排外者の銃剣
十剣物語 第3話
【1】
「待てーい! お前がほしいんだ!」
「ええい、3話も続けて似たような冒頭にするのはやめろ!」
捕まるわけにはいかない。
もし捕まったら、俺の大事なものが奪われてしまう。あの男に。
だが、そんな俺の努力もむなしく、壁際に追い詰められてしまった。
「し、しまった……」
俺の背後には、男の黒い影が迫る。もう逃げられない。
「少年よ。もう逃げられない。さあ俺に身をゆだねろ」
男は、両手を広げて、俺にじりじりと近寄ってくる。
「く、来るな!」
「さあ、差し出してもらおうか。お前の大事なアレを…」
「や、やめてくれ! 俺の体をもてあそぶのは!」
「ふっふっふ…」
もうだめだ。俺の清らかな体は、彼の手に好きなようにされてしまう…。
誰か、誰か、助けてくれ。
絶望を感じたそのときだった。
突然の銃声。
「ぐふっ……」
男は倒れた。背中を見ると、小さな黒い穴が。銃弾がえぐりこんだような跡。
「えっ、えっ……何がどうしたんだ?」
俺は、突然の出来事に、声を発することもできない。
「君、大丈夫かい?」
俺の目の前に、眼鏡をかけた青年が現れる。
手には銃が。猟銃っぽく見えるけど、先端にはナイフらしきものがついている。
どうやら、この眼鏡青年が、俺を助けてくれたらしい。
眼鏡をかけた青年は、物腰やわらかそうな雰囲気で、頭が良さそうに見える。
「す、すいません。俺、こいつに追われていて…助かりました」
「この男は何者なんだい? 追われていたようだけど」
「ええと…。俺の右腕を狙っている男です」
「右腕? 狙っている?」
しまった。こんなことを説明しても、わかってもらえないだろう。
俺の右腕には、重大な秘密があって、さっきの男は、これを狙っていたのだ。
でも、一般人に伝えても、わかってもらえないだろう。
俺はお茶を濁すことにした。
「い、いえ。なんでもありません。ちょっとしたいざこざがあって」
「ふうむ……そうか」
眼鏡青年は、何やら考えるそぶりを見せる。
「怪しい奴だ」そう言いたげな視線を俺に送る。
うっ、もしかして怪しまれてる……?
「……君も、背後には気を付けたほうがいい。
このところ治安が悪い。外人の犯罪も多いようだからね」
眼鏡の奥の目が、一瞬、鬼のような目になった。
ぞくっ。肩が震える。
こいつ、もしかしてやばい奴なのか?
そういえば、なんか、銃とか持ってるし。普通じゃないよな……。
「君は軟弱そうな体をしているな。
それでは、変な奴に襲われても、身を守るすべが無い。
鍛えたほうがいい」
いきなり何を言うのだろう。
この人だって、結構細身で、あんまり強くなさそうなのに。
「お前が言うな? まぁ、そうだろうね。
僕も、体は貧弱なほうさ。
でも、この銃剣を手に入れてから、何もかも変わった。
弱気で、貧弱な僕は、もう卒業したんだ」
銃剣……? どこでそんなもの手に入れたんだ?
「……ふふふ。ちょっと話をしすぎたようだね。
さて、僕は、先に失礼するよ。
『見回り』があるからね」
見回り? なんだ、見回りって。
まるで警察のようだな……。
まあ、いいや。そんなことを気にしていても仕方ない。
すでに俺は、数々の『変な奴』を見てきたし。
今さら、眼鏡銃剣男のことを気にしたところで、どうということもない。
それより、今後のことを、俺は考えないといけない。
【2】
「やれやれだぜ」
俺は疲れた脚をひきずるように、ぼろぼろの状態で帰宅した。
家には誰もいない。
いや。本当は、家には、あと3人くらいはいた。
俺の双子のきょうだいと、幼馴染。さっきの追いかけてきた男。
みんな、いなくなってしまった。
これからどうするべきか。
俺は自分の右腕をじっと見た。
ここから先の話は、信じられないかもしれないが、聞いてほしい。
俺の右腕は、剣なんだ。「手刀」と呼ばれているらしい。
ほらそこ、ひかないでくれ。「かわいそうな子…」という顔もやめてくれ。
俺だって、バカみたいな話だと思っているんだ。
俺の住むこの島には、「十剣」という伝説がある。
ある特定の十本の剣を集めると、どんな願いでも叶うという。
ところが、この十剣というやつは、普通の剣じゃない。
俺の手刀を始め、包丁だったり、見た目だけ豪華で何も切れない剣だったり、
おかしな剣ばかり見かける。
剣を先に十本集めた奴が勝利者だ。
だから、剣を持ってる人は狙われる。
俺の右腕も、剣としてカウントされているため、狙われている。
俺に戦う意思は無いのに、狙われるというのだから、理不尽な話だ。
もっと理不尽なのは、俺の手刀は、切れ味がまったくないので、自己防衛にすら使えないことだ。
本当にただの右手。つかんだり、たたいたり、にぎったり。そういうことしかできない。
だから、敵相手には無力だ。
え? じゃあどうやって生き延びてたって?
