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十剣物語 ~最弱の剣~  作者: 朝吹小雨
4/9

服破りの魔剣

十剣物語 第4話


【1】


「ん…」


寝ていた目を覚ます。

私が目を開けると、見慣れぬ天井が広がっていた。

そうだ。ここは、私の家ではない。


「あ、そうだ…。私、捕まって…」


私、当真愛純は、ベッドから身体を起こし、あたりを見回した。

ベッドは大きくて、ふかふかで、装飾品があちこちに置いてある。

お姫様のベッド。まさにそんな感じ。

ふと視線を遠くに投げると、そこには、金髪の女の人がいた。


「起きましたわね」


「あ、あなたは…」


アイシア・ランフォード。私を倒し、ここに捕まえた人。


「ずっと、愛純の寝顔を見ていましたわ」


アイシアさんは笑顔でこっちを見ている。

えっ。私の寝顔を…見てた…?


私のこと、心配してくれてたのかな?

昨日のアイシアさんとの戦いは、激しかったから、結構疲れていたんだよね。


「愛純。

 自宅のこと、仲間のこと、きょうだいのことは、心配する必要はありませんわ。

 いろいろ手をまわしているので…安心しなさいな。

 詳しいことは、あとで話しますから」


アイシアさんは、私が気にしていることについて、いろいろ話してくれるようだ。

私は、黙って、こくりとうなずいた。


「まだ眠いでしょうか?」


「ううん、もう目が覚めたよ」


「じゃあ、庭に散歩に出ませんか?」


アイシアさんは、私のすぐそばに来ると、私の手をとり、にっこりほほえんだ。

アイシアさんの手は、白くてふわふわとしていて、

私の手は、綿に包まれたような気分だった。



【2】


アイシアさんの家の庭に出る。庭というより、まるで公園だ。

花々に埋め尽くされた道。

中央の、大きな噴水。

ところどころにおいてある休憩用のベンチ。


私とアイシアさん以外には、誰もいない。

手をつないだまま、二人だけで、庭を歩いている。

朝をむかえたばかりの空は、空気が澄んでいて、綺麗だった。


「あの、手…」


だんだん手つなぎが恥ずかしくなってきたのか、思わず、そういう言葉が出てきてしまった。


「ごめんなさいですわ。ずっとつないだままでしたわね」


アイシアさんは、ぱっと手を離した。


「いえ、私は…」


「帰りたい、ですか?」


アイシアさんは落ち着いた声で言ってきた。


「いえ、すぐには…。

 でも、ずっとここで生活することは、できないと思う。

 和平やイルファのことも心配だし」


「ご心配なく。二人とも、今、ここにいます。心身ともに無事ですわ。

 目的が達成されるまでは、あなたも含めて、ずっと私の家にいてもらいますから」


「…目的?」


「十剣が集まるまで、ですわ」


十剣。それを集めると、どんな願いも叶うらしい。

剣を集めるために、日々バトルが繰り広げられる。負ければ没収だ。


私(愛純)と、双子のきょうだいの和平と、友達のイルファ。

この三名は、それぞれ剣の持ち主だ。

私とイルファの剣は、別に奪われてもいいけど、和平の剣は別だ。


和平の剣は「手刀」。実は剣ではない。ただの空手チョップだ。

和平の剣(手刀)が奪われる、ということは和平の右手が奪われるのだ。

恐ろしい話ではないだろうか。

私は、そんな和平を守るため、自ら剣を使い、戦うことになったのだが…。


この「アイシア」という、財閥令嬢に、負けてしまい、捕まった。


「で、でも、私たち、学校とかあるし。ずっとアイシアさんの家にいるわけには」


