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29話 キスコール

 風舞




 以前から思っていた事だが、俺とファルゴさんはよく似ている。

 俺もファルゴさんも、片手剣使いだし、何より自分の好きな女性よりも弱くていつも守られる立場だ。

 この前の決闘で俺は舞に勝ったけれど、あれはまぐれみたいなものだし、今からもう一度戦ったら今度は手も足も出ずに負けるだろう。


 まぁ、それはともかく。

 ユーリアくんに聞いたところによると、ファルゴさんたち3人はセイレール村に残って付近の魔物の討伐をするように団長さんに命じられたそうだ。

 グラズス山脈にいる魔物がファルゴさんでも敵うか怪しいくらいの強さだとは俺も思ってもいなかったが、団長さんは団員の安全を第一に考えてそう判断したらしい。


 もしも仮に、俺が今回は危険だから付いてこないでくれと舞に言われたら、どう思うだろうか。

 そう考えたら、俺は大きなお世話だとは分かっていても、ファルゴさんとシェリーさんの関係に口を挟まずにはいられなかった。

 まぁ、明日は我が身って言うぐらいだしな。



「すみませんファルゴさん。今ちょっと良いですか?」

「ああ、フーマか。その、今朝は悪かったな」

「別にあれくらいの事気にしてませんよ」

「そうか。それで、何か話があるんじゃないのか?」

「あぁ、はい。その、今から俺に剣の稽古をつけてくれませんか? 出来れば実践形式で」



 俺はそう言いながら剣をスラリと抜き放った。


 今回俺が立てた作戦は至ってシンプルだ。

 ファルゴさんに俺の護衛をする依頼を出す。

 ただそれだけである。


 その為にはまず俺がファルゴさんよりも弱いと証明する必要があるわけだが。

 まぁ、普通にやったら俺が負けるはずだ。

 多分。



「は? 何で俺がお前に稽古をつけるんだ? お前はシェリーとミレンの戦いに割って入れるぐらいなんだから、俺よりも普通に強いだろ」



 少しだけ苛立たし気な顔でそう言うファルゴさん。

 そうか。

 俺自身もファルゴさんがシェリーさんに付いて行きたいって言えない原因の一つになってたのか。



「それはファルゴさんの勘違いですよ。あの時俺が2人に割って入れたのはただ運が良かっただけですし、同じ事をもう一度やれと言われても出来ないと思います」

「そうは言うが、俺にはフーマに教えられることなんて何もないぞ。俺に稽古をつけさせたって時間の無駄だろ」

「そこを何とかお願いします。旅の前の餞別だと思って俺に剣を教えてください」



 俺は頭を下げて誠心誠意お願いをした。

 これでファルゴさんに断られたらもう打つ手なしだが、彼なら多分のってくれるはずだ。 

 何せ、ファルゴさんは超お人好しだし。



「はぁ、分かった。分かったから頭を上げてくれ。つけてやるよ、稽古」

「本当ですか?」

「ああ、やれば良いんだろ」



 ほら、少し面倒臭そうな顔をしてるけど、やっぱりファルゴさんは受け入れてくれた。

 よし、ここまで来たら後は全力で戦うだけだな。

 後はファルゴさんが俺に勝てば、それで済む話だ。

 団長さんは空いている団員がいればどんな依頼でも受けるって言ってたし、きっと俺の護衛依頼も受けてくれると思う。



「それじゃあ、本気で行くんで死なないで下さいね」

「ふん。その自信をへし折ってやる」



 ファルゴさんが俺の挑発に軽く笑みを浮かべながらそう言ったのを見て、俺は炎の魔剣と片手剣をしっかりと構えながら一気に距離を詰めた。

 そろそろ出発の時間も差し掛かかってるし、今回は短期決戦で勝負させてもらおう。


 俺はそんな思考を頭の隅に追いやりながら、直感の(おもむ)くままに片手剣をファルゴさんの首元を狙って勢いよく切り上げた。



「なっ!?」



 ファルゴさんが俺の殺気の乗った攻撃を見て驚いた声を上げた。

 しかし、彼はその経験の多さからか、俺の攻撃をワンテンポ遅れながらもなんとか避けて、頰に傷をつける程度の被害に抑える。


 だが、俺の攻撃はまだ終わってはいない。

 俺は片手剣を張り上げた体勢のまま、炎の魔剣の切っ先をファルゴさんに向けて一気に魔力を流し込んだ。

 ローズと舞には効かなかったが、焦った顔をしているファルゴさんならどうだ。



「ちっ、舐めるな!」



 ズバッシャン!!