俺の双子のきょうだいである「当真愛純」に守ってもらっていた。
当真愛純は、包丁の使い手。包丁を投げて、敵を刺したりしていた。
あとは、幼馴染で宝剣の使い手「イルファ」や、俺を狙っていた日本刀の使い手「佐藤隆弘」も
一時的ではあるが、俺を守って戦っていた。
しかし。
全滅した。
俺を除いて。
今、俺を守る者はいない。
もし今、何者かに襲われたら。
これから、どうやって身を守ればいい?
俺はこれからどうしていいかわからなかった。
ひとり、ソファに座り、俺は頭をかかえてうずくまる。
愛純とイルファは、おそらく敵に捕まっているだろう。
助けに行けばいい。でも、俺の手だけでは、どうにもならない。
佐藤隆弘は、さっき、眼鏡青年の銃弾に倒れた。生きていればいいけど。あんまりアテにならない。
ぐぅ。
悩みはあっても、腹は減る。
体を激しく動かしたあとだから、カロリー消費も激しかったのだろう。
なんか、結構お腹が空いてる。
でも俺は料理が作れない。愛純が全部作ってくれてたから。
ああ、愛純。早く帰ってきてくれ。餓死しちゃう。
そんなことを考えても、愛純は帰ってこない。
仕方ない。スーパーで適当な食べ物を調達しよう。
俺は重い腰を上げると、財布を手にして、家の外へ出る。
突然で申し訳ないが、スーパーは戦場だ。
半額弁当をかけて争いが行われるからだ。
俺は、愛純の手料理を毎日食べていたので、今まで争いから逃れていた。
だが、今日だけはそうもいかない。
作ってくれる人がいない。だから、どうしても弁当を買わなければならない。
少々出遅れてしまったか…。
夜空には、輝く月が見える。
噂によると、もうこの時間帯には、半額弁当が出回るのだそうだ。
売り切れもやむなし。覚悟しないといけない。
俺は意を決して、スーパーへと足を踏み入れた。
【3】
「うわああああっ」
スーパーから悲鳴が聞こえた。
床には、カップラーメンやトイレットペーパー、
その他商品がパーティーみたいに散乱している。
そして、何人か人が倒れている。
男の人、女の人、老人……みんな、力なく横たわっている。
店員さんも、へたへたと座り込んで、顔面蒼白だ。
思ったより、壮絶な争いが起きているらしい。
俺は、落ちてる商品を蹴ってどかしながら、前へ前へ進む。
目指すは惣菜コーナー。
落ちてたトイレのスッポン(ラバーカップというらしい)を装備して、いざ踏み込まん。
「俺の弁当はどこだ」
俺は、ラバーカップを振りかざしながら、惣菜コーナーに飛び出す。
「君の弁当は無い……」
聞き覚えのある声が、うしろから聞こえる。
「っ!」
「すべて外人どもに奪われた、弁当は」
眼鏡銃剣の青年だ。
惣菜コーナーの棚に、もたれかかるように、力なく座り込んでいる。
眼鏡に亀裂が走っており、顔の一部が青く腫れている。
「あなたは…どうしてこんなところに」
「スーパーの半額弁当が、外人に狙われていると聞いて
僕は『見回り』をすることにした。
案の定、外人たちがやってきた。
僕は銃剣で応戦したが、負けて、このザマだ。
弁当もすべて外人どもに奪われてしまった。
僕の銃剣は、何人かの外人をぶち抜いたが、数が多すぎた。
物量に負けてしまったんだ」
「そ、そんなことが……」
たかが半額弁当相手にガチすぎるのではないか。俺はちょっと引く。
「君は、どうしてここにいるんだ?」
「弁当を買いに」
「そうか。でも、もう弁当は買えないだろう。
明日からここは外人どものテリトリーになるのだから」
お、おう……。
俺はどう反応していいかわからず、無言を貫く。
「君は、悔しくないか。
スーパーどころの話ではない。
学校も。会社も。何もかも。
この島はやがて外人に占拠されてしまうぞ」
この眼鏡野郎は、外人が絡むと、なんだか鬼のような目つきになる。
外人というのは、この島の外から来た人たちのことだ。
隣の列島や、近くの大陸。もっと遠い欧米。みんな外人と呼ばれている。
「いったい、外人がどうしたんですか」
「ここ数年、島の政府は、開放政策だとかなんとか言って、
外人を次々と誘致している。だがあまりに急激すぎた。
今、周囲を見回してみろ。外人を見ない日は無い」
たしかにそうだ。この前やってきた転校生も、外人だった。
「彼らは、何もかもが我々と違う」
「は、はぁ…」
「だからこそ脅威なのだよ。
外人の増加が急激すぎる。能力も人口も奴らがずっと上だ。
このままでは、島の文化や人種は上書きされてしまう。
僕は、それがとてつもなく恐ろしい…!