「あなたたちの学校なら、大丈夫ですわよ。

 ふつうに通ってくださいまし。

 教科書も、制服も、調達しておりますわ。

 あなたたちの日常を送るため、最大限の努力をいたしますわ」


「いいの? 私たち、アイシアさんに敵対していて…」


「いいのですわ。

 私の目的は、あくまで、十剣を集めること。

 あなたたちを苦しませることではありません。

 愛純たちの剣は回収しますが、そのかわり、愛純たちを他の人から守りますわ。

 そのために、私の家に住まわせることにしたのですから」


「アイシアさん…」


それは嬉しいけど、いつもどおりの自宅に戻れないことの、不安は少しあった。

ただ、アイシアさんの保護下にいれば、ほかの剣士から狙われることは、無さそうだ。

この先どうなるかわからないけど、アイシアさんに従っても良さそうだ。


アイシアさん、大金持ちだし、なんでも買ってくれそうだし。

弱みにつけこんで、何か買わせようかな。

大学の裏口入学のアレとか、就職のコネ権利とか…。(生々しいよ!)


「愛純? 目がお金マークになってますわよ」


「はっ、私としたことが…」


「うふふ。別にいいですわよ。

 私なんて、お金しか価値のない女ですから…」


口ではそう言うが、ずーんとした表情で沈んでいる。

やってしまった。

人のことを、お金で判断してしまった。

謝らないと。


「ご、ごめんなさい。私、庶民だから、お金が欲しくてつい」


「やっぱりお金ですのね(しょぼーん)」


やったぜ。墓穴を掘ったぜ。


「あ、あの、私、その」


しどろもどろで何も声が出ない。

そうだよ! お金だよ!

と言えればどんなにいいか。


「でも、それでもいいのですわ。

 愛純、私がお金をあげるなら、なんでもしてくれる?」


えっ? なんか変な話になってきたぞい?


「え、あの、その、さすがに『なんでも』はちょっと…」


何をされるかわからないし。


「なんでもしてくれますわね! これくらいで」


アイシアさんは、札束を私に押し付けてくる。

どこからその札束を取り出した!?


「だ、だめですよう…」


と言いつつ、チラチラと札束を見てしまう。

私って、こんなにお金に汚かったんだ。

我ながら、絶望してしまう。


「私、愛純さんと、アレをしたり、コレをしたり、いろいろ考えてたのですわ。

 お金で実現できるなら、お安いものですわよ」


や、やめてください! なんでもお金を押し付けるのは富裕層の暴力だよ!

っていうか、鼻息あらいんですけど、このお金持ちは!


「あ、あの。アレとかコレとか言われても、わからないので…。

 あっ、そうだ。

 朝食まだ食べてないよね?」


変な話の展開になりそうだったので、私お得意の料理で、話をごまかすことにした。


「愛純の手料理!? ぜひ、食べたいですわ」


アイシアは笑顔になる。良かった。どうやらストライクヒットのようだ。



【3】


エプロン姿に着替えて、キッチンに立つ。

キッチンが自宅と違うし、とても広いので、最初は戸惑ったが、

どこに調味料がおいてあって、どこに包丁とかがあるのか、だんだんとわかってくる。



「アイシアさん、何を食べたいの?」


「あなたの得意料理でいいですわ」


来たか、そのリクエストが。「なんでもいい」。

それが一番困るのだ…

なんでもと言われて、作ってみて、あとで文句を言われるのはつらい。

もし文句を言ったら包丁で刺してやる…なんてね。冗談だよ☆


まあ、朝だし、目玉焼きでいいよね?


