貪欲な魔人
円卓会議の少し前…
「邪教酔狂…我らが邪神様の為に身を殺し、心を殺し、魂を捧げよ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉー!」」」」」
一人の司祭と思われる人物がそう言うと彼の前で集まった人々が大声で雄叫びをあげる。
ただし、彼と違い不死者が大半を占め、数人の魔人も居た。
彼はその魔人たちを従え、彼らの本拠地に一番近い神殿を目指して進み始めていた。
〜同刻〜
「リヴァイア様…どうか私の願いを聞いていただけないでしょうか…」
『ならぬ…』
一人の少女がリヴァイアと呼ばれた龍に何かを願っている様だ。
「そんなっ…!我々だけではもうどうしようもないんです!どうか、そのお力をお貸し願いたいのです!」
『神の力は強大だ。それをたかが人間になぞ、そう易々と貸せぬ。』
少女はそれを聞いた途端、ものすごい剣幕で龍に詰寄る。
「それでは私たちに死ねとおっしゃるのですか!邪教の者が我々、水の国の戦士達を軽々となぎ倒して蹂躙してるんですよ!」
『…なに?それはまことか?』
さすがの龍も少し驚きの声をあげる。
「嘘であればどれほど良かったかと私も思いました…しかし、最近の魔物…特に不死者がやたらと多いのです。そして、命からがら逃げ延びた者たちが皆、口を揃えて邪教の者たちが攻め込んで来たと言っているので間違いはないと思います。」
『そうか…』
リヴァイアは考える。
神が直接関与せずに邪教の者を殲滅する方法を…
この世界の掟を破らずに救う方法を…
『ならば…我の力を込めた刀と道着をくれてやろう。さらに我と同格と言うことを示す名をやろう。』
「な、名前までもらってしまってもよろしいのですか?!」
少女が驚くのも無理はない。
神と同格と言う事は同格と認められた神と同じ力が行使でき、さらには自在にその力を扱う事が許されるという事になるのだ。
『うむ。奴らは強い。故にここで食い止めねば世界は闇に包まれるであろう。ならば、これくらいしてもやり過ぎではなかろう?』
リヴァイアは刀と道着、さらに名前を少女に授ける。
「あ、ありがとうございます!この私、アリスがリヴァイア様のお力で必ずや、勝利を収めて参ります!」
『うむ。頼んだぞアリスよ…』
アリスは道着に着替え、水神の刀を腰に差して前線へ走り去る。
『これくらいしか力になれずにすまぬ人間よ…』
リヴァイアは誰も居なくなった神殿から天へと繋がる門に消える。
…
私は能力を確認する。
「まずはこの能力で牽制しますか…能力発動!」
私は天に水の力を圧縮し、巨大な水泡を作りあげる。
「弾けて!水巫女の漣!」
巨大な水泡が弾け、全てを切り裂く斬撃となって前方の邪教のものを殲滅する。
「うわあああああああ!」だとか「ぎゃあああ!」なんて声が聞こえる。
私はそのままの勢いで突き進みながら言う。
「その一撃は全てを砕く荒波の如し…その一撃は全てを貫く豪雨の如し…その一撃は…」
私は地を蹴り、身体を宙に浮かせ、刀を構える。
「全てを裂く水刃の如し!我が一撃、受けてみよ!水月鏡花!」
そのまま振り下ろした刀から地を割り突き進む斬撃が放たれる。
斬撃はそのまま敵対者を次々と薙ぎ倒して行く。
しかし、倒しても倒しても次々と不死者が増えていき、その数は大きく膨れ上がった。
「くっ…どれだけ斬ってもキリがない…一体どこから…」
そんな事を考えながら増えた不死者を次々と斬り倒していると…
「おやおや…これまた派手にやらかしてくれましたね。」
私は瞬時にそいつが敵と判断し、一気に間を詰めて斬る!
「おやおや。これはこれは美しいお嬢さんですね。貴方のような方がこんな物騒なものを振り回してはいけませんよ。」
そいつは片手で私の刀を受け止め余裕のある声で言う。
「黙れ!貴様は私がここで倒す!」
「おや?私はまだ誰も殺しておりませんが…まあ、良いでしょう。お相手致しますよ。」
目の前の人の姿をした者は楽しそうに微笑むと悪魔の様な翼が現れる。
「私は邪王教徒のNo.Ⅱ貪欲のマーモンでございます。以後お見知りおきを…」
マーモンは丁寧にお辞儀をしながら言う。
私はやつが私から目を逸らした隙をついて刀で斬った!
