ、舞の今の笑い方も俺は結構好きなんだけど。


 そんな事を考えながらファルゴさんにすがりつかれていると、ようやく笑いが収まってきたらしいトウカさんが目元の涙を拭いながら口を開いた。

 って、泣くほど面白かったのか?



「す、すみません。こうしてにぎやかな方々を見るのは久しぶりだったので、つい笑いすぎてしまいました」

「ふむ。お主はここで一人で暮らしておるのかの?」

「はい。時々里の方にも顔を出しますが、基本的にはここで一人で暮らしています」

「ん? トウカさんは里長の娘なのに従者の一人もいないのか?」

「ええ。里長の娘とは言っても義理のですし、私の仕事場はここなので通勤時間がなくて便利なんですよ」



 まぁ、住み込みで働くところの利点はそこなんだろうけど、ここで一人で暮らしていても寂しくないのか?

 この家凄く広そうだし、何かと困りそうな気がする。


 ん?

 ていうか、里長の義理の娘?

 ということは、トウカさんの弟であるユーリアくんも里長の息子で………。

 里長はエルフの里で一番偉い人だろうから………。



「え!? トウカさんってエルフのお姫様なのか!?」

「あぁ、はい。申し遅れました。私はトウカ。当代の頭首ハシウスの義理の娘にして、世界樹を管理するかんなぎでもあります」

「え? かんなぎって巫女さんって事か? それで世界樹の下(ここ)に一人で住んでるって事はあのバカでかい世界樹の管理を一人でやってんのか?」

「おいフーマ。化けの皮がはがれておるぞ」

「あぁ、すみませんトウカさん。少し興奮してしまいました」

「いえいえ。里の外の方にとっては珍しい話ばかりですし、しかたないですよ」



 そう言ってふんわりとほほ笑むトウカさん。

 その笑顔に思わずドキリとしてしまったが、今はそれよりも………。


 この世界樹の管理を一人でしてるってどういう事だ?

 普通の木の管理だったら枝打ちとか雑草抜きとかになるんだろうけど、世界樹はキロ単位の高さの巨木だし、一人でそんな事は出来ない気がする。

 ていうか、世界樹の管理をする種族がエルフだって聞いてたけど、実際は一人でやってんのか。

 なんかブラック企業みたいだな。



「ほれフーマ。頭を回すのも良いが、今は自己紹介が先じゃ」

「ああ。そういえばまだだったな」



 トウカさんのお仕事事情について考えていたら、ローズに注意されてしまった。

 まぁ、他人に仕事の事を聞かれるのが嫌な人もいるってどっかで聞いたし、興味こそあれど今は必要な話ではないから一先ずおいておこう。

 それよりも、自己紹介か。


 トウカさんの性格は想像していたゆるふわ系と活発系と清楚系の中で一番確率が高いと思っていた清楚系の女性だったし、ここは自己紹介パターン4でいけばいいか。



「それでは改めまして。俺の名前はフーマ。今は冒険者をやっています。出身は別大陸ですが今はソレイドでここにいるミレンや他の仲間たちと共に居を構えており、ここにはその仲間の一人であるアンという少女の病を治すのに必要な世界樹ユグドラシルの朝露を入手するために来ました。若輩の身ではありますが、どうぞよろしくお願いします」



 どうだ、見たかファルゴさん。

 これが俺の考えた自己紹介パターン4、その名も『無難が一番』だ。

 トウカさんは清楚なお方だし、こういう真面目そうな自己紹介が一番問題がない気がする。

 本当なら個性を出して高得点を狙えたら良かったのだが、それがトウカさんにウケるかは分からなかったし、無難な自己紹介で様子を見るのがこの場合の正解だろう。



「ふふふ。フーマ様は面白いお方なのですね?」

「そう、ですか?」

「はい。その、こう言っては失礼かもしれませんが、フーマ様は何だか可愛らしい男の子の様に見えます」

「はぁ、そうですか」



 ん? 可愛らしい男の子?

 それってどういう意味なんだ?