列島人や大陸人の連中になめられないように、
僕としては、もっとこの島の人間に、毅然とした対応をだね…」
眼鏡青年の息がだんだんと荒くなり、演説口調のようになる。
熱い。暑苦しい。
「だから、外人に対抗意識があるんですね」
「そうだ。
政府が、外人をこれ以上受け入れるのであれば、
僕の手で、外人勢力を追い払うまでだ。
この『十剣』のひとつである『銃剣』で…!」
歴史の勉強で、なんとかジョーイって言葉があるけど、眼鏡青年は、それみたいなことをしている。
外人排斥勢力が、近頃、島内で活発化しているとも聞く。
気持ちはわかるけど、危なくて、過激なやり方だと思う。
俺としては、できればあまりかかわりたくない人だ。
でも……。
俺の頭の中で、何かがひらめいた。
「あの…俺に協力してくれませんか。俺も、外人に悩まされているんです」
「なんだと。話してみろ」
食いついてきた。わかりやすい奴め。しめしめだぜ。
俺は、事情を説明する。
俺が十剣の使い手であること。
仲間と一緒に、ランフォード財閥令嬢に戦いを挑んで、返りうちにあったこと。
「君も十剣の使い手だったのか……。
まさかこんな近くにいるとは。
僕は、石川九郎。君の名前は?」
「当真和平と言います。
剣と言っても、ただの手刀なんで、俺は戦えませんよ」
「ランフォード財閥は、外資系企業としてトップに君臨している。
だが、この島にわざわざ会社を作る意味がよくわからない。
きっと、島の経済を乗っ取り、島の支配をにぎるつもりだよ。
僕の中では、もっとも巨大な敵。許せない相手だ。
だが強敵なのも事実。準備を念入りにしないとね…」
「石川さんみたいな人がついてきてくれたら、頼もしいです。
俺の双子のきょうだいや、友人が捕まっているんです。
どうかお力添えを……」
俺は下手に出て、なんとか頑張ってもらうよう、お願いする。
「わかった、なんとかしてみせよう。
僕がランフォードを倒してやる」
「ありがとうございます!」
その瞬間、お互いの腹が、ぐるるっる! と鳴った。
【4】
「ありがとうございます、飯までおごってもらって」
「礼には及ばないよ。たまには、ファミレスも悪くはない。
外資系ファミレスというのが気に食わないけど、
腹が減っては戦もできない…」
俺と石川さんは、ファミレスに来ていた。
じゅうじゅうに焼けたハンバーグをほおばり、腹を満たす。
「あのう、石川さん。ところで、この人は誰なんですか…?」
俺は、石川さんの横に座っている、女性を指さした。
その女性は、さっきから気だるそうに、
クマのぬいぐるみストラップがぶらさがった携帯電話を操作しながら、
細い指でくるくると金髪染の長髪をいじっている。
年齢は、俺と同じくらいだろうか。どこかの高校の制服も着ているし…。
なんだか、「ギャル系の女子高生」って感じだ。
「ああ、こいつか? 俺の従妹なんだが、凄腕なんだよ」
凄腕? 何が凄腕なんだろうか?
石川さんは、眼鏡をくいっと、上にあげて、笑みを浮かべる。
この石川さんは、外人嫌いの、ちょっと危ない武力闘争派だ。
そんな人の従妹なのだから、同類なんだろうと思う。
外人嫌いで、保守派な娘なのかな。
あんなギャルっぽい見た目で、凄腕の武闘派なら、怖すぎるんですけど。
「萠子。彼は当真和平君だ。
和平君は、悪い外人に、家族を人質にとられている」
石川さんは、萠子さんに、そう話しかける。
結構、話を盛ってませんかね…? まあいいけど。
萠子さんは、ずっと気だるそうな目で携帯電話をいじっていて、返事がない。
「萠子! 返事をしないか」
「はいはい。まーた変な計画を立てたんでしょ」
気だるそうだけど、かわいい声だ。
視線は携帯電話のディスプレイを向いたままだけどね…。
乗り気ではなさそうに見える。
「また変な計画を立てた」という言葉が気になる。
萠子さんの言う「変な計画」は日常茶飯事なのだろうか。
「和平君のご家族を、外人の魔の手から救いたいんだ。
だが、相手はランフォード財閥。警備は手ごわい。
萠子の力が必要だ。力を貸してほしい」
石川さんの表情は、わりと真剣だ。
彼がここまで頼み込む、この萠子さんは、一体どれほどの力を持っているのだろう。
「報酬はいくら払うのかしらねーなんて」
萠子さんは、ニヤっと笑いながら、お金を要求する。
「この前もいろいろ払っただろう。もうお金は無い。
この店の代金を払えば、ゼロだ」
「じゃあ私は仕事しませんので」
萠子さんは、ぷいっと横を向く。
石川さんは、そんな萠子さんをぎろっと睨む。
あーあ、雰囲気悪くなっちゃうよ。
俺は、雰囲気を和やかにするため、とりあえず萠子さんに話しかける。
「あの。萠子さんの仕事って…なんですか?」
ストレートにたずねてみた。
萠子さんは、俺のほうに、猫のような瞳を向け、得意そうに口を開く。
「私の仕事? コンピュータをちょっと混乱させることかな」
え? コンピュータ? どういうことだろう。
まさか…
「ハッカー…ってやつですか?」
俺は、少し遠慮がちに言う。
「そうね。ハッカーだよ。ほんとは、悪い奴はクラッカーって言うんだけど…
まあハッカーでいいわ」
萠子さんは、腕組みしながら、自信満々の笑みを浮かべる。
さっきの気だるさが嘘のようだ。
「萠子は凄腕のハッカーだが…求められる報酬も法外だ。
僕の財布は、彼女にハッキングされてしまったようなものさ」
うまいこと言ったつもりなのだろうか。
「でも、報酬が無いと超やってらんないよね。
捕まるリスクもあるっていうのにさー。
そうだよね、和平君?」
「え、ま、まぁ。ハッキング犯罪もありますし」
「だよねー。
まぁ、お金が無いなら、別の報酬でもいいけど。
九郎はどんな報酬を提案してくれるのかな?」
萠子さんは、石川さんに顔を向ける。
「お金以外の報酬・・・? ううむ」
石川さんは考え込む。口ごもる。ノーアイデアっぽい。
「銃剣とかもらっちゃおうかな?」
「そ、それだけはダメだ」
「銃剣ってさ、ほら、あの十剣の一つなんでしょ?