 はぁ、超強いじゃん。


 俺はそんな事を考えながら、水魔法のアッパーで吹っ飛ばされた。


 水魔法で手を包みながら炎の魔剣を弾いて、そのままウォーターボールを打ってくるなんて、わかってても避けられないじゃんね。


 ていうか、ローズはともかく舞も手加減してたから反撃をしてこなかっただけで、この片手剣での斬撃からの炎の魔剣の刺突のコンボは、隙だらけなだけで大して強くない気がしてきた。



「やべ、加減し損ねた」



 そんなファルゴさんの言葉を聞いた後、地面に直撃した俺は気を失った。




 ◇◆◇




 風舞




「ん、んんっ」

「あ、起きたのねフーマくん」

「ああ。顔が超痛い」

「そりゃあそうよ。何たってファルゴさんの水魔法を顔面にもろに食らったんですもの」

「あぁ、そういえばそうだったな」


 そう言って痛む顔を押さえながらゆっくりと寝かされていた宿屋のキングサイズのベッドから起き上がると、セイレール騎士団の皆さんと舞とローズ、それにユーリアくんが勢揃いして俺の様子を(うかが)っていた。

 1人だけ団長さんの陰に隠れて、俺と目を合わせないようにしている丸眼鏡の女性がいるが、今は置いておいて良いだろう。


 それよりも、今はファルゴさんと団長さんの2人と話をする時間だ。

 そう考えてファルゴさんの方を向くと、彼の方から俺に声をかけて来た。



「悪いフーマ。つい本気で魔法を打っちまった」

「別にファルゴさんが謝る事じゃありませんよ。俺が稽古をつけてくれって言ったんですから、気にしないでください」

「そうか」



 ファルゴさんが少しだけ気まずそうな顔でそう言った。

 俺はそんなファルゴさんから視線をずらして、今度は団長さんと目を合わせる。



「そういえば団長さん。一つだけ依頼があったのを思い出したんで、聞いてもらっても良いですか?」

「ん? まぁ、とりあえず聞いてやるから依頼内容を言ってみろ」

「分かりました。今回俺が依頼したいのは、俺がここから世界樹ユグドラシルまで行って、またセイレール村に戻るまでの俺の護衛です。どうやらミレンやユーリアくんの話だと、グラズス山脈にはかなり強い魔物がいるみたいなんで、あんまり強くない俺には少し不安なんですよね」

「あぁ、そういう事なら道中私がお前を守ってやるから心配すんな。まぁ、ミレンやマイム達もいるし、私の出番は無いかもしれないけどな」

「いやいや、流石に団長さんやマイムに四六時中守ってもらうのは、用を足しに行く時とか凄い恥ずかしいんで、出来れば男性の方に護衛をお願いしたいんですけど」

「それなら、ユーリアがいるじゃねぇか。どうせそこのエルフも結構強いんだろ?」

「まぁ、僕もそれなりに戦う力を持ってるけど、僕は力加減が苦手だから魔物が現れたらフーマも一緒に吹っ飛ばしちゃうと思うよ」



 ナイス、ユーリアくん。

 ユーリアくんなら俺の意図を察してそう言ってくれると思ってたぞ。

 後で彼には俺の渾身の一発ギャグを披露してやろう。



「って事なんで、俺としてはファルゴさんに道中の護衛をしてもらいたいんですけど、駄目ですかね?」

「おい、ちょっと待てフーマ。俺にはお前を守り通せるだけの力なんて無いぞ」

「え? でも、俺よりもファルゴさんの方が強いじゃないですか。団長さんはセイレール騎士団は空いてる人がいれば、どんな依頼でも受けてくれるって言ってたんですけど、ファルゴさんは受けてくれないんですか?」