じゅわ。

私は目玉焼きを作った。

シンプルながらも、料理の腕が試される一品だ。


「さあ、召し上がれ」


「いただきますわ」


アイシアさんは、テーブルの上にあるケチャップを取り出すと、

目玉焼きにどバーッとかけだした。


「ケチャップ!?」


「え?」


「目玉焼きには醤油じゃないの!?」


「私、外国人だから、ケチャップをかけるのですわよ」


「そうなのか…たしかに」


アイシアさんは外国人。

外国人だから、目玉焼きにケチャップでいいんだ。

私は妙に納得した。


「うん、おいしいですわぁ…」


ケチャップのついた白身を頬ぼるアイシアさん。

唇から少しケチャップが出てる。


「アイシアさん、お口からケチャップ出てるよ」


私は、ナプキンで、アイシアさんのケチャップをふきとる。


「私としたことが…唇を汚すなんて、はしたないですわね。

 愛純の手料理がおいしすぎるからですわよ。もうっ。

 …うふふ」


「えへへ、ありがとう」


料理を褒められて、素直にうれしかった。

和平は、なかなか褒めてくれないし、やっぱり、

褒めてくれる人がいると料理もはかどる。


私は、調子に乗って、どんどん料理を作って出した。


「卵焼きどうぞ」

「オムライスどうぞ」

「茶碗蒸しどうぞ」

「ゆで卵どうぞ」

「ピータンどうぞ」

「ホビロン」


だんだんアイシアさんの顔が青くなっていってる気がするけど、

褒められるのがうれしいので、どんどん作ってしまう。


「あの……愛純。腹八分が大事なのですわ。けふっ…」


アイシアさんは、げっぷしそうな口を手で抑えている。

アイシアさんのお腹は、少しぽっこりしてきたような気がする。

そうだ。いくらアイシアさんが外国人でも、こんなにいっぱいは食べられないはずだ。


私はそれに気づき、手を止めた。


「ごめんなさい。いっぱい作りすぎたわ」


「いいのですわよ。あとで、家の人たちと食べるのですわ」


「家の人たち?」


「護衛とか、付き人とか、そういう人たちですわ」


家の人=家族じゃないんだ。

そういえば、アイシアさんのお父さんや、お母さんは、いったいどこにいるのだろう?

たぶん、アイシアさんの母国にいると思うのだけど…。

アイシアさんは、ひとりでさみしくないのだろうか。


「アイシアさんのお父さんとお母さんは…ここにはいないの?」


「遠い祖国に健在ですわ。兄弟姉妹は、それぞれいろんな国で活躍しております」


「そうなんだ」


「そうなんですわ」


「さみしくない?」


「さみしくないですわよ。この家には、いろいろな付き人がいますからね。

 何より、愛純もいますし、ずっとにぎやかで楽しいですわよ」


「アイシアさん…」


「これは強がりではなくてよ。私、愛純たちと会えて、本当にうれしく思いますわ」


ガタン。

そのとき、奥の扉が開いて、人が入ってきた。

背の高い、若い男の人。スーツを着ている。


【4】


「どうしたのですか、いきなり。食事中ですわよ」


「申し訳ありません、お嬢様。家の外が騒がしく、警備員を出動させております。

 お嬢様にもしものことが無いか、この私めが見回りに来ました」


男の人は、丁寧な感じで、すらすらと報告を続ける。


「外が騒がしい? どうしたのでしょう」


「詳細はわかりません。しかし、複数の男が騒いでいるようです。

 物騒ですので、今日はあまり外に出ないほうがよろしいでしょう」


「わかりましたわ。報告ありがとうですわ」


「もう1つ報告があります」


「?」


スーツの男は、二回目の報告を口にする。


「私が…ニセモノの護衛だということを、報告申し上げます」


「……?

 あなた、何を言って…きゃっ!?」


スーツの男は、自分の顔を、指でびりびりと破り捨てていく。

そして、同時に、黒いスーツを一瞬で脱ぎ捨てる。


現れたのは、さっきのスーツの男とは、まったく別人。

変装していたのだった。


「驚かせてごめんよ、アイシアお嬢様」


茶髪で、じゃっかんチャラい雰囲気の男の人が現れた。

授業を怠けてそうな大学生か、ぶらぶらしたフリーター。そんな印象だ。

しかし、さっきの変装が見事すぎて、少しだけ有能そうにも見える。


「あなた…何者ですの? 人を呼びますわよ」


「おーっと。無理無理。警備員や本物の護衛さんたちは、

 いまごろ、寝てるか、外に出てるよ」


「くっ!」


アイシアさんは、テーブルに置いてあった、コショウの瓶をつかむと、男の人に投げつけた。

ぼふっ!