十本そろうと、願いがなんでも叶えられるっていう。
超ほしい! くれ! ください! ね? ダメ?」
「ダメだ! この銃剣は命も同然だ!
僕は絶対に渡さないぞ」
「ケチ。じゃあ、私はこの計画からは降りるわ」
ああ、やばい。なんか交渉決裂しそうだよ。
このままでは、俺は、愛純と離れ離れになってしまう・・・
なんとしても、萠子さんに手伝ってもらわないと。
「あ、あの…俺が、俺が報酬を出します」
「え? 和平君が? うーん…。
お金もってなさそうだけど。大丈夫なの?」
萠子さんは、俺の身なりをじろじろと見る。
俺は一般高校生男子だ。
もちろん大金など無い。
「いえ、お金は、ありません。だから…」
だから。
「俺、なんでもします。なんでも、言うこと聞きます」
そう言うしかなかった。
それが萠子さんへの報酬だ。
「超うけるんだけどー。なんでしますってマジ?
私の脚でも舐めてくれるのかな?」
それはむしろご褒美な気もする。
「待て、和平君! 破廉恥な真似は許さんぞ!
こいつの脚は絶対苦いぞ」
石川さんは顔真っ赤にして、何やら焦っている。
「そこの眼鏡は黙っててよ」
もはや名前すら呼んでもらえない。あわれな石川さん。
こころなしか、眼鏡が曇っているように感じた。
「和平君。ここで報酬のことを話しにくいっていうか
ちょっと、外出てもらえるかな?」
萠子さんは、席からすっと立ち上がると、俺の手を引いて、
ファミレスの裏手へと回っていく。
暗い。人影がない。静かで、俺と萠子さんの声しか聞こえない。
俺は、人気のない裏手で、萠子さんと向かい合っていた。
「あのね、和平君…」
甘えたような声を出す。
え? っていうか、なんでいきなり声色を変えたの?
俺は困惑した。
突然、萠子さんは、俺を壁ドンする。
「報酬のこと、言うね…」
あの、顔が近いんですが…。
萠子さんのやわらかな吐息が、俺の口元をくすぐる。
「は、はい…?」
「相手をしてほしいの」
なんの相手でありますか。
俺は上官に敬礼する兵隊のような気持ちで、
萠子さんの唇をじっと見た。
「最近、夜一人で、さみしくて、相手がほしいの」
は、はい。ですから、何でしょう。
俺の心臓は、自分のシャツをやぶりそうな勢いで高鳴っている。
「あの、萠子さん。
なんでもする、とは言いましたけど、
こういうのはよくないと思います…」
俺は、ここから先を食い止める番人のような気持ちで、
必死に耐え、萠子さんを止めようと思った。
今の様子を見られて、学校で噂になっても困るし。
「かわいい…」
「へ?」
「かわいい女の子の相手がほしいの。
最近恋人(女性)と別れてしまって、さみしいの」
「あぅ…」
萠子さん、ハッキング以外の趣味もあったんですね。
「和平君の高校って、かわいい子いる? 紹介してよ。
それが報酬でもいいわよ」
いやぁ、萠子さん。そういわれても困ります。
俺、女子とそんなに話したこと、無いんで…。
草食系男子なんで…。
うーん。でも、このままじゃあ、萠子さんに拗ねられても困るなぁ。
あ、そうだ。いるじゃないか。俺とよく話したことのある女子。
あいつなら紹介してもいいでしょ。
「いますよ、かわいい子なら。紹介しますよ」
俺は、ポケットから携帯電話を取り出すと、かわいい子の写真を見せた。
「ああああああああ! かわいいいい!!!!
超超超かわいいっ!!!!」
萠子さんの瞳に、無数の星がきらめく。
萠子さんの好みのタイプにぴったり当てはまったようだ。
これで仕事を引き受けてくれるだろう。俺はほっとした。
そして、許してくれ、愛純…。
【5】
「レッツ、ハッキ~ング♪」
とある薄暗い地下室。
萠子さんはノリノリで、ノートパソコンのキーボードをたたいている。
俺の提示した報酬(愛純)に、快くオッケーしてくれた。
「おい、和平君、いったいどんな報酬を与えたんだ…?
