大切な仲間
時間潰しに読んでもらいたいです。
※修正しました。迷惑をお掛けします。
「あーら。兄妹揃ってこんな所で新人さんの『私闘』の見物ですか? お仲が宜しい事ですわね」
見るからに年上の女性。とは言っても、その口調がどこか滑らかで大人びているだけで実際はルイとレイとはそう齢は離れていない。
「富士山さん!」「景さん!」
さすがは双子と言うべきか、この時のルイとレイの息はぴったりだった。声を揃えて思わずそう呼んだ先にいたのはそこはかとなく神秘的なオーラを纏った典型的な日本人女性。
名前は富士山景。やまとなでしこ――そう呼ぶに相応しい和風美人で、長い艶やかな黒髪を後頭部のヘアバンドで纏めている。ヘアバンドは美しい蝶をあしらった古風な代物で出来ており、蝶番で髪を挟み込む度にその幻想的な紫の翅がパタパタと羽ばたく様に見える。服装はさすがに和装とはいかず、全生徒同様、白いオーバーオールを少しぎこちなく着こなしていた。これはこれで似合っていなくもないが物凄いギャップである。
しかし、この女性。富士山景はとんでもない曲者でもあり、その正体の全てが謎に包まれている。
彼女の『神器珍獣』――カイゼリンも、未だ任務以外には顔を出していない様子であり、これまで友人関係を保ってきたルイとレイも彼女とは同じ仕事にありつけない為か、その姿形を見た事が無い。
しかも、彼女に何気無くルイもレイもその他の仲間達も気掛かりな事は様々な角度から聞いてみるのだが――例えば、年齢、身長、体重、スリーサイズ等――その殆どが次の一言によって掻き消される具合となってしまう。
――フフフ。秘密――
ただ1つだけ分かった事は、『コンタギオン』に罹患した被害者であるが故に自身も『啓示』の紋章を発揮し、『神呪』の能力を体得、そして必然的に学術研究会『ウィア』の組織に目を付けられて条件付きでこの孤島、楽園――外からは『デビルアイランド』の『スパシーバ学園』に生徒として潜り込んだのだ。
彼女にはある種の特徴があった。
それは、自身が『コンタギオン』に罹患したと言う事実から、それをきっかけにとある宗教に身を染めており、この世界に宇宙の神秘が宿っていると信じている点だ。
実はその宗教、あるいは宗派も未だに教えて貰った事は少なくともルイとレイには無く、けれど別段腹立たしくも思えないのはこの2人が単純な気質を宿している訳でも無く、誰に対しても分け隔てなく振舞える富士山景が成せる業。大人の所業。悪く言えば、八方美人な所と言えるのかもしれない。
だが、知識、経験共に豊富なのは確かでありこの『スパシーバ学園』の施設の研究にも携わっている。
宗教と言えば真っ先に想起するのが日本各地で勃発している『イグネス』が今や主流だが、彼女はそれを嘆く一方、人類なんて滅んでしまえば良いのに――と言うどこか深い憎しみをも併せ持っている。最も危険な香りをにおわせる側面もある。
しかし――その神秘的なオーラはそこから出てくるのかもしれない。
「見物なんてとんでもない!」とルイは畏まる。
「そうそう! 私達暇で暇でしょうがないんだからね! 他の皆は?」
レイがどこかその近辺を探ると、景はフフ。と笑うだけであり、自分の背後を振り返った。するとまた性懲りもなく新たな人物がやって来た。
――それも計3人。こちらは退屈しなさそうだ。
「だーかーらー! なーんで、私があんたの付添人にならなきゃなんない訳ー? どう言う理屈ですかー? 先生、わかりませーん!」
「ハア!? 俺がいつどこでお前に付添人として頼んだって言うんだ!? 俺が偶々自販機の前で剣とくっちゃべっていたら、突然、乱入して割り込んできたんだろ!? これって不法侵入罪として訴えられるんじゃねーか!? この島の裁判所ってどこだっけ?」