瓶が割れ、もくもくと、煙のように、コショウが舞い散る。

私は思わず、口と鼻をおさえる。


いつのまにか、アイシアさんの姿は、壁際まで飛んだ。

壁にかけてある「銃剣」(十剣のひとつ)を手にとる。


「ここに銃剣を置いてあって、正解でしたわ。

 くせ者がここまで来るなんて、大したものですわね…」


アイシアさんは、銃剣をかまえ、男の姿を狙う。


「ごほごほっ、手荒な歓迎だぜ、お嬢様…」


コショウの直撃をまともにくらったのか、男の人は、せきこんでいる。


「手荒な訪問をした者には、手荒な歓迎を行うのが礼儀というものですわ。

 名乗りなさい。あなた、剣士のひとりですわね?」


「そうだよ。俺は宮城竜司。竜司でいいぜ。剣士の一人さ」


「やはり…。ここまで侵入するとはね。警備体制を考えなさないといけませんわね。

 竜司、手加減はしませんわ」


「しかしまあ、すげー美人さんだなぁ。女神って実在するんだな…」


竜司の目は、きらきらと輝いている。

アイシアさんの顔を見て、すごくうれしそうだ。


「な、何を言っているのですか! 真剣な戦闘中に、浮いた言葉を発するなんてどうかしてますわ」


「俺は世界中の美女を、虜にするのが夢なんだ。アイシア、君もその1人だ!」


ここで、アイシアさんの銃剣が火を噴いた。


ばしゅっ! 外れた。

竜司の足の少し前に、着弾したのか、床が黒ずんでいる。


「ちっ、外れましたわね…」


「おーっと、あぶねぇあぶねぇ…ふぅ。

 いきなり銃をバーンと撃っちゃうなんて、怖いことするぜ」


アイシアは、二発目の銃弾を放つ。


竜司の顔の少し横を飛んで行き、壁に当たる。


「くっ…私としたことが…銃剣をうまく扱いこなせないなんて」


アイシアは悔しそうに顔をゆがめる。


「知ってるか?

 十剣には、適合性というものがあるらしいぜ。

 アイシア、お前には、銃剣はあまり適していないようだな?」


「お黙りなさい! 私は、うまく扱ってみせますわ!」


三発目の銃弾。


「ぐっ!」


竜司の顔が苦痛にゆがむ。身体がゆらぐ。

え…、もしかして当たったの!? どこに?


竜司は、痛そうに、お腹をおさえている。そこに当たったのね…。


「やるじゃねえか…」


「あなたもなかなか耐久性ありますわね。

 まともにくらって、まだ立っていられますのね」


「くっくっく、強いお嬢様も美しい…。

 俺が見込んだだけのことはあるぜ」


「うっ、なんか気持ち悪いですわ、この人…」


私もそう思います。


「竜司。私は、戦いを好みませんわ。

 自分で銃を撃っておいてなんですけど…。

 いくばくかのお金や土地を差し上げますから、

 あなたの剣を私に差し出してくれないかしら?」


アイシアさんは交渉を始めた。

だけど、屋敷に侵入して、お嬢様をわざわざ狙いにくるような男が、

話を聞いてくれるのだろうか。


「断ると言ったら?」


「断る可能性など考えていませんわ」


「いやー、そりゃ参ったなぁ。

 俺も人間だから、お金とか土地とかくれるんなら、

 ちょっとは心がゆらぐっていうか…」


「宝くじ1等よりも、いいものをあげますわよ。

 あなたにとっていい取引ですわよ」


「俺、お金や土地より、欲しいものがあるんだ」


「なんですか? なんでもあげますわ。

 天国行きのチケットもありますわよ」


アイシアさんは、にっこりと微笑みながら、

銃剣の引き金に、しっかりと指を食い込ませている。

ああ、返答しだいでは殺るつもりなんだ。


笑いながら、銃をつきつける交渉スタイル……。

これって、大人の交渉術?みたいなものなのかな?