萠子がノリノリすぎて怖いんだが…」
石川さんは、俺を不審そうな目で見る。
「いえ、ちょっとした報酬ですよ」
「まさか、いかがわしい報酬ではあるまいな」
「い、いいえ、そんなことは無いっすよ」
女の子を報酬に差し出した、だなんて、口が裂けても言えない。言いづらい。
「まあいい。今回の計画を説明しよう」
「はい」
「萠子が、ランフォード財閥ビルの警備システムをハッキング。
警備システムを麻痺させる。そして僕と手下数名がビルに突入。
ランフォード財閥ビルを制圧し、愛純さん達を救出する。
和平君は、ここで待機していたまえ」
シンプルな計画だ。
だが、そんなにうまくいくのだろうか?
石川さんと手下数名では、正直不安を感じる。
島政府の建物より大きい、巨大なビルをどうやって攻略するのだろうか。
だが、そんなことは言っていられない。
俺は不安を消し去り、覚悟を決めることにした。
「九郎、和平君。警備システムにログインできたよ。
さて、ここから、管理者ユーザーを乗っ取って、めちゃくちゃにしてやるわ」
萠子さんの目が輝いている。
ハッキングは今のところ、うまくいっているようだ。
「あれ?」
萠子さんの指が止まった。困惑した表情。顔色もよくない。
アクシデントか。
「どうした、萠子」
石川さんが声をかける。
「あっちゃー。こんな仕掛けがしてあるのか…」
萠子さんは悔しそうな声を出す。
俺は、萠子さんの肩越しに、パソコン画面をのぞき込む。
「ERROR! 警備システム 最高セキュリティモード発動」
よくないことが起きている。
ハッキング素人の俺でも、なんとなくわかった。
「最高セキュリティモード? なんだそれ…」
石川さんは、困り顔で、眼鏡の真ん中をくい、っと押す。
「簡単に言えば、超やばいってこと。
プログラムを解析してみたかぎり、
ビルそのものの制御が変更されるようになっている。
えーっと、まぁ、あのビルに何かしらの武装がほどこされてるってことね。
外部の敵を撃退するための」
「何!? まさか、ビルに砲台が配置されてるとでも?」
「そんな生易しいものじゃないと思う」
「えっ」
「外を見てこようよ。ビルの形、変わってるかもよ」
俺たちは、ぞろぞろと、地上へ出た。
久しぶりの太陽の光が、目に痛い。
太陽の光に慣れてきたころ、俺たちは、目を疑う光景に出会う。
巨人がいる。町中に。
【6】
ガラス張りの巨人。
町中に、そんな物体が現れていた。
「えっ、なんだあれは」
俺は、目の前にいる巨人が、未確認生物か何かと思った。そうとしか考えられない。
「あれ、たぶん、ランフォード財閥ビルだと思う」
「え」
「警備システムの、最高セキュリティモードが発動することによって、
ビルが巨大ロボットに変形したのよ。たまげたわぁ…」
萠子さんは、そう言い放つ。
「なんでそんな仕掛けが」
「さぁ…。戦争でもするつもりだったのかしらね。
あんな大げさな巨大ロボット作っちゃうなんて」
「なんてことだ…
さすがに、あんな巨大ロボは、僕の銃剣では倒せない…」
そりゃそうでしょうね。
巨大熊に素手で戦いを挑むようなものでしょうね。
「萠子! なんとか最高セキュリティモードを止められないのか」
「うーん、試してみるけど、難しいかも…」
「ええい、なんとかするんだ!」
「はいはい。
えーっと、まずネット検索画面を開きます」
萠子さんはブラウザを開き、検索画面を表示した。
「『ロボット 倒し方』と検索します」
「そんな結果出るわけないだろう!」
すかさず石川さんのツッコミが飛ぶ。
「二足歩行型巨大ロボは、脚が弱点です、って。なるほど…」
「なるほどじゃない! ロボットにハッキングして、止めることはできないのか!」
「うーん、できるけど、操作コマンドがよくわからないから
当てずっぽうになるわよ」
「やるだけやってみるんだ。頼む」
俺は、巨大ロボの様子を見る。
操作する人がいないからか、ずっと突っ立ったままだ。
こんな巨大なロボが町中にいるので、いずれ騒ぎになるだろう。
「えーっと、これが停止コマンドかな」
萠子さんは、パソコンを適当にいじくってるようだ。
すると、巨大ロボの腕ががくんと動き…隣の高層ビルのてっぺんを殴った。
高層ビルの屋上付近は、がらがらと崩れ落ちていく。
「おいいいいいい」
石川さんの顔は青くなる。
「うーん、変だな。ここかな?」
また萠子さんは適当にいじくる。
巨大ロボの脚が、ずごんと動き、足元の家の何軒かをつぶしてしまった。
瓦礫の山が、ロボの足元につもっていく。
萠子さん、もしかして、結構ドジなのだろうか。
「萠子! 頼む! これ以上町を破壊したらやばいって!」
石川さんは顔面蒼白で、落ち着きのない様子だ。
「わかってるわよ。今、止めるから」
萠子さんは、またしても適当にいじくる。
「…セキュリティモード停止します」
画面に表示されるその文字は、石川さんをほっとさせた。
巨大ロボのほうに目をやると、ロボは直立の状態になっている。
あれ? なんだか・・・
ロボが、そのままうしろに倒れていってるような気が。
セキュリティモードを停止させたからだろうか。
脚のバランスを保つ機能までも、停止してしまったようだ。
ロボは、ゆっくりと、うしろに、傾いていく。
支えられる建物など、あるはずもない。
周囲の高層ビル群が、ボーリングのピンのように、ばたばたと倒れていく。
そして最後には、まわりを瓦礫に包まれ、横たわる巨大ロボの姿しかなかった。
倒れたビルの中には、何人いたのだろう。
行政施設や企業もいっぱい含まれていたはずだ。