「ざーんねーんでーしたー! 不法侵入罪は相手の所有地に許可なく入って来たところにしか適応されませーんー! チョッとそれ以上、近付いたら殺すぞ! ガチで!」
「近付いてねーっての! テメーこそ俺の半径5億キロメートル以内には近付くなよな!」
「チョッとあんた! そっちこそバカな筋肉モンスターね! 良い? 頭の悪いあなたにも御教授してあげるから覚悟なさい。地球の表面積は大体で言うと水陸併せてやっと5億キロメートルに達するのよ! 具体的に言えば水――この場合は海ね。海の表面積は3億6000万程度。陸地に関しては1億5000万に満たないわ。よって、あなたの半径5億キロメートルに近付くなと言うのはこの地球上のどこにいても不可能なのよ! 実に腹立たしい事この上ないけどね! 例えマリアナ海溝の最深部。チャレンジャー海淵にあなたのムンムンオーラを回避しようとして潜り込んだとしてもね、絶対に不可能なの! 不可抗力なの! どう? 科学の領域。そのパワーを存分に思い知ったかしら? アンタは1人で孤独にプロテインでもウイダーインゼリー(プロテイン味)でも大人しく摂取してれば良いの! このむさい筋肉バカ!」
「科学の力、摩訶不思議也――じゃねえ! ハアア!? お前こそプロテインのパワー舐めてんじゃねーの!? 栄養摂取、カロリー摂取、上等じゃボケ!」
頭の悪そうなあるいは頭の宜しい会話――と言うか、完全パーフェクトな罵詈雑言で口喧嘩に興じている謎の男女2人と――
「まあまあ、落ち着いて。てゆーか、どうしてこう2人はこんなに仲が悪いんだ?」
何かその傍らで冷静沈着に事の様子を謁見している影の様な存在が1人。よく見て見ると、ひと息にコアなファンが付きそうなアイドルを想起させる端整な顔立ちの男がいた。
――計3名様。周囲の目もはばからずに男女でギャアギャアやってるの2名と苦笑交じりに事の次第を見つめている男1名。そして、そんな中彼等もこちらの視線に気付いたのだろう。冷静沈着なアイドル風の男が片手を上げる。
「――やあ。御無沙汰。奇遇だね。元気でやってる? 大地ルイ君と大地レイさん。それと相変わらず年齢不詳な富士山景さん」
ジャニーズ事務所にでも所属していそうな爽やかな微笑みもそのままに、その男――瀬川剣はすぐ隣でダークバカ論争を繰り広げてる元女子中学生――貝生凜と筋肉マッチョでプロテイン常備を忘れない焔司の瞬息電光石火のやり取りを横目でチラチラ見ながらも、平常心を忘れない。最早、彼の冷静沈着さは神の領域と言えるだろう。
「あらら。そっちも相変わらずね。元気なのは良い事よ。でも、うるさいのは周囲の人達に迷惑ですし、ここは新人さんには神聖な場所なんだから、声は抑えてね。お2人さん?」
「うっ」「チッ!」
思わずどもった前者は司で、後者の舌打ちは言うまでもなく凜のものだった。
そして確かに今は儀式の真っ最中であり、この体育館ホールの観客席はどよめきと黄色い声援で、彩られていた。また、新たな新人が『神呪』によるド派手なバトルを繰り広げてるのだろう。
こうしてここに集った計6名。頭が良いのか悪いのかは別として彼等は皆、能力者――『神呪』の使い手であり、それぞれの性格の違いや秘密等を抱え込みながらも、色々な経緯があってこの『デビルアイランド』と日本では呼ばれている楽園。そして、研究養育施設『イクスぺリメント』及び『スパシーバ学園』にその使命を託された大切な仲間だ。
ルイとレイの仲間達初登場です。いかがでしたか?
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