左右に眼帯をした双子の兄妹
暇な時に読んでもらいたいです。
※初期掲載時、あまりにも長すぎたので改稿しています。最初に目に止めてくれた方々や読んでくれた方々には大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
「あーあーもう! どうして今日に限って食堂が混雑してんの? 何で私達が売れ残りのパンを漁らなくちゃならない訳?」
場所は――研究養育施設『イクスぺリメント』内部の芝生と木々で囲まれた中庭。
施設を建設する際に研究者側の配慮で緑が欲しいと言った要望が相次ぎ、この様な機械の残骸や、化学薬品の悪臭が立ち込める奇異な場所で、不躾にもドカン! と大自然の神秘が人工で移植されたのだ。
そして、そんな新緑の香りとホルマリンやアルコールの臭いが混ざり立ち込める中――
――1人の右目に眼帯をした少女は激昂していた。目の前の事実に。いや、現実に。ギリギリと歯軋りし、その気性を露わにする。端整に整った顔立ちもくしゃりと歪み、右手はアンパンとイチゴオーレ。そして、もう片方の空いた左手でガリガリと爪を立て頭を掻き毟る。
ツインテールの黒髪は大いに乱れ、ボサボサに揺れる。ここまでくると彼女の美貌が何もかも台無しだった。そして奇異な事に、彼女の頭上には左右に羽の付いた天使の輪の様なものがプカプカ浮いていた。
そんな1人憤慨している眼帯少女Aに、これまた律儀に答える少年Aがいた。
「売店でパンの予約でもしておけば良かったかな?」
その少年は少女とは違い、だが左目に眼帯をしている。
とても淡々とした様子でこれもいつもの事だといつもの日常だと割り切ってそう言った。
黒い髪のストレートは綺麗に整えられ、身長は170センチ弱。存外、細身な肉体をしている。日本の成人男性の平均身長と平均体重を具現化した様な身体付きだ。おまけに存在そのものがどこか希薄。それは少年の性格を表してもいたが、実際、そうなのだから仕方がない。
2人はそんな施設の中で最も広い中庭のテラス。丸テーブルやパラソルが隣接するちょっとしたオープンカフェの場所に腰を落ち着ける。
少年は普段通りにゆっくりと。
少女は怒りに任せてダンッ! と、乱暴に丸テーブルとキャンプや屋外で使用される、銀色のパイプ椅子に思いっきり跨るみたいに座った。
「いーわよ! もう、そんなの! 大体、前から思ってたんだけどあの売店に予約する価値のあるパンなんてあると思う? 答えはノーサンキューよ! 目玉焼きパンだけは別枠だけど!」
そんな事をほざく眼帯少女A。彼女は、身長150センチはあるだろうが線が細く、華奢な身体付きをしていた。そこはかとなく今、目の前にいる眼帯少年Aとどこか似ている。
そんな怒りが沸点に達している眼帯少女に眼帯少年はそっと聞こえる位の声音で言った。
「それにしてもレイ? 気付いてるとは思うけど……」
レイと呼ばれた眼帯少女は早く食事にありつきたいが為にムッとなってぶっきらぼうに言い返す。乱れていたツインテールは揺れて、徐々に元通りになっていく。
「ハイハイ。最近、急にここの数が増えたって事でしょ?」
その答えは眼帯少年の期待に違わぬものだった。元来、この手の話が大好きな眼帯少年にとってそれは確かな情報として耳にすんなりと通る。どうやらレイと呼ばれる眼帯少女の観察眼はかなり正確な様だ。思わず眼帯少年の知的好奇心が唸るのも当然の理だ。
左目に眼帯をしている少年は――
「『イクスぺリメント』の人口増加。話題になってないけど、他の皆は気付いてるのかな?」
丸テーブルの上にビニールで包装された焼きそばパンを放置して思わず空いたスペースに肘をつき顎に手を乗せる。考え事をする時の彼の癖だ。
「相変わらずルイは物事を深く考えすぎ! その焼きそばパン要らなければ貰っちゃうけど?」
さすがにこれにはルイと呼ばれた眼帯少年は反論せずにはいられなかったらしい。思わず姿勢を正し、さっきまでの『考える人』のポーズはどこかへ消えてしまった。脳内に浮かんでいたこの要塞『イクスぺリメント』の人口増加現象の矛先が目の前のたった1つの焼きそばパンへと姿を変える。
「ドサクサに紛れて何言ってんの? 僕だって、焼きそばパンの1つや2つ必要さ。己の思考を養う為にね。何事も若い内は栄養を摂取しないと成長しないよ? レイ」
そう言って大地ルイは大地レイの未だ平板な胸元を強調するかのように、焼きそばパンの端っこで軽く示す。ツンツン。
「な、な、な! 何言ってんのよ! このセクハラ兄貴! 双子の兄妹だからって何もかも許されるとでも思ってん――フグゥッ!」
あまりにもうるさいレイの口元に焼きそばパンの刃の切っ先を包装されてる薄いビニール袋事突っ込んでやる。ルイの得意技――と言うか、レイはいつもこんな調子で大口開けて辺り構わず喋り散らすので、いつの間にかこんな基本技が身についてしまったのだ。
「そうだなあ。僕の予想だと『イグネス』ももう終結の日が近いんじゃないかな?」
宗教戦争『イグネス』――この世界に広まった最悪の精神疾患『コンタギオン』の思考を分かつ為に人々はそれぞれの思想を意志として掲げた。だが、それは結果として争いを生む火種となり、今も昔も変わらず日本列島は各地で紛争が続いている。
――それを止める側にある政府も内部で『コンタギオン』による派閥が生まれ、その圧力から徐々に亀裂が見え始めた。そして、それに伴い日本全土の国民たちは数ある宗教に身を染めてそれぞれ強力な勢力を築き立ち上げてきた。
「もぐもぐもぐ! っん! ぷはあ! ざけんな! このバカ兄貴! 年頃の乙女に焼きそばパンをビニール袋事突っ込む双子の兄なんて前代未聞よ!」
――もうお察しの通り。どうやらこの御二方、双子の兄妹だったらしい。あな珍しや。実に御仲が宜しくて何より何より。
「包装紙事焼きそばパンを食べちゃう双子の妹もね」
思わずニヤリとする双子の兄大地ルイは、しかし同じく双子の妹大地レイにニヤリと反撃を喰らう。そう。今でこそルイは優勢な立場でいるが、本性は悪く言えば気弱。もっと悪く言えばM男なのだった。そしてレイはと言うと――超茶目っ気タップリなツンデレラ。つまりS女なのだ。
「わぁー! わぁあああ! 嘘! 嘘! 嘘だから許してーな! ゴメン。マジでゴメン! 殺生かんべんなあああああああああ!」
初めて目にとめてくれた方、またそうではない人もここまで読んで下さりありがとうございます。
評価や感想もちろん大歓迎です。