これが、いわゆる大惨事という状態か。
「あはは、て、停止したね…」
「停止したな。都市の機能もろとも…」
萠子さんと石川さんは、乾いた笑いを浮かべている。
俺も、あまりの出来事に、顔がひきつっている。
そのとき、俺は気づかなかった。
背後に、敵の影が近づいていることを。
「やれやれ。やってくれましたわね…。
ハッキングして、ビルをロボに変形させ、倒壊させるとは、とんでもない荒業ですね。
本当にこの島では、おもしろいイベントが絶えませんわ」
「!?」
一同ふりむけば、そこには、金髪の少女が立っていた。
少女というには、少し大人びた顔、知性のありそうな顔つき。
そうだ。この少女とは、少し前に出会った。その名前は――
「アイシア…」
俺は思わずその名をつぶやく。
見覚えのあるその顔は、アイシア・ランフォードだった。
ランフォード財閥の令嬢でありながら、十剣を集めているメンバーの1人だ。
「何っ! この女がアイシア・ランフォードか」
石川さんは、宿敵の名前を聞き、目つきが鬼のようになる。
銃剣をかまえ、戦闘モードだ。
アイシアは、銃剣をつきつけられても、平然として、笑みを向けている。
「あら? あなたのその剣…。十剣ですわね?
素晴らしいですわ。これでまた、私の銃剣コレクションが増えますわね。
レイピア、包丁、日本刀、宝剣…。私の手元にはすでにこれだけ
そろっているのですよ。ふふふ」
自分のビルが倒壊したというのに、この余裕はいったい何だろうか。
金持ち令嬢の気持ちは、よくわからない。
「君は、ずいぶんと余裕なんだな?
この状況が見てわからないのか? 君の所有するビルは壊れた。
それだけじゃない。君は、護衛もいないし、君ひとりしかいない。
僕から見たら、すでに詰んでいる状況だと思うが?」
「ええ、少し困っていますとも。でも、ビルはまた建てればいいのですわ。
護衛など、あとでいくらでも雇えます。
しかし、十剣の持ち主とは、なかなか会えません。
こうして会えたことは喜びですわ」
「何をぬけぬけと…」
「でも戦いは、野蛮な行為なのですわ。
私は好きじゃありません。
取引しませんこと? 数億のお金と、その銃剣。交換しましょう」
「断る。外人の言うことなど、信用できるか」
「残念ですわ。
あなたも、包丁の使い手さんや、宝剣の使い手さんのように、
あっさりとみじめに敗れ去ることになりますわよ」
包丁の使い手さん…愛純のことだな。宝剣の使い手はイルファだ。
そうだ。そういえば、愛純とイルファは今どこにいるのだろう。
俺は、アイシアにそれを尋ねようと思ったが…
「和平君。今、あの二人に近寄ったら危険かもよ」
萠子さんに止められてしまった。
「萠子。和平君を安全なところに連れていきたまえ。
僕はアイシアを倒す」
石川さんはそう告げ、銃剣の銃口を、アイシアに向ける。
引き金には指がかかっており、今にも発砲しそうだ。
俺は、萠子さんに引っ張られ、現場から急いで遠ざかる。
背後から銃声が聞こえたが、振り向くことも、ままならなかった。
【7】
「ふん。この程度か。口ほどにもなかったな」
石川九郎は、銃剣を降ろした。
アイシアはぼろぼろの姿になりはて、その場にうずくまっている。
「完敗ですわ…どうしてこの私が…」
「さて、剣をもらおうか」
石川は、落ちているレイピアを拾う。
「待って…くださいませ。そのレイピアだけは…持って行かないでください」
アイシアは目に涙を浮かべて、懇願する。
その指は、石川の着ているシャツの裾をつかんでいる。
「僕は、十剣を集めているんだ。君が何を言おうと、これは持っていく」
「そこをどうにか…お願いします」
アイシアは、指の力を強める。石川のシャツに、しわが広がっていった。
「しつこいな」
石川は、アイシアを睨もうと、目を向ける。
アイシアの服は、先ほどの戦闘で、いくばくかキズがつき、切れ目から
白い肌が露出していた。
それを見たとき、石川の心の中で、何かが蠢いた。
「きれいな肌だな」
「い、いきなり何を言い出し…ふぁっ」
石川は、アイシアの肌に手を触れた。
肌にできた傷口が、指で沁みて、アイシアは思わず悲鳴をあげてしまう。
「妙なことをしましたら……許しませんわよ」
「そんなこと言っても、君はもう逃げられないよ。
君の脚は撃たれてるからね」
アイシアの右脚は、銃剣の弾によって撃ち抜かれ、負傷していた。
走って逃げることは、まず無理なほどの傷だ。
「くっ…脚が動けば…反撃して…あなたなんか…」
「無理だな。観念したまえ」
アイシアの影に、石川の影が、ゆっくりと覆いかぶさっていく。
絹のような唇に、何かが触れる。
そして唇が激しく動き、涎が流れ落ち、アイシアの首筋を光らせる。
アイシアの口の中に、他者の唾液が流れ込んでいく。
唇の動きが止まり離れたとき、アイシアの赤い顔は、石川を睨みつけた。
「ひどいですわ……。
なんであなたなんかと…このようなことを…。
女の子としたほうが、何倍もマシですわ」
「黙れ」
石川は、獣のような目つきになると、アイシアの肌を隠すものを、強引にひきはがしていく。
アイシアは、石川の手を抑えようとするが、押し返され、捻じ曲げられ、
しだいに大人しくなっていった。
やがて、アイシアのすべてがさらけだされる。
アイシアは両手で隠そうとしたが、銃で脅され、隠すことをやめた。
「外人の分際で、この島を我が物顔で闊歩した。
その罪をつぐなわせてやる」
「屈辱ですわ…。
せめてあなたが女の子であれば、喜んで受け入れましたのに」
「では僕を女の子だと思いこめばいいさ」
「あなたを…女の子だと思い込む…?
