31話 ウーパールーパー
??? エルフの里にて
「おい! これはどういう事だ! 何故巫であるお前がいながら、世界樹から出てくる魔物が一向に減らん!」
「申し訳ございませんお父様。しかし、伝承の一部が抜けている儀式では限界が、」
「言い訳をするな! お前の仕事は世界樹の贄となって魔物を封じる事だろう!」
「はっ、心得ております」
「ちっ、もういい! 下がれ!」
「失礼いたします」
俺の義理の娘であるトウカはそう言って頭を下げた後、俺の居室から出て行った。
全く、あの忌々しい女の娘なだけあってトウカは全く使い物にならない。
トウカの弟のユーリアは世界各国の視察という名目で里から追い出したが、いくら巫の力を引き継いだのがあの小娘だとは言え、早々に殺しておかなかったのは失敗だったかもしれない。
「クソっ! 俺の娘がトウカよりも先に産まれていれば、こうはならなかっただろうに」
俺の娘のターニャが先に巫として産まれていれば、魔物が世界樹から溢れ出す様な事態は防げたはずだ。
ターニャは勇者様の血を色濃く受け継いだ里で唯一の黒髪のエルフだし、あの娘が巫になってさえいれば全て丸く収まっていたと思う。
おそらくトウカを殺せば巫の力がターニャに引き継がれるとは思うのだが、古代の文献の多くが失われているため確証が持てない。
「ふん。まぁ今はまだそれはいい。問題はこれ以上強力な魔物が世界樹から出て来た場合だが、やはりあの魔族に頼るしかないのか」
「オーホッホッホ! 呼びましたの?」
「ちっ。いつも突然現れるなと言ってるだろ」
「オホホ。こうして他人がいない時を狙って出て来てるんだから良いじゃありませんの」
「そういう事を言ってるんじゃない」
「オホホ。それで、心は決まりましたの?」
「ああ。非常に業腹だが、お前の提案とやらに乗ってやろう」
「オホホホ。それはそれは、きっと貴方様は里を救った英雄として後世に名を残すでしょうね」
「ふん。それじゃあ早速動くぞ。これ以上里に被害を出すわけにはいかん」
「オホホ。貴方様の仰せのままに」
そうして俺は、世界樹から湧き出てくる魔物の被害を抑えるために、この金髪の髪をアホみたいな巻き毛にした魔族の女と手を組む事にした。
こいつは何を考えているのか分からないやつだが、互いに利用してやろうと思っているのは変わらない。
今俺がやるべきは、この里を父上の生きていた時代の様に平和に治める事だ。
その為には例え父上の仇である魔族だろうが悪魔だろうが、使えるものは何でも使わなくてはならないのである。
「オホホホ。面白くなってきましたわ」
「……」
俺は後ろでオホホと煩い女を無視しながら、宮殿の長い廊下を歩いた。
◇◆◇
風舞 グラズス山脈近郊の村の宿の一室にて
ユーリアくんやファルゴさん達と出会った村を出て、馬車に揺られる事およそ2週間。
俺達はグラズス山脈に入る前の最後の村に、近頃の旅の疲れを癒す為に昨日から滞在していた。
グラズス山脈に近づくにつれて現れる魔物の数が増え、強力な魔物も少しずつ現れる様になってきている為、ここ数日はほとんど戦闘続きでそこそこに疲れも溜まってきているのである。
おそらくこれ以降は、エルフの里に入るまでこうしてゆっくりと休める事はないだろうし、ここでしっかりとリフレッシュしておこう。
「そう言えば、村の規模はかなり小さいけど、塀のつくりは結構丈夫そうだよな」
「そうね。ここは山脈が近いから、魔物から身を守る為にあの塀は必須だったんでしょうね。それでも、近頃の魔物の騒ぎで南の方に避難する人も結構いるみたいだけど」
舞が言うように、この村の表通りはお昼時であるにもかかわらず閑散としている。
建ち並ぶ建物も殆どがドアと窓が閉じられているし、そもそもこの村で現在暮らしている人が少ないみたいだ。
俺達が昨日から泊まっているこの宿の亭主のおっさんも、俺達が明日の朝ここを出発したら親戚の住むソレイドに避難すると言っていたし、ここらの村の多くの人々が南へと疎開しているようである。
「妾達がソレイドを出て20日以上経っておるが、状況は思っておったよりも厳しくなってきているんじゃろう」
「ああ。道中の魔物も結構手強いのがいたし、ここらに住む人にとってはかなり大きな災害なんだろうな」
「うむ。これは妾達も足元をすくわれん様に気を引き締めねばならんの。……ところで、お主らは何をやっておるんじゃ?」
シングルベッドの上で、あぐらをかいていたローズが俺と舞の様子を見てそう言った。
今回の部屋割りだが、俺と舞とローズは今回も3人部屋で、ファルゴさんと団長さんで一部屋、ユーリアくんは優雅に一人部屋を借りている。
因みに、俺達の3人部屋のベッドはシングルサイズの物が3つ横並びに置かれていた。
やっぱりこれが普通だよな。
ここに来るまでに立ち寄った村や街の宿はどこもこういう一人用のベッドが3つ並んでただけだし、結局キングサイズのベッドはあのイケメン亭主のいる露天風呂が自慢の宿にしかなかった。
あのイケメン亭主は何を思って俺達3人をキングサイズのベッドがある部屋に案内したのだろうか。
ジャミーさんが言うには、シングルサイズのベッドが3つ置いてある部屋も普通にあったらしいし、割と謎だ。
