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35話 サイクロプス講座

 風舞




 サイクロプス。

 キュクロープスとも呼ばれるその怪物は、俺の住んでいた世界ではギリシャ神話に登場する鍛治技術を持った一つ目の巨人である。

 一説によると、象の頭の骨を一つ目の巨人のものと勘違いした人々によって創られた伝説だと言われているが、まぁそれはいい。


 こっちの世界のサイクロプスは棍棒なんて粗野な武器を使っているし、俺の元いた世界のそれとは全くの別物であると考えて良いだろう。

 この世界のサイクロプスは、目や口は人間と同じ様な形をしているが一つ目で大体15から20メートルぐらいの身長のある人型の魔物だそうだ。

 ユーリアくんはその長い人生の間でも一度しか遭遇した事がなく、ユーリアくんの4倍の時を生きるローズでも両手の指で数えるくらいしか戦った事がないと言っていた。


 そんな激レアな魔物とこの世界に来て一年足らずで戦う事になった俺達は、相当ついていないみたいだ。

 何せ、サイクロプスはその怪力と硬い皮膚を持って一国を滅ぼしたという伝説もあるぐらい強いらしいし。


 とまぁ、現在俺が持っているサイクロプスの情報を整理してみたのだが、流石にこれだけではローズをワンパンで倒す様な魔物と戦うには情報が無さすぎて不安なため、俺の知る限りでかなりの量の知識を持っているフレンダさんの元へ俺は足を運んでいた。

 まぁ、足を運んだとは言っても、ただ横になって眠りについただけなんだけど。



「こんにちはフレンダさん」

「あぁ、人間ですか。数日ぶりですね」

「あのー。いくら最近忙しくて来れなかったからって態度悪くないですか?」

「別に貴方が来なかったから拗ねているわけではありません。拗ねているわけではないのです」



 赤い鎖に縛られたフレンダさんが真っ白な床に寝そべってグデーっとしながら面倒臭そうにそう言った。

 どう見ても拗ねている様にしか見えないのに、拗ねてないって言ってるしどうすれば良いのだろうか?

 とりあえず、フレンダさんの大好きなオセロでも置いとくか?



「はぁ、とりあえず鎖も外したんで立って下さいよ。ローズの妹ともあろうお方がみっともないですよ?」

「いえ、私はこうしているのがお似合いなのです。お姉様の魔力を辿って貴方の精神世界に入り込んだら、魔力が邪魔で出れなくなって、その上人間は私で遊ぶだけ遊んで数日も放ったらかしにしましたし、私はこうして使い古された人形の様にしているのがお似合いなのです」

「はぁ、そんなメンヘラみたいな事言わないで下さいよ。きっとその内ここから出る方法も見つかりますって」

「はぁ、なんで入る時はすんなり入れたのに出る時は貴方の魔力に邪魔されるのでしょうか。訳が分かりません」

「はいはい。とりあえず椅子も出したんでこれに座って下さいね。あと、コーラもあげるんで元気出してください」

「はい。ありがとうございます」



 フレンダさんはそう言うと、俺が記憶を元に作り出したコーラを膝を抱えながらちびちびと飲み始めた。

 まぁ、こんな何もない部屋で一人ぼっちでいるのはかなり堪えるんだろうけれども、もう少し元気を出してくれないものだろうか。

 普段のフレンダさんは結構キリッとしているから、こうも露骨にテンションが低いと何だかやりづらい。


 それに、パンツ丸見えだし。

 いつもならパンツを見られたら「死にますか?」とか言ってくるのにこれは重症だな。



「そういえば、フレンダさんは俺がいない間は何をしてるんですか?」

「別に何も。始めの数時間は貴方とやったオセロの対局をお思い返して一人で反省会をしていますが、それも途中で飽きるので後はぼんやりしているだけです。この世界では眠りにつく事も出来ませんし」

