雷と炎の戦い
「雷巫女様!ご報告を申し上げます!先程、水巫女様に続き、風巫女様も捕えられたとの伝令が来ました!さらに風の国は住宅や動物の死体すら残っておらず、滅亡したと思われます!」
私はゆっくりと振り向いて言う。
「その様ですね。先程、エスク様より同様のお告げがありました。さらにまもなくこちらにも魔人がやって来るようです。戦えぬ民に避難の指示を、戦えるものに戦闘準備をする様に伝えてもらってもいいですか?」
「はっ!了解致しました!すぐに伝えて参ります!」
彼がそう言って部屋を出た途端、彼の叫び声が聞こえた。
私は嫌な予感がして武器を手に取り、部屋の明かりを消す。
そこへ一人の魔人の男が面倒くさそうにやって来た。
「あーあ…さっきのやつが叫び声なんてあげちゃうから明かり消されちゃったじゃない…まあ、僕には関係ないんだけどね。」
男は警戒する様子もなくドカッと来客用の椅子に腰かける。
そして、男がパチンと指を鳴らすと部屋の明かりがあっという間に灯る。
「雷巫女さん、一応聞くけど、僕の言う事を大人しく聞いてくれるかい?」
私は男の方を見て言う。
「残念ですが、貴方が邪教のものである限り、私は貴方に従う事は出来ません。それが神との約束ですので。」
男は面倒くさそうにため息を吐きながら言う。
「はぁ…ですよねぇ…めんどくさい…僕はただ堕落を貪りたいだけなのにさぁ…」
男はゆっくりと立ち上がると言う。
「んじゃ、悪いけど、力ずくで君を捕獲させてもらうよ。僕もダラけたいからね…にしても、めんどくさい…」
男はゆっくりと銃のようなものを取り出す。
私も神から授かった銃を構える。
「ご安心を…私が一瞬で貴方を倒して差し上げます。」
私がそう言うと男は面倒くさそうに言う。
「僕と正攻法でやり合うのはオススメしないなぁ…まあ、めんどくさいからそのまま撃ってくれた方が良いんだけど…」
「ならば、お望み通り討ち取って差し上げます。」
私は男の首に向けて二発発射する。
男はそれを面倒くさそうにみつめるだけで避ける様子もなく男の首が吹き飛ぶ。
「…思ったよりあっさりとやられてくれましたね。」
私は周りに警戒をしながら男の死体に近寄る。
「ん?」
そして私は気づいた。
こいつは魔人の男ではなく、先程私が伝令を伝える様にと指示した者だった。
「っ?!」
私がそんな声にならない嘆きをあげると背後から先程の魔人の男の声がする。
「あーあ…雷巫女様が人殺しをしてしまいました…まあ、僕が錯覚させてたんだけどね。」
魔人が衝撃と絶望に打ちひしがれてる私の右肩に手を置いて言う。
「君たちに恨みはないんだけど、僕もやらなければ殺されちゃうんだ。今君が殺した彼の様にね。」
魔人はそう言うとゆっくりと彼の死体に近づいて言う。
「悪いけど、僕の貸してた銃は返してもらうよ。」
魔人は銃を手に取って言う。
「君には僕の名前を教えてあげるよ。ささやかなお詫びだと思ってくれて構わないよ。」
魔人はゆっくりと手に取った銃をしまいながら言う。
「僕は邪王教徒No.Ⅰ怠惰のベルフグールだよ…」
私は銃を構えて言う。
「殺してあげます…そして、その後で私も死にます。」
「さっきも言ったけど、僕と正攻法でやり合うのはオススメしないよ。まあ、僕的にはそうしてくれた方が良いんだけどさ。」
ベルフグールはゆっくりと歩いて私に近づいてくる。
私はベルフグールの足を狙い撃って、ベルフグールがそれを避ける為に後ろへ飛び退く。
私は続けて、閃光弾を放って一瞬の激しい光でベルフグールの視界を奪い、その両脚を狙い撃つ。
誰が見ても避けられないと思われたその時であった。
「はぁ…めんどくさいなぁ…禁書の悪魔」
ベルフグールを中心に魔法陣が浮かび上がるが、遅かった様で雷の弾丸がその身体を貫く。
直後、突然私の両脚に激痛が走る。
「ぐっ?!」
どこから攻撃されたのかわからないが、やつの両脚は穴が空いてるはず…
私はそう思っていた。
いや、そのはずだった。
