本能そして感情の発露
若干薄気味悪い話です。
※修正しました。皆様にはご迷惑をお掛けします。
かつてこの絶海の孤島に研究養育施設として『イクスぺリメント』を創設した学術研究会『ウィア』の研究員達は最初から『クラス‐A』あるいは『クラス‐S』の人材を『テラ』の力を駆使して試験管やビーカー、フラスコを用いスポイトで慎重に昆虫、魚介類、肉食獣、両生類、爬虫類、鳥類、植物や菌類に至るまでありとあらゆる細胞を使って実験を繰り返し、巨大培養液に満ちた生きたまま動物を保存する装置を使用してまでその『強さ』を求めた実験を繰り返した。――が、結局は失敗に終わった。
もちろん、ある程度の成果は出た。地球から噴出される『コンタギオン』の源。『テラ』と言う新たな神秘の力は『クラス‐A』、『クラス‐S』とは言わずとも、動植物や菌類をその本能だけではなく、知性や理性を持たせる事にまでに成長、進化させた。植物に関しては言語コミニュケーションを取れるほどにまでに至った。だが、ここからが厄介だった。
それらの中で最も完成品に近いもの――実際は『クラス‐C』に近い猛禽類や哺乳類に『私闘』を行わせた所、ある恐ろしい事件に巻き込まれたのだ。
培養液から出たその被験体達は本能によってではなく、ある日突然狂い出した。――否、本来の素顔を露わにした。化けの皮が剥がれたとでも言おうか?
それは当然の帰結だった。つまりこういう事だ。暫くの間は大人しく『私闘』を行い、研究員達との言語コミニュケーションも順調に事を運び、その大人しく見えた動物――いや、モンスターは素直に研究員達の意向に従った。その中で拡散された数あるデータは次々と保存されていきコンピューターの中でプログラミングされて『ピース』は埋まっていった。そこから新たな発見――『神器珍獣』の存在の可能性や、次々と進化する過程を辿っての『創造神器』と言う固有名詞(本来はラテン語で『クレアーティオ』と呼ぶ。その原義は『創造』の意)の位置付け等、極限の『強さ』の探究心はそこにいた誰しもの心を揺さ振った。
――このままいけば、実験が本当に成功すれば、『レクティオン』との戦いに終止符を打てるかもしれない。
――仮に第三次世界大戦が勃発したとしても、この実験を糧に無傷で生き残り、世界を統一出来るかもしれない。つまり世界征服だ。
――いや、核戦争すらも乗り越えて新たな文明。人類の生誕を迎える事が出来るかもしれない。
――その世紀の瞬間に私達は立ちあえるのだ!――
そんな輝かしい未来を予想して、実験は嬉々として行われていた。時折談笑を交えつつも真剣そのもので――彼等は本気だった。
だが、それは束の間の夢でしかなかった。そして一瞬の暴力によって全てが水泡に帰した。
――ある日の実験段階での事。いつも通りの日常がそこにあった。つまりモンスターと化した培養液に毎日浸され続けられている動物達と言語でコミニュケーションし、『私闘』を行う。いつもの様に身体中に電極とコードをプラグとして差し込んで、その精神状態云わばメンタルをコンピューターに繋いで、数値化する。
ディスプレイから反映されるデータによると微弱な電波によって検出された健康状態は心身ともに良好。心拍数脈拍共に一定。血圧も標準値。培養液による睡眠時間から日夜計算されてきた体外から取り込まれるあらゆる物質。原子レベルまでに及ぶ拒否反応も無し。
――科学のメスに置いてそれ等は全て支配され、統一され、『私闘』を行う前の最高の潜在能力を引き出せる様に言ってみれば可能性として新たな『ピース』、『創造神器』を埋め尽くす為に整えられたコンディションは全て正常値。つまり準備は万端。ポーカーで言えば、全てのカードが出揃っていたストレートフラッシュ。
しかし、ここまではいつもの事だった。相手の健康状態を常に考慮に入れるのは医者にとって患者、科学者にとってマウス等の実験台として当然の理。
――そして悲劇が起こった。
モンスターとも呼べるその眠っている2体の生物を培養液の機械から強制的に覚醒させて、外に引きずり出すと、素早く研究者達のカウンターにあるコンピューターにそのデータを検知出来る様に電極やコードを使って予め身体中に埋め込んでいたプラグを差し込み、後は『私闘』を行うのみとなった。
だが、そこで予期せぬ事が起こった。まだ最終調整とは程遠い、『クラス‐C』のそのモンスター2体が猛り、怒り、暴れ出したのだ。
それは理性でもましてや本能でも無かった。単純なる感情の発露。このモンスター2体は、長い時間帯を培養液の中で貪り寝ていた訳では無かったのだ。ここにいる科学者達の『ピース』――実験体として育まれ常に進化し続けてきた知性の塊が、科学者達との言語コミニュケーションを経るに至って、様々な事を学習し、長い時間帯を使って思考を続け、遂に己の本能の中で動物には本来ありえない新たな感情と言う精神作用をも齎してしまったのだ。
そのモンスター2体は確かにこう言った。
「俺達は永遠にこんな狭っ苦しいとこにいるのは御免だぜ」
「――矮小なる小さき人間よ。我等に跪け。世界の再建とやらは最早我等の手中にある」
人間で言えば思春期の反抗。この2体のモンスターは暫く暴れ続けたが、最終的にそこの警護班に属していた優秀なる『神呪』の手によって処分された。
これを機に『テラ』によるあらゆる生物実験は中断され、最終的にあまりにも危険だと判断されたのか、事件の真相は闇に葬られた。
それは『テラ』の最初の人類に対する警告。全ての生物への恩恵だった。
『強さ』を学習したあるいは理解したこの2体のモンスターはより強大な『強さ』を求めようとして施設からの脱走を試みたのだ。他でもない人間の助力によって。
――そう。この事件の全貌はあくまで人間側にある。食物連鎖のトップに君臨する未だ地球の『強さ』の代表格である人類の一組織――学術研究会『ウィア』の構成員達。しかし、それは奇しくも実験体である2体のモンスターが学習したより強大な『強さ』の探究と全くもって同じものだった。忠実なまでに欲望に純粋なのは、何も動植物に限られた事では無い。人もそれと同等……あるいはそれ以上に強固なまでの歪んだ野望、意志、そして感情だった。
こうしてこの事件を契機に、大幅に改善された『私闘』はその進化し続ける『ピース』――改称『創造神器』と個人に宿るお喋り妖精ロボット『神器珍獣』の使い手を手探りで探す様な形で本来の実験は廃止。パラメーターとステータスのデータ保有と言う名目で姿形を変えて、あくまで『コンタギオン』に罹患した『神呪』――人間個人の儀礼的な代物へと生まれ変わった。
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