変われない
テスト。僕の、いや学生の殆どが苦手とする響きに、思わずたじろぐ。
「いや、別に大したことはやらないんだけどね。定演の曲練やる前に、1年生は基礎がちゃんと出来てますかっていう確認みたいな」
「まじか、、、」
出来てないですよ。今からやるんだもん。
しかもそれが出来ないと楽譜が貰えない。果たして間に合うのだろうか。
「、、もしかして定演出れないってこともある、、?」
「まあ何かしらの曲には乗れると思うよ。元々全員が全曲吹くわけじゃないし」
そう言われながらも、僕の頭の中には、「何度テストをやっても受からずに結局客席で定演を観る自分の図」が出来上がっていた。
「大丈夫だよ。今まで1曲も乗らなかった部員ってのは前例ないし」
僕の気も知らずに彩音が無責任に気休めを言ってくる。
「11月以降に新入部員が入った前例は?」
「さー、ないんじゃね」
「あああああ、、、」
その後の帰路は自然と足取りの重い物になった。
まさかの初日からこんなに大きな壁にぶち当たるとは。
彩音はというと、呆ける僕を見て、さらに追い打ちをかけてくる。
「まあ今からっていうのは大変だよね。今年の1年生特に経験者で上手い人いっぱいいるし」
嘘でもそこは優しい言葉をかけてくれないと身が持たない。
「、、僕、足手まといになっちゃうかな、、」
思わずぽろりと声に出てしまった。言っても仕方の無いことだが、そう思わずにはいられなかった。
「そんなこと無いんじゃない?定演は技術がどうこう言われる発表会じゃないし、最低限吹けるようになってれば」
「でもさ、そのうち技術を評価される機会だってあるでしょ?」
「まあ、、コンクールとかはそうだね。でも今度は来年の8月だから大分先だけど」
夏のコンクール。
C中が金賞を獲ったというあれか。
その時までには、吹けるだけではない、演奏で部活に貢献できるようにならなければいけないのだ。
僕が心を動かされた、「あの時」のような音を。
道のりは途方もなく遠く思えた。
いや、遠いだけならいいのだが。
『必要ないんだよね』『邪魔だけはしないで』
さっきかけられた言葉が脳裏をよぎる。
(あれはひょっとしたらそういう意味だったのか、、)
そう思うと納得すると共に、その言葉が鉛のように重くのしかかった。
僕が自分のやりたいことを出来るようになるまでに、部員の皆に迷惑をかける。
素晴らしい演奏を聞いただけに、それを邪魔するようなことは僕もしたくない。
気付くと、また家の近くまでやってきていた。
1つ道を曲がると、再び住宅街に入り、周りにはもう人も車もいない。
しんとした空気が、やるせない気持ちをいっそう際立たせた。
心にたまったモヤモヤを絞り出すように息を吐くと、彩音が「ため息なんてやめろよ」というふうにこっちを見た。
変われたような気がしたんだけどな。
僕の中では、やめておけば良かったという思いがだんだん強くなってきていた。
いや、迷惑をかける前に、今からでも辞めた方がいいのかもしれない。




