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Avengers  作者: くをん
12/25

兵士達の会話とこの世界の現状

いつもよりかなり長いです。ご容赦ください。

※修正しました。皆様にはご迷惑をお掛けします。


「――異常なし。今日も日本列島は平和だな」

 観測者であるガードマンの兵士はやや自嘲混じりに皮肉を込めてそんな独り言を呟いた。

 場所は視界360度巨大な鋼鉄のプレートで囲まれた研究養育施設『イクスぺリメント』の最も外部に近いそして最も高い位置の展望台。

 それは研究養育施設『イクスぺリメント』を築き上げた島の中枢に位置する『神呪(ミュステリウム)』養成機関の『スパシーバ学園』からは程遠い位置――つまりは外側、アウトサイド――にあるUFOの様な円盤型の構造をしていた。

 正面は敵の位置を把握する為の全面強化ガラスで張り巡らされ、死角である頭上からの侵入経路も防ぐ為に見えない電磁バリケードが常時稼働している。

 UFOの様な円盤型のこの形にはそれなりに意味があった。もちろんそれは軍事上での理由だ。外部からの敵の侵入及び攻撃にすぐに対処出来る様にここにある展望台は下層部の基地と接合されてはいるが、実際は接合部分が蝶番の様な役割を果たしていて、人体の骨格で言えば首と身体――つまり関節部分の様にしてくっきりと器用に分かれている。

 その構造を活かし、この円盤型UFOの展望台は360度視界をぐるりと確保するだけではなく、まるでフクロウの頭の様に360度回転する仕組みになっているのだ。

 つまり迎撃準備は万全と言う訳だ。

 そしてそれはこの施設『イクスぺリメント』の防犯装置と捉えて貰っても構わない。展望台の外部にあるキャットウォークには備え付けの機銃や機関砲、サーチライトやその周囲にはサイファー(無人偵察機)がいくつも飛び交っており、付近にはガードマンの兵士達が常に戦闘に参戦出来る様に東西南北どの位置にこの円盤型UFOの展望台が回転しても、弾薬等が不足して困らない為に武器庫が数多ある。

 武器庫は外部からならC4爆薬を使っても壊れないとても堅固な要塞と化しているが、そのサイズは多少の違いはあれ、あまり大きくは無い。敵に武器庫の存在を把握されないあるいは覚らされてはいけない配慮によるものだろう。破壊対象には入らない、この研究養育施設『イクスぺリメント』の独自の軍事基地ではその様なカモフラージュされた建物が数多く散見される。

 現在、日本時間にしてPM10:31:46――

 真夜中とはいかないまでも、警備に携わっているガードマンにとって疲労が睡眠欲として祟ってくる時間帯だ。唯一の明かりはキャットフォークの天井にある蛍光灯と、サーチライトのわずかな光。

 そして遠くにある日本列島で未だ戦火の止まない宗教戦争『イグネス』の異様に赤黒く染まった50キロメートル先にある上空だけだった。

 その時、1人のガードマン。今、見張りをしている兵士とは違う人物がやって来た。

 ――カツカツカツ。

 その足音はやがて外にいる他のガードマンの兵士達も呼び止める為に外気に触れてキャットウォークへと足を踏み入れる。

 ――カンカンカン。

 ブーツの靴底が網目状の金属とぶつかり、甲高い音が警備をしていたガードマンの兵士達を振り向かせ、睡眠欲から意識を取り戻させる。

「おい。交代の時間だ」

「――了解。後は頼んだぜ」

「ああ。もちろん。だが、出来れば別の区画にいる連中にもこの事を伝えてほしい」

「何だ? これから警備に入るって奴が、そんな面倒な事言って」

「まあ、そう言わずに頼むぜ。今日はあんた等『エース』の当番の日だ。自分達の同期、それも所属するグループが一緒なんだから何かと都合が良いだろ? それに――」

「――それに?」

「こんな御大層なほとんど日本とは孤立無援な離れ小島の所謂ガードマンってーヤツの体内時計程狂ってるものは無いんだ。正直、俺は別の区画の人間と妙な関わり合いは持ちたくない」

「全く。お前、それでも『クラス‐A』の選ばれし『神呪(ミュステリウム)』か? まあ、良い。分かったよ」

「悪いな。だが、1つ訂正すると俺はガードマンの兵士としては最低な『クラス‐C』の人間だ。『クラス‐A』なんてものはここの上官か、学術研究会『ウィア』直属の用心棒、もしくは未だ誰も見た事が無い『イクスぺリメント』の頭脳――『アドミラル』の警護を頼まれた天性の『神呪(ミュステリウム)』だけだ」