「おやおや。人間のお方は血の気が盛んな様ですね。人間の方は貴方の様に恐ろしい方ばかりなのですか?」
マーモンは死角からの攻撃を片手で受け止めて和やかな声で言う。
「チッ…魔人の分際で!」
「おやおや。いけませんね。そんな傲慢な態度で私を倒せると思わない事ですよ。私たちは罪の名を冠する者達なのですから…もっとも、貴方如きに私は倒せませんがね。」
「これを見てもまだそれが言えるかな?」
私は神の力を持った水を刃に這わせる。
「おやおや。水神の力ですか…この力、頂いてもよろしいのですか?」
「なに?!」
マーモンは私の生成した神の水を自分の手に這わせ、吸収する。
私はそれを見て、素早くやつから刃を離し、距離をとる。
「おお!これが神の力というものですか!素晴らしい!この様な力を人間は手に出来るのですね!実に素晴らしい事です!」
マーモンはそう言うと神の力を使って自分の周りに水の刃を七つ生成する。
「なんだと?!」
私が驚いているとマーモンは嬉しそうに微笑みながら言う。
「この様な素晴らしい力をいただきありがとうございます。まあ、私が力を奪ったんですけどね。」
「このっ!」
私は神の力で強化した脚力で地を蹴り、マーモンに刃を突き出して言う。
「全てを貫く鋼の如き豪水よ!我が刃に宿りて敵を撃て!水神刺突!」
そのままマーモンに向かって私は飛んでいく。
「いけませんね。その程度の力では今の私に傷すらつけられませんよ。」
マーモンはそう言うとゆっくりと自分の生成した水の刀を持ち言う。
「叩き落とせ…燕返し!」
一瞬にして私の身体が斬られた。
そのことに気づき喉元を駆け上がる血を吐く。
「がはっ?!い、いつの間に…」
マーモンはニコニコと楽しそうに微笑みながら言う。
「おやおや。魔人の分際が神の力を得た貴方を軽々と倒してしまいましたね。安心してください。貴方の様に美しい方は私が責任を持って保護致しますよ。」
マーモンはそう言うとゆっくりと私に近づいていく。
私は本能的に逃げなければならないと感じるが身体が動かない。
「安心してお眠りなさい。今の貴方では動く事すらままならないはずです。全ての力を奪われた今の貴方では…ね。」
「全ての…力…だと…」
私が最後の力を振り絞ってそれだけ言うとマーモンは優しく微笑みながら言う。
「ええ、言葉そのままの全ての力を奪いました。私がこの力を持っている限り貴方は死にませんが私が死ねば貴方も死にます。それが私の力です。そして、貴方は私の命令は絶対に守らねばなりません。貴方の意思を保ちたいのであれば、私を殺すつもりならば、この事を肝に銘じて起きなさい。」
こうして水の巫女は邪教の手に落ちた…
「ベルフグール様!先程、マーモン様が水巫女を捕獲したとのご連絡がございました!」
面倒くさそうに報告を受けた魔人が言う。
「あーそう?なら、君たちも頑張って雷巫女の捕獲を頼むよ。僕はここで君たちの援護をしてあげるからさ…」
「はっ!承知致しました!」
伝令係の兵士が退出すると面倒くさそうにしていた魔人が言う。
「強欲は勤勉なやつだなぁ…もっと僕みたいに堕落に溺れてほしいものだ…」
魔人は転移魔法を使ってどこかへと消える。
マーモン
種族:魔人
種族特性:貪欲の支配者
能力:貪欲、強奪、寛容の目、孤独な慈善
詳細:邪王教徒の中で罪の名を冠するNo.Ⅱの貪欲の魔人。
誰に対しても常に礼儀正しい口調とニコニコと微笑む事を忘れない性格で見た目は人間に悪魔の様な翼が生えてるだけの為、翼を隠されると普通の人間と区別がつかない。
物腰の柔らかな彼に対して決して傲慢になってはならない。
もしも、彼に対して傲慢になってしまえば運命を司る神であろうと敗北の運命から逃れられないものとなる。