「あぁ、そうですか」



 この世界では割と俺の思った通りに全てが動くため、記憶の中にある食べ物やオセロなどの簡単なものは産み出せるが、流石にゲーム機とか漫画まるまる一冊となるとそう上手くはいかない。

 どうやら、俺がその構造を正確に把握出来ていなかったり、記憶があやふやになっているものは作り出せないみたいである。

 できればテレビとか置いておけたらもう少し暇を潰せると思うんだけれど。



「あ、そういえば、フレンダさんはここから外の様子を把握する事は出来ないんですか?」

「まぁ、やろうと思えば出来ない事も無さそうですが、その場合は貴方の感覚の中に私が入り込むことになるので、現実的ではないでしょうね」

「ん? なんか問題でもあるんですか?」

「問題というか、貴方も私に逐一行動を把握されるのは嫌でしょう?」

「え? でも、俺がお願いすればオンオフも出来るんですよね?」

「まぁ、それはそうですけど」

「それじゃあ、別に良いですよ?」

「え? 良いんですか?」

「はい。俺が止めてくれって言った時にちゃんと止めてくれなかったら、この世界でお仕置きすれば良いですし、流石にこの世界にずっといたら頭がおかしくなりそうですからね。ていうか、精神が病んだ人を俺の中に置いておく方が怖いです」

「それじゃあ、本当に良いんですか? 貴方の魂に干渉するんですよ?」

「まぁ、またフレンダさんに何かあったら責任は取れませんけど、俺に被害がないなら別に良いです」

「はい! 確実にフーマに被害は出さないと誓いましょう!」



 近い近い。

 分かったから鼻息を荒くしながら俺の顔に近づかないでくれ。

 ローズと同じでかなり顔の造りが良いから、流石にここまで近づかれると緊張する。



「分かりました。分かりましたから、今日はとりあえず俺の質問に答えてください」

「良いでしょう。今の私はとても機嫌がいいので何でも答えてあげます」

「それじゃあ、サイクロプスについて教えてください。もうすぐ戦う事になるんで」

「サイクロプス? また珍しい魔物の名前が出てきましたね」



 現金な女フレンダさんが口元に手を当てながらそう呟いた。

 やっぱり、フレンダさんからしても珍しい魔物なのか。

 まぁ、ローズと同じ国に住んでたんだろうし、当然と言えば当然なのかもしれないが。



「はい。ローズに聞いてもあまり詳しい情報は手に入らなかったので、フレンダさんなら何か知らないかと思ったんですけど」

「あぁ、そう言う事でしたか。確かに魔族領域では滅多に見られない魔物ですから、お姉様が知らないのも無理は無いですね」

「それで、何かサイクロプスの弱点とか知りませんか? 一応俺たちが戦う予定のサイクロプスは右腕と棍棒が無いんで、1番の強みは失われたと思うんですけど」

「は? 人間は何を言ってるのですか? サイクロプスの1番の強みは棍棒なんかではありませんよ?」

「はい? リーチと物凄い質量がある棍棒が1番厄介なんじゃ無いんですか? ローズもサイクロプスの攻撃を一撃でもくらったら危ないかもって言ってましたよ?」

「ああ。全盛期のお姉様は魔物相手には基本的に何もさせずに一撃で倒していましたから、そう勘違いなさるのも無理は無いでしょうね。ただ、一目見ただけで相手の大まかなステータスを見抜くとは流石お姉様です」



 あぁ、そういえばローズは相手のステータスを見抜くスキルを持ってた気がする。

 確か、看破とかいう名前のスキルだったっけ。



「あぁ、なるほど。それで、サイクロプスの1番の強みって何なんですか?」

「そう言えば話の最中でしたね。良いですか、サイクロプスの強みはあの顔に一つだけある魔眼です」

「魔眼ってあの魔眼ですか? 見たものを石に変えたり、命令を強制的にきかせたりする」

「貴方の想像しているものとは多少違う気もしますが、(おおむ)ねそれで合っています。サイクロプスの1番厄介なところはあの魔眼です」

「でも、ユーリアくんはサイクロプスの目は魔力の流れを見る事が出来るものだって言ってましたよ? それなら確かに面倒ではあるけれど、1番の強みってほどじゃないんじゃないですか?」