「だが、『アドミラル』も一度だけ敗北を見た。知る人ぞ知る伝説のヒーロー。男か女かも分からない名前すら詳細不明の唯一、この要塞を内側から突破した謎に包まれた『神呪(ミュステリウム)』」

「そうだな。しかし、これは俺の予想だがそいつが今正にこの内部に――そう。歴史の変遷を辿ってかつての様に脱出を試みたとしても、常に進化し続ける現在の人工知能(バケモノ)『アドミラル』との対決に勝てるかどうかはまたやってみなければ分からない」

「フン! まあ、確かにその通り。だが、常に進化し続ける『イクスぺリメント』の頭脳――『アドミラル』はこの島を研究養育施設を統括する全知全能の神だ。あくまでこの島全域、半径50キロメートルにも満たない小さな島のな。日本の伝統的神話に登場するのは付喪神や八百万の神等、欧米とは違い多数存在するが、案外ここにいるはずの井の中の蛙状態の神『アドミラル』もその内の1人なのかもな」

「だからこそ男か女かも分からない伝説のヒーローにも勝算はあると?」

「いいや。違う。それとこれとは別次元の話。俺が言いたいのは神様は複数いるって事だ。つまり例えばあの世ってのが本当にあってそこに沢山の神様がもしも存在したとしたらその世界はどうなる?」

「実に混沌としたものになるだろうな」

「そう。だからあの世なんてものは存在しない。だってそうだろ? そこに沢山の神様がいてそれぞれ役割や性質が違うってんなら、自然と階級やそれに準ずる社会が発生する。それはこの世の歴史が証明している。天国や地獄もこの現実が証明している。今こうして喋っている秒単位の間、株やなんかで数億の金を稼ぐ奴もいれば、爆破テロや予期せぬ空爆、地雷の埋まった過酷な環境で戦争を強制される子供達、独裁政治(デスポティズム)によって訳も分からない思想が蔓延し、反対する者は殺される、後は世界規模の各地で起こっている戦争難民が飢えて死ぬのをただ黙って見過ごすしかしない現代社会――そこに正義や不義、あるいは善や悪なんてものが本当にあると思うか?」

「確かにそうだな。例えるなら……下は死体処理班から上は王侯貴族の末裔まで――」

「まあ、少し大袈裟に言えばそんな所だ。そしてそんなありもしない幻想を崇め奉っているのが現代までの日本の文化だ。しかもそれ等を崇拝する為に百式観音や仁王像、地蔵菩薩やらもっと遡れば墳墓に埋葬される女を象徴とした土偶なんてものもこの世には常にあの世の思想が付き纏っていた。極楽浄土なんて今はだーれも信じてないだろ? そしてその集大成が――宗教戦争『イグネス』だ」

 最初に呼び止められた方、立ったまま眠りこけそうになったガードマンの兵士は暗い闇の中で1人孤独に鼻でせせら笑うと唐突にこう言った。

「お前、ここから脱走でも企んでるのか?」

「まさか!」

 もう1人の自称『クラス‐C』の男は大仰に手を振って完全否定の仕草をし、

「『クラス‐C』じゃそこいらの『レクティオン』の親玉一匹倒せやしない。俺は一匹狼の柄じゃねえ。どちらかと言うと――あー話が長くなったな。まあ、心配しなくても良い。俺がここから逃げてお前達に迷惑をかける事は無いと思え。とりあえず交代の時間だ」

 ここにいるガードマン達はもちろん24時間体制の交代で見張りをしており、夜の監視役をしている者達は昼夜逆転した生活を送っている。

 その為、体調(コンディション)を壊さない程度に月単位でその役割(ロール)もローテーションされ上手くコントロールされている。

 もちろん、ここにいるガードマン達は皆、選りすぐりの『神呪(ミュステリウム)』であり、その軍人の様な立場から、『クラス‐C』~『クラス‐A』と高いレベルで管理されている。

 そしてここから日本列島を見渡す事が出来るが、研究養育施設『イクスぺリメント』の創設者であり、学術研究会『ウィア』の会長の教えは『コンタギオン』に罹患した者の新たな人材の発掘と『レクティオン』の壊滅。そして世界の再建と新世界の創造にある為、この絶海の孤島――人工衛星にも探知されない離れ小島――つまり研究養育施設『イクスぺリメント』で暮らしている者達にとって日本の危機、宗教戦争『イグネス』はほとんど他人事。あまり縁の無い話でもあった。

