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poco a poco  作者: 舞音
11/18

憂鬱と惰性と

いつもの数倍の時間をかけて、ようやく家の前までやってきた。


僕の家は住宅街の中にある、八階建てのマンションの2階だ。マンションにはAとB2つの棟がある。

エントランスからA棟の1階に入り、エレベーターで2階へ。


いつもは夕方に帰ってきているので、こんなに暗くなってから家に帰ってくるということ自体、久しぶりで何だか変な感じがした。

時計を見ると六時をまわっている。

11月になって、日が落ちるのも早くなってきた。

2階の隅の部屋の扉を開くと、家の中から暖色の光がもれてきた。

母が仕事から帰ってきて、もう家にいるということだ。


「おかえりー、奏?彩音?」


リビングの方から母、綾子の声がする。


「どっちもー」


彩音が気怠げな声で母に応えた。

家に帰ると彩音はチャンネルが切り替わり、1段階トーンダウンする。もっとも学校で彩音の声を聞くこと自体あまりないので、さっき部活で、明るくいかにも楽しそうな彩音の声を聞いたときに、あー作ってるなーと思った。


やる気の無い彩音の返事とは対照的に、母の声は華やぐ。


「あらあらどうしたの!奏が帰ってくるのがやたら遅いと思ってたら、まさか姉弟一緒に帰ってくるのなんてねえ」


「っさいなー」


彩音がぼやきながら自分の部屋に入っていった。


せっかくあれだけ回り道をして部員達を撒いたのに、家に帰ったら結局いじられるのだからたまらないだろう。


玄関から家に入ると、すぐ左手の所に彩音の部屋があり、その隣に僕の部屋がある。中学に入った時に父、昌紀の書斎だったのが明け渡されたものだ。


部屋に入ると一歩目で靴下越しに、紙のようなものを踏みつけた感覚があった。

拾ってみると、折り鶴だ。


(あーあ、、)


憂鬱をため息と一緒に吐き出し、さっきまで鶴だった紙ゴミをゴミ箱に放る。


何の取り柄もない僕だが、強いて何か長所をあげるなら、手先が器用だ。

部屋には、折り紙で作った鶴やウサギがあちこちに飾られている。

ただそれ以上に服やらカバンやらが散らかっているのが目立つ。母も最初は釘を刺したが、諦めたのか今では何も言われなくなった。


部屋の奥までたどり着けないので学校カバンを放り出し、扉の前で着替えを済ませた。ベッドで寝転がりたかったので、そこまでの道を確保するために、のろのろと片付けを始めた。


ゴミの山状態だった部屋を復元するのには、それなりの時間を要した。

何とか歩けるまでに整頓し、ベッドに飛び込んだ時、母の呼ぶ声が聞こえた。


「響、彩音、ごはんだよー来てー」


「はーい」


返事はしたが1度ベッドに寝てしまったので、なかなか起きる気力が起こらない。

そのままぼーっとしていると、リビングのほうからもう一度お呼びがかかったので、やっとの思いでベッドから転げ落ち、這うようにして食卓へ向かった。


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