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poco a poco  作者: 舞音
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ド素人のためのメソッド

唇でマウスピースを震わせ、楽器に息を入れて音を出す。

彩音がこんなに簡単そうにやっていることが、なんでこんなに出来ないのだろう。


僕は力なくマウスピースを持っていた手を下ろした。膝の上には金色のユーフォニアム。細管でユーフォの中では軽めの楽器だというが、ずっしりと重みが来る。

前彩音が持っていたカタログを見たが、こういうユーフォだと50~60万はするらしい。そう思うと余計に重く感じた。

隣に座る彩音は、銀色のユーフォを抱えている。マウスピースを口に当てて軽く震わせた後、楽器にはめて音を出した。

豊かな低音が反響し、教室がジリジリと鳴った。


(なるほど、ああやればいいのか)


僕は再びマウスピースを口に当て、息を入れた。

しかしスーっという音がするだけで、全く震動しない。


ムキになってマウスピースを吹き鳴らしていると、だんだん頭がクラクラしてきた。 

息はそのまま管を抜けていくばかりで、何の手応えもなかった。


僕が途方にくれていると、彩音が肩をすくめながら言った。

「違う違う、唇をこう、ぶるるるってやんの。こう」


「、、こう?」


「違う」


「えー、、こう?」


「あーまあそんなような感じ」


「うーん、、、」


簡単だとは思っていなかったけど、まさか音出す前の段階で挫折しそうになるとは、、


「、、これ、、割と初心者でも出来るもの?」


「まあ出来る人もいるけどさ」


「まだ出来なくても、、大丈夫だよね?」


「うん、、けど私の弟が入ってきたって期待してる部員も沢山いるから、ガッカリされる前に初心者で戦力外だってことをアピールしないとね、、」


「、、彩音が吹奏楽部入ってなければもうちょいやりやすかったのに、、」


「何だと!私が吹部じゃなきゃそもそも吹奏楽に関心すら持たなかったんじゃないの」


「違う違う、僕はね、学発で聴いたあの演奏がいいなーと思って入ることにしたの、彩音は関係ない」


「私だってその中で吹いてたし」


「いやでもね、ラッパのソロが凄い良かったんだよ。あれが僕の中で決め手になったの。彩音は関係ない」


「、、ラッパね、、ああ、、何よ、私のユーフォをちゃんと聴いときなさいよ」


「だって吹奏楽経験者じゃないし、ユーフォ聞き取るの難しいんだもん。トランペットとかフルートとかそういうのは分かるじゃん?」


「ごちゃごちゃ言ってないで、まず音を出せるようになれ」


ほら、もうマウスピースはいいから。そう言って彩音は僕のマウスピースをユーフォにはめた。

(、、もしかしたらユーフォを通せば音がでるかも?)


諦めを前提にした淡い期待と共に、楽器に息を入れてみる。


さっき彩音が出した音とはほど遠い、破裂音に近い雑音のようなものが教室に響きわたった。


「、、、、」


彩音が苦笑しながら僕の肩を叩いた。

「んーまあ音はなったね、、練習すれば大丈夫だよ」

明らかに失望した声で励ましの言葉を掛けられても困る。

道のりは思ったより厳しそうだ。


「いやーいいですねー姉弟練習」

ニヤニヤしながら山下が教室に入ってきた。


「お前また来たのか!」彩音がギョッとする。

彩音は山下を見て、僕を見ると、慌てて保険をかけ始めた。


「あ、、カノンあのね、こいつまだ初心者だから、今の音聴いたっしょ、こんな感じなの。だからあんま期待せずに暖かく見守って、、」


「いいじゃないですか!」


「あ?」山下の意外な反応に彩音が首をかしげる。


「最初からそんなこと気にしなくても、最初は楽しんで吹いてればその分実力もつきますって」


「おお、、」


「じゃー頑張ってね、響!」


そういうと山下は手をヒラヒラ振りながら教室を出て行った。


僕は何だか呆気にとられてしまった。

山下は成績的には優等生だが、まともな事なんて滅多に言わないイメージだった。

いつもはあんなでも、やっぱり副部長なんだ。

(僕と同学年なのに、、凄いな、、)


彩音は関心したように何度も首を縦に振っている。

「いいーことゆーじゃんその通りよ!楽しく吹いてればその分実力もつくってわけね!」


「そのままじゃんか」

彩音にそうツッコんで、僕はもう一度楽器を持ち上げた。


マウスピースに口を当て、息を入れて唇を震わせる。

またしても潰れた音がでる。それでも、勘違いかも知れないが、さっきよりマシになったような気もした。


この繰り返しなんだ。

楽しく吹いてれば実力もつく。

そしてその先に、学発で僕の心を動かした「あの音」があるんだろう。


(頑張ろう)


そう呼びかけるようにして、僕は抱えているユーフォニアムをじっと見つめた。その金色のベルに映っている僕は、学発の前とは何だか違う人のように見えた。

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