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十七羽

 閑古屋の前に辿り着いたが、人の気配は感じられなかった。やはりそううまくはいかないのだ。仕方なくとぼとぼと歩いていると、近くのコンビニに誰かが入るのが見えた。どきりとして早足でコンビニに行くと悠の背中があった。

「悠」

 近寄りながら呼ぶと、驚いた顔で振り向いた。

「今、閑古屋にいたんだよ。悠が来るんじゃないかって」

 さらに悠は目を丸くした。

「俺もこれから閑古屋で夕飯食おうと思ってたんだよ」

「そうなの? じゃあ待ってればよかったんだね」

 本当に偶然ばかりだと不思議な気持ちになっていた。

「華弥に会えるなんてラッキーだな」

 心が暖かい布に包まれていく。先ほどの嫌な出来事が消え去り、幸せな想いが胸に広がった。

「私も閑古屋にいていい?」

 言ってから急に恥ずかしくなった。頬が真っ赤に火照っているのを隠すために目を逸らしたが、悠は大きく頷いただけで何も感じなかったようだ。

 レジカウンターに並んで座り、袋から買ったものを取り出した。

「悠はいつも夜ご飯はここで食べてるの?」

 無意識に疑問が漏れたが、特に悪い気はしないだろう。

「たまにな。息苦しくなった時とか」

 硬い声に変わって緊張した。明らかに不機嫌になっているのに気付いた。

「華弥には仲のいい友だちっているか?」

 逆に聞かれて、冷や汗が額に滲んだ。

「いるよ。一応」

「友だちとは喧嘩したことはあるのか?」

「喧嘩はしたことないよ。ちょっとした言い争いはあるけど、すぐに仲直りするし」

 優しい母親を持つ泉を妬んでしまうのは絶対に秘密だ。

「そうか。華弥は友人に恵まれてるんだな」

 あまりにも意外な言葉だった。以前みんなから悠と呼ばれていると言っていたので学校の人気者だと想像していたが違うのか。

「それってどういう……」

「もういいだろ。この話は終わりだ」

 そして体中を潤すようにペットボトルを一気飲みした。華弥もゆっくりとお茶を飲みながら、もう質問をするのはやめようと決めた。余計なことをしたと後悔して俯いた。

「今日も母さんは仕事してるんだな」

 はっと顔を上げ、首を横に振った。

「仕事じゃないんだけど……」

 白紙のテストにいらついて家出した和華子が情けなさすぎる。一体どこへ行ったのか、いつ戻って来るかわからない。

「母さんが帰ってくる時は華弥が全部家事しないといけないんだよな。母さんは何を考えてるのかな」

 尖った口調だったが言い返さずにもう一度下を向いた。

「私のママ、すっごく厳しくて……。怒られるのが怖いから仕方ないの」

 弱弱しく呟いた華弥を見つめながら、悠は大きくて長いため息を吐いた。

「初めて会った時から思ってたけど、華弥って必ずママがママがって言うよな」

「えっ?」

 目を見開くと、悠はじっと真っ直ぐ眼差しを向けてきた。

「高校生なんて大人と同じだろ。それなのに母親に怒られるのが怖いなんて幼稚園児かって笑われるぞ」

 幼稚園児という言葉が体に突き刺さった。確かにまだ親離れしていないのかと呆れられるだろう。

「で……でも……」

「親にいちいち口出しされても、自分にはやりたいことがあるんだから邪魔すんなって怒鳴り返せないのか? それに親がいなくなった時、一人でどうやって生きていくんだ? 死ぬまで親がそばにいてくれるとか勘違いしてるのか?」

 悔しさと恥ずかしさで手足が震えた。初めて自分がだめな人間だと気が付いた。

「……無理だよ。ママに勝てるわけないもん」

「なんで無理なんだよ。負けっぱなしでいいのかよ」

 負けっぱなし……。悠の言う通りだ。七年間、華弥は和華子に勝つために数えきれないほど反抗し続けてきたが、どうしても勝てない。

「負けてるなんて嫌だよ。だけど私のママは普通のママとは違うの」

 反論したが悠は無視をして横を向いた。高校生のくせに何を甘っちょろいことを考えているんだと馬鹿にしている風にも見えた。穴があったら入りたいという想いで胸が締め付けられた。

 


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