「そう言う事を言ってるんじゃねぇ! 俺じゃあお前らの足手まといになるから、無理だって言ってるんだ!」



 ファルゴさんが完全に怒った顔でそう言った。

 ぽっと出の俺なんかに、こうして踏み込んだ話をされたら怒るのも当然か。

 でも、俺はファルゴさんと団長さんの関係に首を突っ込むと決めた時には、こうなる事も覚悟していた。

 今更ここで引き下がる訳にはいかないだろう。


 そう思って、再び口を開こうとしたその時、俺よりも先に団長さんが言葉を発した。

 彼女の顔は今までに見た事がないぐらいに怒りに染まっている。



「おい、ファルゴ。テメェはそんな事を思ってたのか?」

「シェ、シェリー?」

「もう一度聞くぞ。テメェはフーマの依頼を受けたら私の足手まといになるって、本気で思ってるのか?」

「あ、ああ。俺にはお前達の旅に同行するだけの力が無ぇ。そんな俺がのこのこ付いて行った所で、足手まといになるだ…」

「歯ァ食い縛れ!!」



 勢いよく椅子から立ち上がってファルゴさんの言葉を遮りながらそう言った団長さんは、俯いて悔しそうな顔をしていたファルゴさんを殴り飛ばした。

 殴られたファルゴさんはそのまま壁を突き破って、外の通りへと吹っ飛んで行く。


 団長さんはそうして空いた2階の穴から飛び降りてファルゴさんに近付きつつ、話を続けた。



「良いかファルゴ。私にとってうちの騎士団に足手まといになる奴なんて1人もいねぇ。確かに私の方がお前よりも戦闘能力が高いが、それがどうした。私に告白した時にお前は一生私の隣に立ち続けるって言ったよな。お前はあの話が嘘だったとでも言うのか?」

「い、いや、そういう訳じゃねぇよ。でも、実際問題俺が付いて行った所で出来る事は何も無ぇだろ。お前もそう思ったから、俺達を置いて1人でフーマ達に付いてくって行ったんじゃねぇのかよ」

「あぁ、そうだ。でも、それとこれとは話が違ぇだろうが!」

「ちっ、何言ってんのか訳分かんねぇよ!」



 ファルゴさんが立ち上がりながらそう叫んで、腰に差していた剣を一気に引き抜いた。


 ヤバイな。

 まさか団長さんとファルゴさんが喧嘩をする事になるとは予想していなかった。

 これじゃあ、仲を取り持つどころか、関係を悪化させてるんじゃ無いか?

 流石にこれは止めないとマズい気がする。


 そう思って俺も剣を引き抜いて彼らを止めに行こうとしたその時、俺はジャミーさんに肩を掴まれて引き止められた。



「頼むフーマ。もう少しだけ待ってくれ」

「でも、事の発端の俺が言うのもなんですけど、流石にこのままじゃマズいですよ」

「分かってる。分かってはいるが、これはあの二人にとって重要な事である気がするんだ」



 ジャミーさんが宿の外で睨み合う二人を見ながら、真面目な顔でそう言った。

 あの二人をいつも傍で見てきたジャミーさんがそう言うのなら、俺にはただあの2人の行方を見守る事しか出来ないが、こんな事態を引き起こした俺が何もしないっていうのもどうかと思うし、何か自分に出来る事を見つけなくてはならない気がする。


 そう思って俺が頭を回している間にも、ファルゴさんと団長さんの話は続いた。



「私にだって分かんねぇよ! でもな、頼むから自分が足手まといだなんて言わないでくれよ!」

「うるせぇ! お前に俺の気持ちの何が分かる! 俺がいつもどんな気持ちでお前が危険な依頼に行くのを見送ってたのか、お前には分かるか!」

「そんなん知るか! 私はただお前が傷つくのが嫌で、お前を危険な依頼から遠ざけてただけだ!」

「俺だってお前が傷つくのは嫌に決まってんだろ! いつもいつも危ない事は1人で突っ走りやがって、少しは残される俺たちの気持ちも考えろよ!」

「そんな事言ったって、私がやらなきゃ誰がやるってんだよ!」

「少しは俺たちにも頼れって言ってんだよこの脳筋女!」

「んだとゴラァ!! 私にボコられて泣いてたチビの癖に、偉そうな口叩くんじゃねぇよ!」

「はぁ!? 今は俺の方が背が高ぇだろうが!」



 あれ?

