重なり集う音
階段を降りると、音楽室から色々な楽器の音がごちゃまぜになって聞こえてきた。
合奏のために集まって、合奏が始まるまでの時間それぞれが音を出しているのだ。
扉を開いて中に入ると、まるで四方から音を浴びているかのような感覚を受けた。
(すごい、、この人数が集まると、こんな音がするのか)
すごいけど、うるさい。慣れてないからか、耳が壊れそうになる。
「奏!こっちだよ!」
楽器の音に負けないよう、彩音が声を張り上げて僕に言った。
僕と彩音は椅子と譜面台の間を縫うようにして音楽室の奥へ進み、空いているユーフォ用の席に座った。
後ろを見るとトロンボーン、前にはサックスパートが並んでおり、隣にはグランドピアノが置かれている。
前には、比較的小柄な(多分僕の方が小さいが)男子の先輩が立っていた。
あれが昨日彩音が言っていた学生の指揮者だろう。
彼は僕らが席についたのを見ると、指揮台に上って手を挙げた。
途端に皆吹くのをやめ、楽器を下ろす。
「よし、じゃ、始めようか、、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
指揮者に全員がはきはきとした声で答えた。
「はい。さて、、合奏は見学に来たんだね、新入部員の弟くんは」
指揮者がそう言うと、前の列に座っていた皆が一斉にこちらを振り向く。
(うっ)
大勢の視線を受けてすくみ上がりながら、やっとのことで答える。
「、、はい、、」
声にならないような声が出た。
指揮者はそれを聞いてちょっと笑いながら軽くこちらに会釈をした。
「まあじゃあこれからよらしく。学生指揮者の山崎です」
「よろ、よろしくお願いします!」
思い切り頭を下げると、前の席の背もたれに頭がかすった。
「てっ、、!」
慌てて声を押し殺し、なんでもない風を装って顔を上げる。
幸い気付かれなかったようだ。ほっとして横を見ると彩音がニヤニヤ笑いながらこちらを見ていた。
「さあ、始めようか。まずは基礎からお願いします、、、」
山崎先輩が指揮棒を取り出し、基礎合奏が始まった。
彩音によると、合奏の練習では、曲を合わせる前に、基礎練を一緒にやるらしい。
パートでやっている基礎練を全員で合わせてやることで、音程を揃えたり、全体の音量バランスを整えるそうだ。難しいことは言われてもいまいちよく分からなかったが。
合奏は、基準となるB♭(ピアノで言うシ♭の音)の音程を揃えるチューニングから始まる。
本当ならオーボエという楽器に音程を合わせるそうだが、C中にはないので、クラリネットの笛吹先輩という人に合わせてB♭を出す。
それが終わってから本格的に基礎練習が始まっていく。僕は彩音が見ながら吹いている、「基礎合奏」と銘打たれた楽譜を眺めながら聞いていた。
ロングトーン、タンギング、スケール、などなど。
それぞれどういうものなのかはいまいちまだいまいち分からないが、
それでもやっぱりすごい。
あの発表会の時とは違って曲を演奏しているわけでないが、基礎の動きでも、たくさんの音が綺麗にそろって1つの動きをしているのには、圧倒された。
(まずはこの基礎を吹けるようにならないといけないんだな、、)
「じゃあこれで基礎は終わり、あんま時間ないけどちょっとだけ曲やりますー」
「「「はい!」」」
基礎が終わると、合奏は曲の練習に移る。
「彩音」
「ん?」
「今って何の曲の練習してんの?」
「そうね、次に全員でのる本番はもう定期演奏会だから、そこに向けてやり始めてる感じ」
「え、本番3月だよね、、もうやってんの!」
「まあ、学芸発表会と違って何曲もやるからね、、まだ初見みたいなもんだけど」
「へえ、、」
僕がまだ音さえまともに出せていないのに、定期演奏会に向けての練習はもう始まっているのか。
まあそりゃそうだよな。部活は毎日あるんだし、本番が1つ終わったらまた次の本番へ向けての練習が始まるわけだ。
僕の中に、再びこの先への不安感がこみ上げてくる。
それでも曲の合奏を聴くのは楽しみだった。
あの演奏をこんなに間近で聴ける。自分がそこに加われるようになるのかは置いておいて、一体どんな感じなのだろうという期待感があった。
「じゃあマーチ行こう、お願いしまーす」
部員達は指示されたとおり、楽譜を出してそれぞれの位置についた。
曲の楽譜は、パートの中でも1st、2ndというふうにいくつかに分かれているものがあり、演奏する時の席順もそれに伴って変わるらしい。
もっともユーフォはそもそも人数の少ないパートなので、パートが分かれている楽譜は少ない。
「1回通します、頭からー」
山崎先輩がそう言って両手を挙げた。
とたんに話し声は止み、皆楽器を構える。
その時、
空気が変わった。
(、、、!?)
僕は思わず息をのんだ。
この空間にいる全員が、隣にいる彩音までもが、全くの別人のように感じられる。
これから始まる音楽に向けての、静寂の時間。
演奏者が醸し出すその空間に、強く引き込まれる。
ふいに、山崎先輩の手が風を切って動き出した。
「1、2、」




