家に辿り着くまでが部活
17時30分のチャイムがなった。もうほとんどの生徒は校門を出た頃だろう。
「、、もう行かないとね、、」
僕は目の前にいる彩音と顔を見合わせた。
「、、行こうか」
彩音はそう言うとため息をつき、階段に向かって歩き出した。
1、2年生の昇降口は、どちらもこの階段の下にある。せめて別々の場所にあれば良かったものを。結局彩音と一緒に帰ることになるのか。
「、、なんであんたのせいで友達に置いてかれないといけない訳?」
彩音がぶつくさ言うのを聞き流しながら、靴を履き替え、中庭を通って、校門へ向かう。中庭はサルスベリの並木道になっているが、今は裸の木々の、細々としたシルエットがそびえるだけだ。冷たくなってきた風が、道端の落葉をかさかさと騒がせている。
門の前には、校外に出るだけ出てたむろっている吹部の群れがいた。さっきの先輩二人の姿も見える。
「あ、やっぱ置いてかれてないみたいだよ、彩音」
僕がそう言って部員の方を指すと、彼らは門の脇にスッと隠れた。
「なるほどね、、」彩音がつぶやく。
「え、何?」
「いや、あいつら私達が一緒に帰るのを見届けようとしてんだよ」
(まじか、、、)
僕は絶句した。皆もっと他に何かやることはないのか。
「ふん、、上等よ、、」
「え、どうした彩音」
「奏、絶対に奴らをついてこさせちゃ駄目よ。裏道を使いまくって撒いてやろう」
「あーオッケー」
声を落として家までの道のりを確認すると、僕たちは早足で歩き出し、門を通った。
しかしさっきまでいた部員達の姿はない。いや、よく探すと電信柱の後ろや茂みの向こう側に人影が見えるが、彩音に倣って無視する。
いつもならまっすぐ進むところを、左の道に入ると、あちこちからどよどよとざわめきが起こった。
彩音の方を見ると、得意げな顔をして右を指差している。
僕たちは小走りになって、T字路を右に曲がった。C中の生徒達も多く住んでいる住宅街にさしかかる。
同じような家が並ぶ中を彩音と決めたとおりに、右に左に曲がっていく。通り過ぎた道の方から僕たちを探す声が聞こえた。
「おーいどこいったー」
「うわ、逃げられた、、」
「そっちいたー?」
それに追われるように、僕たちは走るスピードをはやめた。
小さな畑に沿って曲がり、小径を抜けると、車の通る広い道に出た。学校の前に戻って来たのだ。
後ろを向いたが、さすがに追ってきている部員はいなかった。
「やったね」
「うん、ざまーみろ」
彩音は住宅街の方に目をやり、満足げな笑みを浮かべた。
僕たちはさっきとは反対側の道を歩き出した。こっちの道は遠回りなのであまり使わないが、校門からはどっちに曲がっても帰れるのだ。