 だが、実際新たな人材の発掘と言う名目で日本列島各地に『イクスぺリメント』との繋がりを示す機関や秘密結社も事実上存在しており、彼等はスパイとして当然の様に活動している。

 スパイはここのガードマンを通じて『イクスぺリメント』内部に外からの貴重な情報を伝達する事が出来るが、その情報伝達の検閲も厳重で『アドミラル』と呼ばれるこの『イクスぺリメント』を動かしている事実上の頭脳が最終的にその判断を下し、それをガードマンや内部の人間に伝える仕組みになっている。

 ――つまりその『アドミラル』と呼ばれる存在(モノ)がこの研究養育施設『イクスぺリメント』を動かしているのであり、その存在は外部の人間にはもちろん、内部の人間にも秘匿されている。

 ――『アドミラル』の存在そのものは未だ謎である。誰もその存在を見た事が無い。

 研究養育施設『イクスぺリメント』の外側は全方位から厳重に管理されており、しかもそこには『神呪(ミュステリウム)』と言う能力者が付随されているので、海外や日本本島にいる人々(主にマスメディアや一般人)からは『デビルアイランド』と、かなりダークな印象で呼ばれている。

 『デビルアイランド』とは2つの意味合いがくっ付いて出来たある意味造語だった。

 デビル――悪魔。そしてアイランドは2つに分かれる。アイ=目。そしてランド=国。そしてそこから更にアイランド=島となり、悪魔の目の国。つまり、『デビルアイランド』となる。

 しかし、更に言えば内部の養育機関である『スパシーバ学園』も外の世界には公表していない、未だ秘匿され続けているのと、おまけにそこにいる『神呪(ミュステリウム)』の聖徒達も同様にまだその存在を明るみにされていない。

 由って、世界中のマスコミ達の論争の的は必然的にここにある『デビルアイランド』――の研究養育施設『イクスぺリメント』に絞られるという訳だ。

 ――一体、この研究養育施設『イクスぺリメント』は何の為にあるのか?――

 実際、それを知る者は少数で世界でも奇異な存在――学術研究会『ウィア』の役員や一部の政府の役人のみで、未だ宗教戦争『イグネス』の止む気配がない日本本島や『コンタギオン』の正体が明るみにされていない海外各地にあるスパイの秘密結社や機関の主要人物達がその情報を漏らさない限り、このミステリーは半永久的に続くだろう。

 だが、世界の裏の顔役達――マフィアや闇商売人。プロの殺し屋等――も研究養育施設『イクスぺリメント』に対する疑問を持っているので、このトップシークレットもそう長く続くかどうか? そこから新たなる疑問、疑惑が浮上する。

 更にその手の情報を持った何者かが闇のブローカーとなって売買し、その情報を元手に何やら企んでいるかなり怪しい集団も存在している。

 そしてなぜ、トップシークレットであるその情報が齎されたのかと言うと、理由は単純だ。その情報を売り付け密かに金を得る悪人スパイがいるからである。

 そしてそこから飛び火して世界中の政治家達に噂話として伝播し、波及する事になり、最終的に世界各地にその裏情報は垂れ流される結果となっている。

 ――あの絶海の孤島に位置する研究養育施設『イクスぺリメント』の内部には特殊な人材が発掘され、ある種の魔法を扱う者達がいる――

 ――そう。もう既に世界各地にこの混沌としたトップシークレットは予知されているのだ。

 つまり、それが意味する所は、あくまで疑惑、一般市民には都市伝説の類だが、現在、2年間に渡り日本各地で発生している宗教戦争『イグネス』の火種。『コンタギオン』に罹患した者達の一割にも満たない『神呪(ミュステリウム)』と呼ばれる特殊能力者。

 その魔法とやらを何とか利用し、国家の再建と言う名目で新たなる戦争を引き起こす事――第三次世界大戦やそれに因んだ金儲け、世界規模の経済を活発化し主に軍需産業を促進。優秀な『神呪(ミュステリウム)』の研究者達を呼び出し強力なウェポンとプロテクターの開発に着手。それも核兵器だけに止まらず、更に強力な兵器で自国を強化、他国を威圧。領土拡大に動き勤しむ輩も裏の世界には既に出現し始めている。

 アヴェンジャーはこの過酷な状況の中で毎日確実に増えているのだ。

読破して下さった方々、ありがとうございます。

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