なるほど、それは…名案ですわね」
目の前の現実が厳しいときほど、人は脳内の妄想でどうにか切り抜けようとする。
アイシアも同じだった。
脳内にある大量の女の子データベースから、最近会った魅力的な娘を探し出す。
家庭的な娘で、エプロンと包丁が似合う。
自分と同じくらいの年齢で、少し華やかさには欠けるが、
飾らない笑顔で、あたたかく接してくれる。
そんな娘と、抱き合ったりする妄想をしてみる。
アイシアは幸せに包まれる。
現実など忘れて…そのまま別世界へと走っていく。
「急に笑顔になったな。本当に僕を女性だと思い込むようにしたのか?
くっくっく。これから自分の身に何が起こるかわかりもせず…
幸せなものだね」
石川は黒い表情で、アイシアのやわらかな身体に触れていき、そして…。
そこで石川は目が覚めた。
まず自分が倒れていることに気付く。
手には何もにぎられていない。銃剣も、アイシアのやわらかな身体も、
そこには何もない。
さっき見た光景が、自分の夢の世界であることに気付くのは、すぐのことだった。
石川は自分の全身が痛むことに気付く。ずきずきとする。手足にケガが見える。
「何っ…!? 僕はいったい…」
「気づきましたわね。あなたは私に敗れましたのよ」
「な、なんてことだ…あれは夢だったのか…」
アイシアはレイピアの先端を、石川の顔につきつける。
「夢? 何をおっしゃいまして?
まあいいですわ。これで銃剣もゲットしましたわ。
私のさらなる勝利に乾杯ですわよ」
「くっ…」
石川は、恨めしそうな目つきで、アイシアをにらみつける。
屈辱だった。
外人嫌いの石川にとって、外人であるアイシアに、あっさりと敗れたことは、
不名誉以外の何物でもなかった。
だが、銃剣を奪われ、剣を顔につきつけられ、まったく動けない。不自由の身。
それがなおさら、悔しさを加速させる。
「あなた、石川九郎とおっしゃいましたわね?
噂はかねがね聞いておりますわ。
外人を排斥する集団のリーダーだそうですわね。
外人である私の立場から言えば、速やかに排除しないといけない人間ですわ」
「黙れ。
この島は、島の人間だけでやっていける。
外人の力は、いらない。それが僕の答えだ」
「こんな状況でも、強気なセリフを言える根性がうらやましいですわ。
大和魂?って言うのかしら」
「大和魂などというのは外人の言葉だ。
列島人と一緒にするな」
「ごめん遊ばせ。列島の人たちと、あなたは似ていたものだから。
まあいいですわ。あなたは、これから私のもとにずっといるのです。
自由にさせておくと、何をするかわからないのですわ」
「僕をどうするつもりだ」
「ふふふ…。秘密ですわ」
アイシアの唇が、にやりとゆがんだ。
【8】
石川さんが、負けたということも知らず、
俺は、萠子さんと安全な場所まで逃げていた。
足が疲れてきたので、俺と萠子さんは、少しとぼとぼと歩いている。
ここは騒がしくもなく、静かだ。
俺も萠子さんも疲れからか、口数は少なくなっていた。
「石川さんも負けてしまったら……俺は困ります」
萠子さんにこんなことを言っても仕方ない。
でも言わずにはいられなかった。
愛純もいない。イルファもいない。
俺を守ってくれる人は、今は石川さんしかいない。
俺の手では、どう考えてもアイシアに絶対勝てない。無力な右手なのだから。
心細くて、弱気になった俺は、萠子さんに言葉をぶつけるしかない。
「俺、追い詰められているんです。このままじゃ、俺の右手は奪われてしまいます」
俺は右手をおさえて、路上でうずくまった。
「えー? どういうこと?」
萠子さんは、俺の事情を知らない。
石川さんから「外人に家族をさらわれたかわいそうな少年」という説明しか受けていない
萠子さんに事情を話していいか、正直迷ったけど、悪い人じゃないだろうし、
少し打ち明けることにした。
「俺の右手、十剣のうちの一つなんです」
「えっ……はぁ? なにそれ」
萠子さんは、あっけにとられたかのような表情を見せる。
信じていなさそうな顔だ。
「言うのも恥ずかしいんですけど、俺の右手は、
手刀っていう、十剣のうちの一つらしいんです。
でも、ほんとにただの手刀なので、威力もなくて
自分の身を守ることすらできないんです」
「へぇ。じゃあちょっと私にチョップしてみる?」
うりゃ、っと萠子さんにあててみた。
「…ほんとにただの手刀チョップね。手加減してないわよね」