彼女だけでなく誰が見てもそう思っただろう。
しかし、ベルフグールは無傷で立っており、代わりに私の両脚から血が出ていた。
「君は確かに僕を撃ったはずだね。でも、君が傷ついた…ふふっ…おかしいね。」
ベルフグールはゆっくりとコーヒーを淹れながら言う。
私は痛む脚で何とか立ち上がって雷で身体を強化する。
「はぁ…コーヒーは良いねぇ…戦いなんて忘れさせてくれる…僕にとっては最高の癒しだよ。雷で沸騰したお湯を使ってるからかいつもより美味しく感じるよ。」
ベルフグールはゆっくりとコーヒーを飲みながらそんな呑気な事を言う。
私は油断している隙をついてあらゆる方向へ駆け、ベルフグールを撃つ。
ベルフグールは避ける素振りも見せない。
そして、また一言だけ言う。
「禁書の悪魔…」
ベルフグールを中心に魔法陣が浮かび上がるが、また間に合わなかった様でそのままベルフグールを雷の弾丸が貫く。
だが、その直後、また私の身体に激痛が走り、今度は吐血までした。
「がはっ?!な、なぜ…」
今回狙ったのは腹、左腕、右脚、右腕、顎の5箇所だったが、私のその5箇所の部位から血が出ていた。
ベルフグールは当然の様に無傷でコーヒーを飲んでいた。
「ふう…美味しいコーヒーを飲むのは良いねぇ…このコクのある苦味が最高だよ。」
ベルフグールはそう言うとゆっくりと私の方に歩いて近づいて言う。
「君に一つ良い事を教えてあげよう。僕がめんどくさいと感じているうちは倒す事など出来ないと思う事だ。もっとも、僕は怠惰の王だからめんどくさいと感じなくなることはほぼ0に等しいくらいに無いのだけれど…」
動けない私に面倒くさそうに回復薬をかけるベルフグール。
敵に対して回復薬をかける馬鹿は恐らくこいつくらいなものだろう。
私の身体はみるみるうちに回復していく。
身体に空いていた穴は塞がり、流れ出ていた血は止まり、失った血が即座に作られ、補給された。
さらに消費した魔力すら完全に回復していた。
服はさすがに破れてボロボロのままだったが私はそのまま立ち上がって言う。
「これはなんのつもりですか…?まさかとは思いますが、私に対して優しくして見逃してもらおうなどと思ってたいませんか?」
私がそう言うとベルフグールは面倒くさそうに言う。
「君さ〜…鈍すぎだよね〜…僕は君の事は敵だと認識してないんだよ…あくまでその辺の石ころみたいな存在。そう石ころみたいなね。だから、その石を蹴って遊ぶのくらい良いよね?」
私はこいつはヤバいと本能が訴えるのを感じるが逃げ道は無い。
ベルフグールは相変わらずゆっくりと歩いて近づきながら言う。
「安心して良いよ。殺しはしない。ちゃんと僕が使ってあげるからね。」
ベルフグールはそう言うと私の身体をペタペタと触り始める。
身体の隅から隅まで、余すこと無く念入りにと言わんがごとくペタペタと触る。
早く離れてこいつを殺さないといけないと頭では分かっているが何故か身体が全く動かない。
ベルフグールは身体を触るのをやめて言う。
「これで、君は僕のもの。」
私はようやく身体が自由に動く様になって構えた銃で素早くベルフグールの頭を撃ち抜く。
その魔人は避ける事も何かを言うこともなく至近距離からの狙撃をくらい力なく倒れる。
そして、私はニヤリと笑って言う。
「フフッ…雷巫女も呆気ないものだったね…今頃は焔巫女の所にも僕の部下が魔法陣を設置しているはずだよね…」
僕はそのまま死んだ魔人の銃を手に取る。
「今回は君の出番は無かったね…バルバロッサ…」
すると銃から声がする。
「そうですね。次はちゃんとお使い頂けると私は嬉しいのですが…」
「そうだねぇ…次はめんどくさいなんて思ってられないくらい強い子だと良いなぁ…なんたって、あのブラスロア君の所なんだからさぁ…」
「それはいいんですけど、ちょっと若い女の身体に触り過ぎではありませんの?」
「仕方ないじゃん…この姿の僕だと確実に神の加護を受けた身体に入るにはあれぐらい触らないといけないんだからさぁ…」