 なんか、気がついたら痴話喧嘩になって来てないか?

 まぁ、ギスギスした喧嘩よりはこっちの方がまだマシなんだろうけど、流石に人様の往来でこれを続けるのはマズいだろうし、そろそろ止めに行っても良いよな。

 ジャミーさんも頭を抱えて呆れた顔をしてるし、多分それで良い気がする。


 そう思って今度こそ俺が2人を止めに行こうとしたその時、いつの間にか移動していた舞がファルゴさんと団長さんの間に立って、片方には両手剣の切っ先を向けて、もう片方には左手の平を向けていた。

 舞の左手の平の前では、雷の球がバチバチと激しく音を立てている。


 あれ?

 もしかして俺の出番無い?



「双方そこまでよ」

「うるせぇ! 部外者は引っ込んでろ!」

「そうだ! これは俺とシェリーの問題なんだ! マイムは隅で大人しくしてろ!」

「黙らっしゃい! シェリーさん、それ以上騒いだらファルゴさんの頭を斬りとばすわよ」



 あ、舞のあのもの凄く怖い笑顔久し振りに見た。

 俺の視界の隅でローズが思い出しブルリしてるくらいだし、あの笑顔すげぇ怖いんだよな。

 その証拠に、後ろ姿しか見えないけど団長さんがみるみる大人しくなっていくのが分かる。



「おい! 聞いてんのか!」

「ファルゴさんも、それ以上騒いだらシェリーさんを丸焦げにするわよ」

「あ、はい。すみません」

「よろしい。それじゃあ、2人とも並んで正座しなさい」

「な、何を?」「誰がそんな事するか!」

「せ、い、ざ」

「「はい」」


 わお、もうあの2人の喧嘩を止めちゃったよ。

 ていうか、大人2人を沢山の人が見てる中で正座させるって、どうやったら出来るんだよ。

 舞のお説教能力高すぎだろ。



「さて、まずはシェリーさん。貴女はファルゴさんが大好き。間違い無いわね?」

「は? お前は急に何を言い出す…」

「間違い無いわね?」

「あ、ああ」



 うわぁ、あれ何の拷問だよ。

 団長さんの顔真っ赤になっちゃってんじゃん。



「よろしい。次にファルゴさん。貴方もシェリーさんの事が大好きね?」

「お、俺は…」

「大好きよね?」

「はい。俺はシェリーの事が大好きです」

「ば、バカ野郎。お前、そんなシャバい事言うなよ」



 あ、団長さんがいつぞやの様にクネクネし始めた。

 これであの2人の喧嘩はもう完全に収まったみたいだけど、この後どうするんだ?

 そう思いながらあの3人の経緯(いきさつ)を見守っていると、舞がとんでもない事を口走り始めた。



「よろしい。それじゃあキスしなさい」

「「は?」」

「聞こえなかったかしら? キスよ、キス。恋人同士が喧嘩したら、その仲直りにキスするのが当たり前でしょう?」



 え? そうなの?

 もしかしてこの世界ではそれが普通……じゃ、無いのか。

 俺と目があったローズが首を横に振ってるし。



「ば、馬鹿野郎! そんな事人前で出来るか!」

「そうだ! そういうのはもっとロマンチックなシチュエーションでやるもんなんだよ! 小娘風情が粋がるなよ!」

「あら、その小娘風情も呆れる様な理由で喧嘩をしていたのはどこの誰だったかしら?」

「そ、それは…」

「そうは言うけど、それとこれとは別だろ!」



 俺も団長さんの言う通りだと思うぞ。

 喧嘩とキスは何か全然関係ない気がする。



「はぁ、全く困った大人たちね。良いかしら? 貴方達2人は互いの事が何よりも大事で、お互いに怪我をして欲しくないと思っている。それなら、シェリーさんは常にファルゴさんと一緒にいて、彼の事を常に守り通しなさい」