「今ので全力です」
「え? マジ? 冗談きつくなくなくない?」
「俺、この手刀じゃ、他の十剣もった人に、負けてしまいます。
負けたら…右手を奪われてしまいます。
だから、愛純とか、友達に、守ってもらってたんです。
でも、みんないなくなってしまって、俺、どうしたらいいか」
萠子さんに、こんなことを言っても、何もならないのは、わかっている。
それどころか、狙われてしまうかもしれない。
それでも、弱気な俺は、誰かに、自分の境遇をわかってほしかったのかもしれない。
「うーん。
和平が女の子なら、私が全力でかくまってあげたいけど、男じゃ無理ね」
ご無体な。レズはこれだから困る。俺はがっかりした。
「そうですか…。俺が女になれば、萠子さんは守ってくれるんですね」
「もしくは、愛純ちゃんを私に貢いでくれ」
「やめてください…」
「半分冗談だから本気にしないで」
半分は本気なんですね。
「でも和平って、女の子気質じゃない?
優しそうな顔してるし、
なんか、なよなよしてるし、弱弱しいし」
結構ひどいこと言っている気がするんですが、それは。
でも言われてみれば、俺、あんまり、ケンカしたことないし、
どっちかというと、争いごとは嫌いだし、優しい性格が好きなんだよな。
そういえば、クラスの男に、「お前女装似合いそうだよな」って冗談っぽく
言われた気もする。
そうか、わかったぞ。俺は女の子だったのか!
明日からは女装するか!
って、俺は何を考えているんだ!?
俺が女の子だなんて、妄想じゃないか。
現実がつらすぎて、逃げようとしているのだろうか。
しっかりしろ!
「和平、さっきから何考えてるの?
顔の表情がコロコロ変わってきもい」
「きもいって言わなくても……」
「まっ、九郎が勝てば、和平が心配することなんてないっしょ。
あんまり気にしすぎると早死にするよ」
本当に、石川さんが勝ってくれればいいのだけど…。
……。
……。
あれ? なんか、嫌な予感がしてきたぞ。
「当真和平……ですわね?」
突然声をかけられた。目の前にいるのは、大人びた金髪の少女…。
あっ。さっき見ましたね、この人…。
「あ、ああ、アイシア……」
俺はその場にへたりと座り込んだ。
アイシアがこの場にいるってことは、石川さんは……。
「銃剣はいただきましたわ。これ、遠くにも攻撃できて便利ですわね」
アイシアは、銃剣を持っている。あれは間違いなく、石川さんの持っていた銃剣だ。
「ちょ、あいつ弱すぎじゃね…」
萠子さんは、嫌そうな表情をした。あいつとは、石川さんのことだろう。
石川さんが負けた。俺は、衝撃的な出来事に、声も出てこない。
「当真和平。あなた、十剣の持ち主ですわね」
「お、俺は…」
怖い。何も、声が出てこない。
戦うすべがない。対抗手段なんてない。逃げ足もそんなに早くない。
逃げられない。
右手をとっさに隠す。
「和平。そんなに警戒しないでくださいまし。
私は、あなたの右手を奪うようなことはしませんわ」
「えっ、それはどういう…」
「あなたを保護します。右手を切り離すという、野蛮なことはいたしませんわ」
「保護って…」
「私は、争いごとは好きではないのですわ。
十剣はお金や話し合いで手に入れる。そういう方針ですわ。
一部、好戦的な輩がいて、仕方なく倒しましたけど。
和平。あなたは、好戦的ではないのですわ。
あなたの右手が剣ならば、他の人にとられぬよう、私が保護してあげます」
「俺、戦わなくていいんですか」
肩の力が抜けていく。
アイシアが守ってくれるなら、わざわざ身を守る必要はなさそうだ。
俺の不安は吹っ飛んでいった。
「ええ。十剣が集まるまで、あなたを客人として迎えいれますわ。
変な抵抗さえしなければ、ほかの人から、この私が守ってあげます」
「あの、愛純やイルファは…」
「あの2人なら無事ですわよ。安心なさいな」
「ほっ……」
すべての不安ごとが解決された。この話はエンディングが近いのだろうか。
「でも、あなたを狙う人は、まだまだいますわよ。
護衛をつけますからね。自由はないと思ってくださいまし」
保護されるかわりに、自由がない。
だけど、今の俺は、自由よりも、安全を求めていた。
無力な自分。自分さえ守れない。誰かに守ってもらうしかない。
敵に襲われる不安におびえるより、保護される安心を選ぶことにした。
俺は、アイシアの提案に、こくり、とうなずくのだった。