「いえ、そのエルフがそう勘違いするのも無理は有りませんが、サイクロプスの魔眼の効果はその個体によって異なります。まぁ、1番多い効果は魔力の流れを見通す力と言われているのですけれどね」

「えぇ、それじゃあ戦ってみるまでは魔眼の効果が分からないって事ですか?」

「はい。そこがサイクロプスの1番厄介な点ですね」

「マジかぁ。それじゃあ作戦も考え直さないとか」



 俺の作戦はサイクロプスの魔眼の能力が魔力の流れを見通すものである事を想定したものだから、このまま進めるのはマズイかもしれない。

 仮に見たものを石に変える能力だったら絶対に上手くいかないし。



「ん? その作戦とはどの様なものなのですか?」

「簡単に説明すると、目隠しして足を止めて最後に頭って感じです」

「は? もう少し分かりやすく説明してください」

「えーっとですね……」



 そうして俺は再度サイクロプスを倒す作戦を説明する事になった。

 フレンダさんはコーラを飲みながら俺の説明を静かに聞いている。

 もう機嫌は完全に治ったみたいですね。

 そんな事を考えながら、黒板を使いつつ説明すること数分。

 俺は一通りの説明を終えた。



「とまぁ、こんな感じです」

「はぁ、随分と乱暴な作戦ですけど良いんじゃないですか? とりあえずはその作戦の通りに進めて問題無いと思います」

「でも、魔眼の効果が魔力の流れを見るものじゃない可能性もあるんですよね?」

「はい。しかし、話しておいて何ですがサイクロプスの魔眼の多くが魔力視の魔眼ですし、貴方達の置かれた状況を考えると他に出来る事も無さそうですからね。後は相手に合わせて臨機応変に対応するしかないでしょう。幸いにもお姉様も戦うみたいですし、きっと最善の指揮をとってくれるはずです」

「えぇ、何かアドバイスとか無いんですか?」

「そうですね。それでは、サイクロプスの視線には出来るだけ入らない様に心がければ良いんじゃないですか?」

「それだけ、ですか?」

「これだけです」



 フレンダさんがにっこりと微笑みながらそう言った。

 はぁ、後はサイクロプスの魔眼がもしかすると魔力視じゃないかもしれないって皆に言っとくしか出来る事は無いか。

 いつまでも洞窟の中にいたら食料も尽きるだろうし、サイクロプスが弱ってる今がチャンスと言えばチャンスなのかもしれない。



「それじゃあ、今日の所はこれで帰ります。今の話を皆にも伝えないとなんで」

「ちょ、ちょっと待ってください。外の様子を把握させて貰える話はどうなったんですか?」

「あぁ、そう言えばそうでしたね。別に今からでも良いですよ?」

「いえ、色々と準備があるので今すぐという訳にもいきませんが」

「それじゃあ、また落ち着いたら来るんで、その時にでも」

「はい! 貴方がまた来るのを楽しみにしてますね!」

「はいはい。それじゃあ、俺はもう行きますね」

「言ってらっしゃいフーマ。貴方が無事サイクロプスに勝利することを願っています」



 こうして、俺はにっこりと微笑むフレンダさんに見送られながら白い世界を後にした。


 なんか今日のフレンダさんは最終的に偉く機嫌がよかったな。

 いつも俺がここから出て行く時は、「さっさと行きなさい」とか言うのに。

 そんなに外の様子が分かる事が嬉しいのだろうか?

 まぁ、これで暇は大分改善されるんだろうけど少し不思議だ。

4月28日分です。


遅くなり申し訳ありません。

次回、ようやくサイクロプスと戦います。

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