憤怒の剛風
「クソッタレが…なんだと言うのだ…」
少女は部下の伝令を聞いて一人で怒っていた。
まるでそうしなければならないかの様に…
伝令を告げた部下が言う。
「レザン様、我々もそろそろ行かねばならない様ですよ。怠惰の魔人が雷の神殿に到着したようですし。」
「ふん!それぐらい分かっておるわ!ワラワの怒りも爆発寸前じゃ!さっさと馬を引け!風の神殿に案内しろ!」
「お言葉ですが、レザン様、風の神殿へは貴方が仰った様に魔法陣で行けるようにしてますよ。」
「ふん!つくづく出来の良過ぎた部下でムカつく奴らだ。お前たち!モタモタしてたら、ワラワが人間どもを根こそぎ費やしてしまうぞ!さっさと準備しろ!」
レザンの一声で全ての部隊が進軍の支度を始める。
レザンはその間に怒りながら魔法陣に向かって歩き、転移する。
〜風の神殿〜
「皆の者良く聞け!たった今、我らが崇めし風の神、ウンディーネ様より、名を授かり、神の力を得た武器と防具をくださった!この力で必ずや、この風の国の民を守るとここに誓おう!」
「「「おおー!」」」
風の巫女、アスタレアの一声で風の国の民の士気が上がる。
そこへ伝令係の者から水神の力を得た水巫女が邪教の手に堕ちたとの報が届く。
当然、風の民に動揺が走る。
神の力を得た者がこうも早くに邪教の手に堕ちたとなれば当然の事であろう。
だがしかし、彼女は違った。
「皆の者ー!静まれー!この国は我らが偉大なるウンディーネ様の治められる土地であるぞ!我らが負ける事など断じて有り得ぬ!水巫女が邪教の手に堕ちたならば我らの力で救い出してやろうでは無いか!」
「「「おおー!」」」
風の国の民を鼓舞するアスタレアの声が合図となったかの様に空から1人の魔人が降ってくる。
その魔人はニヤリと不気味に笑うと苛立ちを隠さないで言う。
「ほう?誰から何を救い出すだって?」
突然の魔人の姿に風の国の民が動揺する。
「狼狽えるな!我が居る限り、ここは安全だ!風の国の民は我がウンディーネ様より頂いた、アスタレアの名にかけて保証する!」
アスタレアの一声で風の国の民は鼓舞され続く敵襲に備える。
「ふん。ワラワを目の前にしてその態度…気に入らぬ!邪王教徒No.IV、憤怒のレザンがこの怒りを持って殺してくれる!」
アスタレアはレザンを見て言う。
「我は誇り高き風の国の巫女、アスタレア!我が魂に貴様の手は届かぬ。今のうちに大人しくここから消えれば命まではとらぬぞ。」
「ふん。人間ごときが生意気なっ!強化:怒り!」
レザンは幼女みたいな見かけによらず鋭い拳の突きで大砲の様な衝撃波を次々と発生させる。
「地を裂け、風を裂け、空を裂け…暴風斬撃!」
アスタレアの魔法で鋭い風の刃が発生し、衝撃波を切り裂きながらレザンの身体を引き裂かんが為に突き進む。
「調子に…乗るなぁ!」
レザンの怒りの咆哮によって風の刃は脆くも崩壊する。
その隙をついてアスタレアが一気に間を詰めて手に持った風神の槍の突きを放つ。
その一撃はレザンの身体を撃ち抜き、レザンの小さな身体が吹き飛ぶ。
「人間風情が…ワラワの身体を傷つけようなど考えるでないぞ?」
レザンは龍の様な翼を広げて怒りを全面に押し出した表情で言う。
アスタレアがレザンの一撃に備えて槍を構えた瞬間アスタレアの身体に強烈な衝撃が走り、そのまま凄まじい速度で衝撃の方向に吹き飛ばされる。
いくつもの岩山を粉砕し、ようやく止まった先で喉元を駆け上がる血を吐く。
「もう終わりか?大口を叩いた割には情けないのう?」
レザンがアスタレアの顔を片手で掴み持ち上げながら言う。
たった一撃、その一撃でアスタレアの身体は動けなくなっていた。
力無くアスタレアの四肢が重力に引かれる。
「あ…が…」
「ほう?まだ生きておったか。そうでなくてはな。ワラワの怒りが貴様の国に行かぬうちに立たねば風の国は滅ぶぞ?」
レザンは怒りを隠すことも無く静かに言い、アスタレアを離す。
ドサッと力無くアスタレアの身体が落ちる。
「あ…ぐっ…」
アスタレアは立ち上がろうとするが身体に力が入らない様子で全く動けないでいる。
レザンはアスタレアの身体を肩に抱えて言う。
「動けない様ならワラワが貴様の国を滅ぼすところを間近で惨めに這いつくばらせて見せてやろう。貴様らの誇りもろともワラワの怒りで粉砕してくれるっ!」
レザンはそのまま風の国の民を皆殺しにするためにものすごい速さで風の国に戻り、アスタレアを自らの近くに投げる様に置くと凄まじい勢いで風の国の民を殺していく。
あちらこちらから風の国の民の悲痛な叫び声が飛び交う。
「怒れ!苦しめ!怒号をあげよ!ワラワは憤怒!この世の全ての怒りの代弁者ぞ!」
レザンの狂気に満ちた怒りが風の国を一刻にして滅ぼす。
アスタレアはそれを止めることも出来ずにただ己の無力さを呪った。
風の国の民を全て残らず殺し尽くしたレザンがアスタレアの前に立って言う。
「ワラワは怒りの化身。お前の怒りもワラワとなる。それがワラワの存在価値であり、ワラワがこの世に存在する理由となる。お前たち人間の怒りが止まぬ限り、ワラワは何度でも蘇り、何処にでも居る存在となる。それがワラワの怒りじゃ。己らの怒りにすら打ち勝てぬ弱さを思いしれ、そして魂に焼き付けろ。貴様らの怒りの感情を寄せ集めたのがワラワだ。そして、ワラワは己の存在にすら憤怒する。それがワラワの存在だからだ。ワラワを殺したくば、貴様のその声で怒りの感情を消せ。それが出来なくば、ワラワを殺す事など絶対に出来ぬと思え。」
レザンはアスタレアの身体を肩に抱えて自分の城に戻っていく。
程なくして到着した兵が死んだ男をその場で食い漁り、女は保存の魔法をかけてどこかの食料庫へと運んで行く。
その後死んだ家畜を捌いて食料庫へと運んで行く。
その姿はまるで食を極めし悪徳の栄えの様であった。
レザン
種族:魔人
種族特性:憤怒の化身
能力:憤怒
詳細:己の存在にすら怒りを表す全ての人の怒りの具現。
怒りと言う感情が存在する限り完全に身体を消し飛ばされようと何度でも蘇る能力を持つ。
見た目は小さく可憐な少女だが、これが最初の怒りであると本人は言う。
常になにかに対して怒っており、その矛先を向けられたものは神であろうと死に絶えると言われている。
戦闘時は己の拳のみで戦う。