「お前みたいなガキには分かんねぇだろうが、大人には大人の事情ってもんが…」

「そんなん知ったこっちゃ無いわ! 愛さえあれば、そんなのどうとでもなる筈よ! それとも、シェリーさんのファルゴさんを想う気持ちはその程度のものなのかしら?」

「そんな訳ねぇだろ! 私はファルゴを世界で一番愛している! ファルゴを守り通すくらい何て事ねぇよ!」

「それじゃあそうしなさい。次にファルゴさん。貴方は何をクヨクヨしているのかしら? 自分がシェリーさんよりも弱いから足手まといになるですって? 甘えるんじゃ無いわよ! フーマくんは今はまだ私よりも戦闘能力が低いけれど、それでも今まで何度も私の事を命がけで守ってくれたわよ! フーマくんの先輩面するくらいなら、もっとシャンとなさい!」



 えぇ、俺を引き合い出さないでくれよ。

 朝鳥の泊まり木の2階に空いた穴から様子を見ていた俺を、沢山の人が一斉に見てきてすげぇ恥ずかしいんですけど。



「は、はい。分かりました」

「よろしい。それじゃあ、改めてキスしなさい。この話はそれでおしまいよ」

「い、いや、だから流石にそれは、なぁ?」

「ああ。こんなに沢山の人に見られてる中で、そんな事するのは流石に…」

「あら、さっき貴方達が言ってた事は嘘だったのね。2人の愛がその程度だったなんてガッカリだわ」



 もう止めたれよ。

 2人とも顔真っ赤にして、凄いモジモジしてんじゃん。


 っておいおい。

 村の皆さんもなんで「キース。キース」ってコール始めちゃってるんですか?

 壁に穴を開けられた宿のイケメン亭主まで奥さんと一緒に宿の前に立って、「キース」って手拍子しながら楽しそうに言ってるし、この村の人はみんなそうなのか?



「わ、わかった! すれば良いんだろすれば!」

「お、おう! ちゃっとやってすぐに終わらせちまおうぜ!」

「あ、ああ。行くぞシェリー」

「お、おう」



 あ、団長さんがそう言って目を閉じて顔を上げた。

 こっからでも、耳まで彼女の髪の毛と同じくらい真っ赤になってるのが見える。

 その団長さんの肩を掴んで、ファルゴさんがそっと顔を近づけて行く。



「クソ! あのクソ野郎を私に殺させなさい!」

「まぁ、待て。今良いところなんだから、ネーシャは少し大人しくしててくれ」

「いやぁ、青春だねぇ」



 俺の後ろで3人がそんな事を話している間にも、ファルゴさんは目を瞑って団長さんの唇に自分の唇を近づけ、そっと優しいキスをした。

 その瞬間、町中にワッと歓声が巻き起こる。



「良いぞ、赤髪のカップル! 幸せになれよ!」

「ヒューヒュー。若いって良いねぇ!」

「何かよく分かんないけど、2人で力を合わせて頑張れよ!」



 そんな歓声の最中(さなか)で、舞が一際大きな声を上げて火魔法を空に向かって放った。



「世界で一番ラブラブなこの赤髪のカップルに祝福を!!」


「「「「祝福を!!!」」」」



 舞の合図に応える様に、町のみんなが打ち合わせも何もしていないはずなのに、声を揃えてそう言った。

 ファルゴさんと団長さんはその騒ぎの中で照れ照れと頭をかきながらも寄り添い、幸せそうな雰囲気を醸し出している。

 舞はその2人を満足げに見てウンウンと頷いた後で、俺の方へ振り返ってドヤ顔でピースサインを向けてきた。



「何だこれ」

「全くじゃ」



 一方、途中からついて行けなくなっていた俺とローズは、取り敢えず拍手をしながらもポカンとした表情で幸せそうなファルゴさんとシェリーさんを眺めていた。

 まぁ、ハッピーエンドみたいだし、これはこれで良いか。

 俺はそんな事を思いながら、なんだかアホらしくなってきて真面目に考えるのを止めた。

4月22日分です。


次回、ようやく出発します。

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