そこへ一人の骸骨の兵士が現れる。
「ベルフグール様?!」
骸骨は僕にその手に持った荒々しい骨の刃を向けながら言う。
「あー、僕はこっち。それは僕じゃないよ。魔力で分からない?」
骸骨の兵士が刃を即座にしまって言う。
「も、申し訳ございませんでした!私としたことが早とちりしてしまいました。」
「うん。それはいいんだけど、なんか用事があったんじゃないの?」
「はっ!そうでした!実は闇の神殿に行った嫉妬のレヴィア様が戻ってこない為、傲慢のルシフェル様と色欲のハルモテイス様が闇の神殿に向かわれたとのご報告をと思いまして…」
僕はその骸骨に言う。
「なら、君たちは総出で闇の神殿に行きなさい。焔巫女は僕が捕らえてくるよ。」
そう言い、僕は魔法陣を描き、転移する。
残された骸骨も転移して、そのまま軍を率いて闇の神殿に向かって行く。
〜炎の神殿〜
「焔巫女様、雷巫女様がお話があるとの事で神殿への進入の許可を得たいとの事ですが、いかが致しましょうか?」
私は魔人の事だろうと思い、進入を許可する。
そして、入口まで雷巫女を出迎え、奥の部屋へと案内する。
「さあ、雷巫女よ。入るがよい。」
私は部屋の扉を開けて雷巫女を先に入らせる。
「それでは、入らせていただきますね。」
ニコニコと微笑みながら雷巫女は部屋に入る。
そして、奥の椅子に座る様に促し、雷巫女が座ろうとした瞬間だった。
「焔巫女様、この部屋には客人を殺すための設備が施されているのですか?」
「いや…そのはずは無いが…」
雷巫女はなんだか怖いから立ってお話させてくださいと言うので私も立って話そうと私が立とうとした瞬間、銃口が額に押し当てられる。
「なんのつもりだ…」
私がそう言うと雷巫女はニコニコと微笑みながら言う。
「あらあら…先に仕掛けられたのは貴方の方では?」
雷巫女はニコニコと微笑みながら二つ目の銃を手に取る。
「お前こそ、雷巫女を偽り私の神殿に侵入しているであろう?」
「フフッ…さすがに見た目や声は同じ様に出来ても魔力の再現は難しいねぇ…今回は自信あったんだけどなぁ…」
私は手に忍ばせていたナイフを振り、雷巫女を遠ざける。
そして、椅子の下に隠していた鎖鎌を手にして言う。
「私は炎神より力をもらった、フレアノーツだ。冥土の土産に覚えておくんだな。」
雷巫女はダルそうに言う。
「僕は邪王教徒No.Ⅰ、怠惰のベルフグールだよ。一応、この子の時も聞いたから聞くけど、大人しく僕の言う事を聞いてくれるとありがたいんだけどなー…どう?」
「ふん。言わずともわかってるって顔してるくせに役作りの好きなやつめ。」
私がそう言うとベルフグールはめんどくさそうに顔を落としながら言う。
「でーすーよーねー…雷巫女の時もそうだったもんねぇ…」
そして、ベルフグールは面倒くさそうに先程の2つの銃とは別にもう2つ銃を手にして言う。
「じゃあ、めんどくさいけど、君の動きを止めてしまう事にするよ。」
「ふん。ここまで来た事、後悔させてやろう!」
私は相手から何かをしかけてくるのを待つ。
能力がわからない以上下手に攻撃する訳にはいかない…
「おやおや。様子を見ている様だが、後悔させてやるんじゃないのかな?このままでは君の方が後悔してしまうよ。」
ベルフグールが銃を構えて言う。
「立ち塞がる障壁よ自壊しなさい。ベルフェゴール・アヴィス!」
私は足元に魔力の流れを感じて飛び退く。
その瞬間、先程まで私が居た場所から無数の弾丸が発射される。
「効くかよ!遍く星々をも焼き焦がす豪炎よ…我に力をさずけたまえ!全て焦がせ!」
私は自身の魔法で限界強化された身体の力を使って、一気に間合いを詰める為に全力で地を蹴る。
ベルフグールは面倒くさそうにため息を吐きながら言う。
「やれやれ…出来る事なら今の一撃で戦闘不能にしたかったのだが…そうもいかぬよのう…」
ベルフグールは4つの銃のうち3つをしまいながら言う。
「禁書目録に書かれし、魔法騎士」