なんだか、凄いものを見ているような気がする。


「俺は、世界中の美女が欲しいんだ」


「は…?」


ストレートすぎる願望に、私もアイシアさんも、少し引き気味だ。


「世界には、80億人もの人間がいるんだぜ。

 その中から美女だけ探すっていうのも大変な労力だ」


「そ、それで十剣あつめて叶える願いっていうのは…」


「俺の願いは、世界の美女を1人占めさ!」


「…天国に行けば、美女はいっぱいいますわよ」


アイシアさんは、銃の引き金をぐぐっと動かす。


「ま、待ってくれ!」


「待ちませんわ」


「撃つなら、まず俺の剣を見てからにしてくれ」


「…そういえば、あなたの剣をまだ見ていませんわね」


「だろ? 俺を倒すのは、そのあとでもいい。

 ほら、これが、俺の持ち剣…魔剣だ!」


竜司が、どこからか、剣を取り出す。

その剣は、一見、ふつうの剣に見える。


「魔剣? 魔剣というわりには、なんか地味なような…?」


「この魔剣の特殊能力を見せてやるぜ! くらえ!」


竜司の動きは想定外に早い。まるでネズミのようだ。

アイシアさんが「しまった!」と声をあげたときには、すでに遅かった。

魔剣の刃が、アイシアさんの体に直撃した。


私は、思わず目をそむける。

そして、おそるおそる、目を少しずつ開ける。


…あれ?

アイシアさん、なんとも無い?

傷もない、苦しんでもいない。

ただ、ぼうぜんと立っているだけ。

目をそむける前と、何も変わらない。


でもたしかに、魔剣はヒットしたはずだ…


「あなた、いったい何を…

 たしかに私は今、斬られたはずなのに、なんともないですわ」


「魔剣は、人を傷つけない。皮膚は斬らない。

 ケガをさせない。そのかわりに…」


「そのかわりに…?」


人の体を斬らないかわりに、何を斬ったというのだろう?


びりっ。

何かが破れるような音が聞こえた。

びりびりびり…


「はっ!?」


アイシアさんが目を見開く。

そのときすでに、アイシアさんの着ている服は、下着もろとも、

糸くずのように散っていった。

アイシアさんの肌が、すべて晒されていく。


「ーーーーーー!?」


アイシアさんの、声にならない悲鳴があがる。

アイシアさんは、銃剣を床に落とし、両手で、胸を隠しながら、その場にうずくまってしまう。


「ひゃっはー、やったぜ! 魔剣の切れ味を思い知ったか!

 服だけ切り裂ける特殊能力が備わっているのさ!」


「あ、あああ、あなた、なんてことを…」


「お嬢様の裸は最高だぜ! 脳内にしっかりと焼き付けておいたからな!」


「この……変態!」


「変態で結構。さて、銃剣はいただいていくぜ」


竜司は、落とされた銃剣を拾い、足早に、その場を去っていく。


「あばよ、お嬢様! また裸みせてくれ! はっはっは!」


「うるさいですわ!」


竜司の姿が消えたあと、私は、アイシアさんに駆け寄る。


「アイシアさん!」


「愛純に恥ずかしいところを見られてしまいましたわ…。

 負けたうえに、剣も奪われ、はしたない姿まで…」


「そんなこといいから、えーっと、ほら、これでも着て」


私は、料理中に着たエプロンを脱ぎ、アイシアさんに着させる。

裸のままは恥ずかしいし、とりあえず何か着せるとしたら、これしか無かった。

料理した卵の黄身が少しついてるけど、一時避難的なものだから、別にいいでしょ。


「あ、あの……エプロンをいただけるのは助かりましたけど…。

 この恰好は…なんか裸より恥ずかしいというか…」


アイシアさんは、もじもじして、恥ずかしそうだ。

どうしたのだろう? 全裸のほうが私は恥ずかしいと思うけど…。


アイシアさんの裸エプロン姿をまじまじと見つめる。

うーん、よく見ると、かなりあぶない恰好? なのかな?

エプロンの隙間から見える肌が、なんかやらしいし、うしろ姿は、ほぼ全裸だし…。

だんだん見てる私も恥ずかしくなってきた。


「そ、そうだね…なんかえろいね。ぬ、脱ぐ? エプロン」


「脱がなくていいですわ…。

 早く、替えの服を持って来てくださいまし」


そのとき、ドアが開いて、誰かが入ってきた。


「お嬢様! 先ほどここに不審な男が現れたと…!

 ご無事ですか! あっ…」


間の悪い駆け付け方をした警備員さんは、アイシアさんの鉄拳をくらって倒れるのだった。



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