双子の兄妹の能力
お暇な時に。
※修正しました。皆様にはご迷惑をお掛け致します。
最初に動き出したのは、双子の兄妹の兄。大地ルイだ。彼の刻印即ち『啓示』の正体はラテン語で『コクレア』と呼ばれその原義はかたつむり。彼が眼前に見た光景は正にそれだ。実際は螺旋と言う意味だが、渦の形状を模したそれは確かにかたつむりに似ていた為、ルイが初めて見たその光景を率直に漏らした感想は間違っていなかった。
しかしその『啓示』――かたつむりの形状に似た螺旋形の紋様『コクレア』には如何なる力が宿っているのか?
――今ここにいる幼き双子の『神呪』を駆使した戦いとは?
「――異形の主よ。我の名に畏怖せぬ戦いを我は所望する」
大地ルイはまるで人格が変わった様に冷静なその眼をギロリと使って右手を虚空に翳した。すると、直ぐにその空中に分散されていた何かが猛獣の形へと変化していくではないか――!
インサニオにはそのオーラの正体が掴めていた。それは他でもない――
「――な!? 『テラ』の結晶体が……新たなる怪物を――!? 召喚術か!?」
空中に分散されていた何かの正体は未だ大地ルイには分かっていない。この時には理解せずとも身体が勝手に動いたのだ。まるで、神からの直接の伝令。脳から直接、神経を伝って伝播するみたいに。
「出でよ! ケルベロス! 我の命に従い、眼前にいる敵を狩れ!」
――グオオオオオオオオ!――
召喚――いや、『テラ』の力によってこの地球上に分散されていた微細なオーラを感知して、その小さな掌に一時的に集束された新たなる創造主ケルベロスの源はもちろん『テラ』そのものだ。つまり、これは召喚術でも召喚獣でもない。行き当たりばったりのその場限りの即興術だ。
――大地ルイ。彼の左目に宿った『啓示』――螺旋状の紋様『コクレア』は大気中の『テラ』の力をその紋章に渦の如く引き込み、または発生させ、独自の想像を張り巡らせる事によって、実際にこの世界に生み出す事が可能だ。
塵も積もれば山となる――それはどれほど小さな原子レベルの『テラ』の力でも見逃さない。しかも、大地ルイはまだ5歳児だ。成長するごとにその渦の範囲や距離、大きさは飛躍的に高まり、自らの意思で操作する事も可能だ。ケルベロスはその名の通り神話に出てくる3つの頭を持った怪物だが、この『コクレア』の極み、レベル次第では神に匹敵するそれこそ超弩級の怪物をそれも即興で歌う様に創造する事が出来る。
今にも襲い来たるケルベロスの攻撃を瞬時にかわしたが、インサニオは着ていた人間の皮を剥がされた。
果たしてその正体とは――?
しかし、それを確かめる事もしないで大地ルイが即興で生み出したケルベロスに跨った少女がいた。他でもない。大地レイだ。
大地レイの右目に宿ったモノ――それは三日月型の紋様『ルーナートゥム』と呼ばれるもので、曲刀の様な形状をしている事から、不可思議なもの、不吉なものの象徴とされてきた。主に『テラ』のエネルギー源を3つのポイントとして集中力を養い、自己の中にある独自のルールから奇怪な能力を発生。それは人それぞれ異なり、戦いの最中で仕掛け(トリック)を仕込んだり、相手の能力を利用したりする。そこからまた更に独自のルールを(レベル次第で)構築出来るが、当然それ相応の覚悟とリスクが伴う。
独自のルールを仕込めば仕込むだけ相手を攻略し、より優位な立場に立てるが、その仕込んだルールの数だけリスクはもちろん上昇する。
策士策に溺れるとはこの事を差すが、大地レイはそれをしなかった。言い換えればとてもシンプルなルールを己に課した。いや、それ以外に出来る事は無かった。まだそれを自覚できる程のレベルに達していなかったのだ。
「『掟1』――奴を倒す」
大地レイは大地ルイとは違い、性格が変貌する事は無かった。敢えて言うならば獲物を狙う禿鷹の様に冷静沈着に物事を洞察していた。思わずルールを口遊んでいる所がそれを如実に物語っていた。
「『掟2』――私は大地ルイの味方。よって、ケルベロスの上に跨る事が出来る」
『ルーナートゥム』の光が発している右目からより力強い眼光が露わになる。
「『掟3』――奴を倒す代わりにこの手に『テラ』の力を集束せよ」
次の瞬間、大地レイの意図を契約書として神の審判が下った!
『テラ』の力を宿した炎の剣が少女の右腕の掌から現れた。
インサニオはその姿を遂に現したが、そんな事は最早、双子の兄妹にとってどうでも良かった。
――信じられん! これがこの星に住む亜人種の本来の能力!?――
インサニオの正体――それは現代までの人類には見た事のないアメーバ状の『何か』だった。粘土の様なぐにゃぐにゃとした体質が己に受け止めたあるいは触れた全ての物事を電気信号の様な強力な磁場で発生させ、それを利用し、全ての物事をその身体で表現する。先程、幼き双子。大地ルイと大地レイが苦境に立たされた時にその命を刈り取ろうと振りかぶった大鎌が良い例だ。
そしてそれが故にインサニオを含めた『コンタギオン』に潜む、宇宙人。亜異世界からひっそりと人間の内部に侵入し、集ってきたこの星、地球を巡る謎のウイルス――『レクティオン』はこの地球の奥底に眠っている『テラ』の力の源泉に触れて魅了された。
――しかし、『レクティオン』であるインサニオはこの時まだ気付いていなかった。
その『テラ』の恩恵に与る唯一の亜人種。この星の人間はあくまで『コンタギオン』に罹患した内の1割にも満たない特別な選ばれし者にしか付与されないと言う事を――。
しかもそれは何も人間だけに限られた話では無い。生物全般に共通する出来事だと言う事に――。
それが、神の決めた戒律であり宿命――
そして例えそれが神のダイスを振った児戯に等しき悪戯と言う名の現実なのだったとしても――
全てを受け入れる事しか人類、動植物、そしてインサニオを含めたこの星に生きる者達には残されていない唯一の道なのである。
生態系の食物連鎖はこうして築かれる。新たなそして過酷な土壌を築いていく。
しかし、悲しきかな――今、目の前で必死の形相で歯を食いしばり『啓示』の全身を内側からカッターナイフでズタズタに斬り裂かれた様な激痛――その試練から解放、そして『神呪』に目覚め、自我を忘れんばかりに戦っている5歳児の双子の願いは――とても純粋無垢なものだった。
――生きたい!――
人間としての生存本能が――いや、生物としての生存本能が神の恩恵に携わったのだ。それ以外に信じられるものは何も無かった。
今後もまだ続きます。
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