ベルフグールと私の間に魔力で出来た騎士が立ちはだかり、私の攻撃を騎士が受けて崩壊する。
私はそのまま左に移動し、ナイフで斬りかかる。
「めんどくさいけど、僕も数千年ぶりにちょっと本気出しちゃおうかな…」
ベルフグールはそう言うと背中に烏のような漆黒の翼を現す。
私のナイフの一撃を僅かに引いて避けるとそのまま私の突き出した右腕を掴む。
その瞬間、私は頭が割れる様な強烈な頭痛に襲われる。
痛みに意識を奪われそうになるが、なんとか堪えて顔を顰める。
「安心してもいいよ。もう君は僕の支配下だよ。この姿の僕に触れられながら、自我を保つなんて、神ならいざ知らず、生身の人間では痛くて辛くてたまらないはずさ。あまり抵抗しない方が楽になれると思うんだけど…」
私は身体からだんだんと力の抜け始めるのを感じながら言う。
「ブラス…ロア様…どうか…この国を…」
私の視界が静かに暗闇に変わる。
「フレアノーツ、君は強い。だが、強さだけでは僕には勝てない。どこかで楽をしようと思えば堕落が生まれる。僕はその堕落を引き出すに過ぎないのだよ。」
ベルフグールは掴んでいた腕を離し、死んだ様に地に叩きつけられたフレアノーツの身体を肩に乗せて言う。
「さてと…次は暗黒巫女の元かな。まあ、あっちには三人も居るわけだし、僕はこのまま帰るつもりだけど。」
思い出したかの様に肩に乗せたフレアノーツの腕の肌を出させて、その部分に触れ、自身の一部をフレアノーツの体内へと入れる。
「よし。これで僕とこの子は一心同体となったわけだし、今度こそ帰ろっと…でも、こんな事しないといけないのはめんどくさいなぁ…」
ベルフグールは転移魔法陣を作成して自分の城に帰る。
「う…あ…ふれあ…えすく…」
全てが終わった部屋の中で小さな声が哀しく響く…
雷巫女
種族:光の神子
種族特性:光神を受け継ぐ者
能力:雷神の加護、光神の波動
詳細:生まれついての神の力の持ち主で、人間でありながら自らの崇める雷神よりもはるかに強い光神の力を扱う事が出来るが、まだまだ幼い彼女では身体的負担が大きく作中でそれを発揮する事はなかった。
ベルフグールに全ての力を奪われた後に身体を入れ替えられて自身の放った銃弾に撃ち抜かれて死亡した為、彼に殺された扱いとなって、魂をベルフグールに閉じ込められている。
フレアノーツ
種族:人間
種族特性:炎神の加護
能力:炎神の抵抗者
詳細:炎の神殿の巫女の少女。
自らの崇める炎神から武器と防具を譲り受け、さらに力も貰った。
元々名のある名家の産まれだったが、次の巫女の候補が彼女以外に居らず、仕方なく焔巫女をしていた。
神から受け継いだ、鎖鎌と元々使っていたナイフの二種類の武器を使って敵対者を葬る。
残念ながら作中では彼女の鎖鎌は活躍出来なかったが、ベルフグールが相手で無ければ罪の名を持った魔人と一体二で勝負しても負ける事は無かったであろう人物。
ベルフグールに負けた後は身体をベルフグールに乗っ取られてしまい、さらには魂をベルフグールの一部と入れ替えられて取られてしまった為、魂をベルフグールに閉じ込められてしまう。
ベルフグール
種族:魔人
種族特性:怠惰を統べる者
能力:怠惰、反射、束縛、乗っ取り
詳細:邪王教徒No.Ⅰの怠惰の魔人。
他の罪の魔人よりもはるかに強い力を持つが常に乗っ取りによって誰かの身体に入ってないと存在すら出来ない。
その為、老いた身体は捨てて、常に若い身体へと乗り換えている。
禁書の悪魔の反射の能力により、自身に向けられた遠距離からの攻撃を全て無効化し、自身が負うはずだったダメージをそのまま攻撃した相手に跳ね返すと言うチートみたいな能力を持つ。
彼の乗っ取りは直接触れる事で身体を入れ替える能力である。
さらには相手の素肌に触れて自らの一部と相手の魂を入れ替える能力もある。
どちらの時も相手の能力を奪う事が可能であり、まさにチートな魔人なのである。
彼に殺された魂や入れ替えられた魂は彼の中に閉じ込められる。