ってそうじゃなくて、今はローズに質問されてるんだったか。
でも、馬車に乗っている間にも結構やってたし、ローズも俺達が何をやってるか知ってると思うんだけど。
「何って、いつも通りの魔力操作と魔力感知の訓練だろ?」
「いや、それは分かっておるんじゃが、マイムのあの変なポーズは何じゃ?」
「あら、ミレンちゃんには分からないのかしら?」
舞が脚をがに股に開いて首元で両手をわちゃわちゃと動かしながらそう言った。
舞が何のポーズを取っているのかは俺にも分からないが、俺と舞が今やっていたのは魔力感知と魔力操作を使ったジェスチャーゲームである。
ルールは至ってシンプルで、舞の出題するジェスチャーゲームの答えを、俺が魔力操作を使って魔力でオブジェを成形して答えて、舞が俺が魔力で作った物を感知して正解かどうか判定するという至極簡単なものだ。
ただ、ルールが簡単であるのにも関わらず、さっきから舞が何のジェスチャーをしているのか俺には全く分からない。
魔力操作で答えを表現しようにも、まず舞の問題の難易度が高すぎて何を作れば良いのか分からないのである。
「すまぬが、妾には全く見当がつかぬ」
「あら、それじゃあこの世界にはいない生き物である可能性があるわね。フーマくんは長らく考えていたみたいだけど、勿論分かるわよね」
えぇ、「ほら、勿体ぶって無いで早く言ってちょうだい!」みたいな顔をされても全く分からないんですけど。
どうせ、またポケ◯ンの何かだろうと思ってたけど、舞の口ぶり的に実在する生物みたいだし、ますます分からなくなってきた。
自然界にはそんな気持ち悪い動きをする生物はいないと思うんだが。
そんな感じで舞の出題するジェスチャーゲームの答えが全く分からない俺は、とりあえず頭の上に魔力で『?』を浮かべておいた。
一応魔力感知と魔力操作の訓練だし。
「えぇ!? あんなに有名な生き物なのに、本当にフーマくんは分からないのかしら!?」
YES
「社会現象にもなった有名な生き物よ? 正式名称はメキシコサンショウウオと言うわ。ほら、ここまで言えば流石に分かるでしょう?」
まぁ、舞がガニ股でモノマネをする時は大抵両生類とか爬虫類の生き物の時だけなんだけど、メキシコサンショウウオなんて聞いたことないぞ。
ていうか、メキシコサンショウウオが本名ってそれが答えじゃないのか?
A,メキシコサンショウウオ
「いやいや、私が求めてる答えはそれじゃないわ。ほら、フーマくんならきっと知ってるはずよ。とあるカップ焼きそばのCMにも使われたあの癒し系の生き物よ」
(´・∀・`)サァ?
「もう! 何で分からないのよ! 真面目にやってちょうだい!」
えぇ、そうは言うけど全く分からないんですけど。
サンショウウオなんてカップ焼きそばのCMに使われてたか?
もしかすると、舞の家だけ違うチャンネルが映ってたんじゃないか?
確か舞の家は結構なお金持ちだったはずだし。
そんな事を思いながら、尚もガニ股で何かの生物のモノマネを必死にやる舞を眺めていると、ローズが俺の真似をして魔力操作で顔文字を作り始めた。
数日前に俺も魔力感知を覚えた為、ローズが魔力を操っているのが分かるのである。
まぁ、ここまで魔力を操ってれば感知だって覚えもするよね。
(・ー・)
「む、思ったよりも難しいの」
「最初に頭の中でイメージを固めてから一気に作り上げると上手くいくぞ。ほら、」
(*´∀`)
「おお、見事なもんじゃな。やはりフーマは魔力に関する事はかなりの才能がある様じゃの」
「別にこんくらい大した事無いだろ。多分ミレンも練習すれば出来ると思うぞ」
「ふむ。使い所があるか分からんが色々試してみると面白いかもしれんの」
そう言ったローズがベッドの上から降りて、椅子に座っていた俺の膝の上に腰掛けてきた。
俺は胸に頭を擦り付けて甘えてくるローズの頭を何となく撫でてやる。
なんか最近、ローズの頭を撫でてるとほっこりするんだよな。
舞が普段ローズを後ろから抱きしめて耳をコリコリしてるのが分かる気がする。
「ふふ」
「ん? どうかしたか?」
「いや、何でもないのじゃ」
おお、可愛い奴め。
どれどれ、もっと頭を撫でてやろう。
そう思ってローズの頭をもう少し撫でてしてやろうとしたその時、こちらをジッと見ていた舞とたまたま目が合った。
あ、やべ。
すごい涙目になってる。
「えーっと。カモン?」
「もう! フーマくんとミレンちゃんの馬鹿ぁぁぁ!!」
そう言った舞が、さっきの謎の生き物のモノマネをしながら部屋から出て行った。
ああ、舞はまだ魔力操作を覚えてなかったし、俺とローズが顔文字で楽しそうに遊んでるのが羨ましかったのか。
流石に、俺がローズの頭を撫でてやったから怒って部屋から出て行ったという訳では無いと思う。
多分。
「結局、マイムのあのモノマネの答えは何だったんじゃ?」
「さぁ?」
そうして残された俺とローズは舞が出て行った開けっ放しの部屋のドアを眺めながら、2人揃って首を傾げていた。
4月24日分です。
因みに、舞のジェスチャーゲームの答えはサブタイトルにもある様にウーパールーパーです。