歓迎と、ちょっとした罠
部員達の流れの中に入り込み、僕も音楽室を出た。
廊下の電気も既に消えていた。窓の外から入る信号機の光で、教室の窓が赤や緑に照らされている。
時計を見ると17時25分だった。11月ということもありもう外は暗い。
こんな時間まで学校にいたのは、初めてかもしれないな。
すっかり雰囲気の変わった校舎を眺めていると、後ろからばたばたと廊下を走ってくる足音が聞こえた。
「ひびきくーん!」
聞いたことのない声だ。振り返ると、ウェーブのかかった長い髪で目の前が覆い尽くされた。
ふわっと良い匂いがしたかと思うと、声の主は目の前に飛び込んできた。
(、、、、?)
思わず後ろにのけぞると、後ろからさらに2人やってくるのが見えた。1人は彩音だった。他の2人もどうやら2年生の先輩のようだ。
一体なんだろうと声も出せずに突っ立っていると、最初にやって来た先輩が口を開いた。
「かわいー!」
(え、何が、、僕が、、?)
訳が分からずにいると、先輩はキャーキャー騒ぎながら急に僕の手を握った。
「な、なんですか!?」
混乱しながらも、握られた手から顔にかけてどんどん火照っていくのを感じる。女子の手なんて今まで握ったことがなかったのだ。
「あ、誰だって感じだよねごめん!」
「、、、」
驚いて言葉も出ない。しかし2人の顔を改めて見ると、もちろん知り合いではなかったが、どこかで見たことのあるような気がした。
(、、なんだったかな、、)
「アヤネ、私達のこと紹介して!」
先輩はパッと手を離し、彩音の方に向き直った。僕はまだ少しドキドキしているのを抑えながら、一歩下がって3人の方を向いた。
彩音はため息をつきながら、飛び込んできた方の先輩を指さして言った。
「これはパーカスの矢吹 小夜」
「よろしく!」
「でこっちはフルートの叉川 雪」
「そう!ウチのアヤネがお世話になってます~」
「おい、それはおかしいだろ」
彩音がすかさずツッコむ。
なるほど、友達の弟が入ってきてテンションが上がっているわけだ。
(多分この2人は彩音と一緒に写真に写っているのを見たんだろうな、、、)僕は勝手に納得した。
「さ、もういいでしょ、帰るよ」彩音がため息をつき踵を返したが、2人の先輩がそこに立ちはだかる。
「えー弟を置いて帰るの?お姉ちゃん」
「え」
(え、、、?)
「同じ家に住んでるだからそりゃ一緒に帰るでしょ!」
「いやいやいやいや」
なんだか雲行きが怪しくなってきたので、僕も恐る恐る口を開いた。
「あの、僕一人で帰りますよ、、」
「いやだめ。姉弟なのに納得いかない。ねえ彩音」
「ずいぶん勝手なこと言うな」
「じゃあ私達は帰るからね?あとは姉弟水入らずで!バイバイ~」
「え!?ちょっと待ってよ、おい!!」
彩音が呼びかけるが、2人は来たときのように猛ダッシュで階段の方ヘ消えていった。
(、、あの2人はこの為に来たのか、、、)
一緒のパートで練習させるだけでは飽き足らず(あの場合は副部長2人のせいだが)、姉弟で一緒に帰れというのか。
僕と彩音の2人しか残っていない廊下に、先輩達の足音と見回りの先生の声が響いた。
「おい叉川、矢吹、急ぐのはそうだが走るなー」
「すいません先生!」
「すいませーん」