 可愛らしさで言ったら俺よりもユーリアくんの方が上だろうし、今一良くわからん。

 でもまぁ、トウカさんは頬に手を当ててほほ笑んでいるし、とりあえずは自己紹介は成功という事で良いだろう。



「ふむ。それでは次は妾の番じゃな。妾はミレン。先ほどフーマが言った様に今はソレイドを拠点に冒険者をしておる。妾もここに来るのは初めてじゃから、色々とよろしく頼むぞ」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。ところで、ミレン様はエルフなのですか?」

「純血のエルフというわけでは無いが、エルフの血も幾分か混ざっておる。母方の血がそうであったらしいが、詳しい事は大して知らぬ」

「そうでしたか。それで特殊な魂をお持ちなのですね」

「む? 魂かの?」

「はい。エルフにしてはかなり攻撃的な魂をしていらしたので、少し不思議に思ったのです」

「ふむ。お主には人の魂を見通す力があるのかの?」

「はい。正確には生き物の本質を感じ取る力なのですが、ミレン様の仰る様に魂の輪郭を何となく感じ取る事もできます」



 生き物の本質を感じ取る力か。

 そういえばソレイドの冒険者ギルドの受付嬢であるミレイユさんは嘘を見抜いたり様々な物や人の詳細が分かるギフトをもっていたし、トウカさんの力も似たようなものなのかもしれない。

 まぁ、ミレイユさんは見る力でトウカさんは感じる力なんだけど。



「ほう。それでは、妾の魂はどのような輪郭をしているのか分かるのかの?」

「そうですね。ミレン様は圧倒的な武と果てしない優しさを合わせ持つ素晴らしい魂をお持ちです」

「ほう、そうかそうか。お主、中々見る目があるではないか。聞いたかフーマ。妾の魂は圧倒的な武と優しさを持っているらしいぞ?」



 わお、ローズがもの凄く嬉しそうな顔をしている。


 そうしてぐりぐりと頭を俺に押し付けるという謎の感情表現をするローズの頭を撫でていると、ファルゴさんが目をキラキラさせながらトウカさんに声をかけた。

 子供か。



「なぁなぁ、それじゃあ俺の魂はどうなんだ?」

「えーっと。そうですね、陽気で繊細なところがありつつも根は優しいといった感じでしょうか」

「なるほど。お調子者でチキンで八方美人と。確かにファルゴさんらしいですね」

「おいフーマ!せっかくトウカさんが俺の魂をほめてくれてのに何でそんな事言うんだよ!」

「えぇ、だって何かファルゴさんが褒められてんのって見てて違和感あるじゃないですか」

「そう言うならフーマも見てもらえよ! 多分お前は意地悪でずる賢くて女ったらしの魂だろうからな!」

「それどんな魂なんすか」



 なんとなくトウカさんの魂を見る力というのが占いのような気がしてるのは俺の心が荒んでいるせいだろうか。

 まぁ、魔法とかスキルがあるこの世界なら、例え占いであっても信じるに値するようなものなんだろうけど。


 そんな微妙に失礼な事を考えていると、俺に頭をこすりつけるのを止めていたローズが近くにあったソファに座りながらトウカさんに声をかけた。


「それで、結局フーマの魂はどんな感じなんじゃ?」

「その、非常に言いづらいのですが、」

「なんだ?やっぱりフーマの魂は真っ黒だったのか?」

「いえ、その、フーマ様の魂はおかしいです」


 トウカさんが少しだけ困った様な顔をしながらそう言った。

 へぇ、俺の魂はおかしいのか。

 てっきり優し気とか真面目とか無難な事を言ってくれるのかと思ってたけど、おかしいのか。

 そうか。


「あの、トウカさん?おかしいってどういう事ですか?」


 俺は少しだけ泣きそうな顔をしながらトウカさんにそう問いかけた。




 ◇◆◇




 舞




「へぇ、それじゃあマイムは勇者ってわけじゃないんだ」

「ええ、そうよ。そうそう簡単に勇者がいるわけないじゃない」

「あははは! だよねー! でも、私は勇者の孫なんだよ! 超やばくね!」

「はぁ、それはもう何回も聞いたわ。それと、私の胸を揉むのをそろそろ止めてもらえないかしら?」



 エルフの森でユーリアさんのお姉さんであるターニャちゃんに出会った後、そのまま彼女に案内されてエルフの里の宮殿まで通された私は、どういう訳かターニャちゃんと二人でお風呂に入っていた。



「ちぇ、なんだよー。別に減るもんじゃないんだから良いじゃんよー」

「いいかしらターニャちゃん。私のおっぱいはフーマくんという男の子のものなの。たとえ貴女であってもそう易々と揉ませる訳にはいかないのよ」

「ん? そのフーマって誰?」

「フーマくんは私のソウルメイトよ」

「へぇ、ってことはマイムの彼氏ってこと?」

「い、今はまだ違うわ」

「あ、マイムが赤くなってるー。超かわいー!」

「だから、胸を揉むのをやめてちょうだい!」

「良いではないかー、良いではないかー!」



 そう言って私の胸を揉み続けるターニャちゃん。

 ターニャちゃんにとっては私のような手に収まらないサイズの胸が珍しいらしく、体を洗って和風の浴槽に入ってからはずっと揉みっぱなしで中々飽きてくれない。


 私はエルフのお姉さんの貧乳をサワサワしたいと思ってターニャちゃんに付いて来たのに、彼女が案内したのは隠し通路みたいな地下通路だったから他のエルフはまだ一人も見かけていないのよね。

 はぁ、なんで私が逆に胸を揉まれてるのかしら。



「はぁ、のぼせてきたしそろそろあがりましょう」

「おっけー。私もお腹空いてきたしそろそろ出よっか。久しぶりに会ったユーリアとももっと話したいしねー」

「そういえば、ユーリアさんと会うのは何年ぶりぐらいなのかしら?」

「えーっと。150年ぶりぐらい? 私が80歳ぐらいの時にユーリアは旅に出たからそんぐらいだと思うよ」

「それじゃあ、ユーリアさんと会うのはかなり久しぶりなのね」

「うん! 私は里長の娘だからあんまし里の外には出れないし、こうしてユーリアが帰ってきてくれて超嬉しいんだよ! でも、パパはあんまりユーリアの事が好きじゃないみたいなんだけどね」



 ターニャちゃんが少しだけ悲しそうな顔をしながらそう言った。

 ターニャちゃんのお父さんという事はエルフの里のトップなんだろうけど、ユーリアさんはその里長にあまりよく思われていないのね。

 ユーリアさんの話だとユーリアさんとターニャちゃんは義理の姉弟らしいし、何か深い家庭事情があるのかしら。

 黒髪のターニャさんはこの前私と風舞くんの賭けの話に出てきた600年前の勇者の子孫みたいだし、里長が何かしらの裏事情と思惑を持っているとは思うのだけれど。


 そんな事を考えながらターニャちゃんに腕を組まれつつ脱衣所に戻って体を拭いていると、私の顔を覗き込んだターニャちゃんがにこっと笑いながら私に声をかけてきた。



「ねぇねぇマイム!」

「何かしらターニャちゃん」

「私はユーリアが帰ってきてくれたのも嬉しいけど、マイムと知り合えたのもすごい嬉しいよ! なんていうか、チョベリグ的な?」

「ふふっ、ターニャちゃんは可愛いわね。なんだか実家に時々入り込んでいた猫を思い出すわ」

「え、マジ? やっぱマイムは話が分かるなぁ。よし、そんなマイムには私が何か一つだけ好きなものをあげよう!」

「え? 好きな物?」

「うん。なんでもは無理だけど、このエルフの里にあるものなら大抵は手に入ると思うよ。何か欲しい物はないの?」



 欲しい物ね。

 今私が自分のために一番欲しい物は新しい剣だけれど、私がここに来たのはアンちゃんの魔力拒絶反応を治すのに必要な世界樹の朝露を手に入れるためだし、これはいい機会ね。



「それじゃあ、世界樹の朝露が欲しいわ」

「世界樹の朝露? あんなの何に使うの?」

「私の友達が病に侵されているのだけれど、それを治すのに必要なのよ。ダメ…かしら?」

「いや、全然ダメじゃないよ! マイムの友達はもう私の友達も同然だし、そんぐらいすぐに用意してあげるよ!」

「本当? すごく嬉しいわ!」

「別に良いって、マイムは私の友達だしね!」



 そうしてターニャちゃんと笑い合った後で、私は彼女が貸してくれた最近のエルフの里の流行りだという和風の服に袖を通した。

 ユーリアさんの言っていた様に、エルフの里では勇者と勇者にまつわる物が人気な様ね。

 ターニャちゃんの自室も畳張りだったし、想像していたエルフの暮らしはとは大分違う様に感じる。

 そんな事を考えながら髪を乾かし終えると、ターニャちゃんが私に声をかけて来た。



「それじゃあ戻ろっか。ユーリアとシェリーも待ってるだろうしね」

「そうね。あまり待たせすぎても悪いし、早く戻りましょうか」

「うん! それじゃあレッツらゴー!」



 そう言って私の胸を後ろから揉みしだきながらターニャちゃんが歩き始めた。

 はぁ、結局その手は止めてくれないのね。

 流石にずっと揉まれていると、こそばゆくなってくるのだけれど。


 ってそれよりも、風舞くん達はどこにいるのかしら?

 ターニャちゃんは警備兵に情報が入ったらすぐに教えてくれると言っていたけれど、少し不安だわ。


 私はそんな事を考えながら、エルフの里の宮殿の長い廊下を歩いた。

5月2日分です。

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