act8.ファッションセンスは置いてきた、この戦いに付いてこれないからな!
アンマンを暴走させないと(使命感
主人公が人として普通になってしまっているぞ。暴走させないと(使命感
俺はファッションセンスというものを持ち合わせていない。我が妹も同様。
俺らの服装は基本シャツにジーパン。こだわりというものはない。着られればなんでもい。いつも行くところと言えばユニ○ロかしま○らだ。
シャワーを浴びて着替えた俺の服装は上下ユニ○ロ仕様。
そんな俺らがアンマンの服を選ぶということはお察しだ。
「なぁ、どこで服買うんだ?」
「とりあえずショッピングモール」
会話内容なんてこんなもんだ。
とりあえずショッピングモール。現代JKとしてあるまじき発言だと思わんかね。いや、こんな暴力妹が突然「どこどこのお店の服がチョーカワイくてサイコーなの! 今これこれが流行りでこの合わせとか良くない?」とか言い出したら、それはそれで嫌だ。今のままでいてくれ。
お前にふさわしいセリフは「ファッションセンスは置いてきた、この戦いに付いてこれないからな!」だな。
「アンマンは何か着たいものとかあるか?」
「ない!」
肩にいるアンマンが即答する。
そりゃそうか、裸でも何とも思わない奴だもんな。聞いた俺がバカだった。
「可愛ければなんでもいい」
お前には聞いてないんだけどな。俺だって可愛ければなんでもいいけど、それを具体的に言えってんだ。具体的に言われてもわからんけど。
「言われなくてもわかってるよ」
だからショッピングモールなんだろ。
まぁそんな感じで俺たちはショッピングモールへと向かった。
徒歩二十分ほどでショッピングモールに着いた。都会の素晴らしいところね。田舎だったら車で二十分以上かかる。ショッピングモール自体ないところもあるか。
えーっと子ども服売り場はどこだっと。あー、二階か。
「二階だとよ」
入り口にある案内板を見て言う。
「ん、迷子にならないように」
手を差し出してくる柚希。
迷子になるのはお前だろうに。ったく、ガキかっての。方向音痴だってのによく一人で家にたどり着いたな。
「はいはい」
その手を握ってやる。
マジで妹と手を繋いで仲良くお買い物とか恥ずかしすぎだろ。仲良し兄妹じゃねーんだからよ。
ショッピングモールの中に入ると人がウジャウジャいた。平日だというのにこの人混み、これ都会の嫌なところね。まぁ田舎でも変わりないが、田舎ではジジババの憩いの場だからな。のほほん具合じゃ雲泥の差だ。
「ほら、二階行くぞ」
柚希の手を引いて歩く。若干の抵抗があるが引っ張っていく。
近くのエスカレーターに乗って二階へ。
子供服売り場に着くと柚希はパッと手を放して早速物色している。
「そういや、あまり金ないからそこんとこよろしくな」
「私も半分出すから大丈夫」
さいですか。
俺も適当に眺めようかと思ったけど、男が子供服売り場で女の子の服選んでるとかヤバイよな。
そそくさと近くのベンチに腰掛けた。
ここなら柚希も見えるから大丈夫だろう。
柚希が服を選び終えるまでボケーっとしていると、突然声をかけられた。
「あ、昨日のお客さん」
「ん? あぁ、昨日の」
声の方を向くと昨日のコンビニで気さくに話しかけてきた店員だった。
肩には二足歩行のトカゲがいる。アレが店員さんの魔王か。
「お買い物ですか?」
「あぁ、アンマンの服を買いにね。今妹が選んでいるんですよ」
せっせと服を選んでいる妹を指して言う。
「服って、もしかして変身したんですか!?」
すごい驚きようだ。
やっぱ普通は変身しないよな。驚くよな。
「今日起きたら突然幼女に変身してました」
「す、すごいですね! 見せてもらってもいいですか?」
「いや、今変身したら裸だと思うんで勘弁してください」
「あー、なるほど。だから服を買いに来たんですね、すみません。魔王が変身するって噂は聞いたことあるんですが、実際に変身する魔王が目の前にいるとおもったら興奮してしまいました」
魔王が変身するってあるもんなんだな。
「お隣いいですか?」
「えぇ、どうぞ」
店員さんは俺の隣に座った。
「僕、金井耕平っていいます。こっちは火焔魔王サラマンドラのサンドラちゃんです」
「え? あぁ、自己紹介ね。俺は青葉誠です。こっちはアンマンです」
突然の自己紹介に反応が遅れた。
そういえばアンマンって何魔王なんだ? 混沌を司ってるとか言ってたから混沌魔王なのか? 魔王の中の魔王とも言ってたな。魔王魔王ってか? 意味わからん。
「もしかしてですが、その子ってアンラ・マンユですか? 混沌魔王の」
「えぇ、アンラ・マンユですよ」
やっぱり混沌魔王なのか。
「へー、やっぱりそうなんですか。噂よりも大人しいですね」
「いい子ですよ、言うことも聞いてくれますし。今は外なので喋らないように言ってあります」
「そういえば喋れるんでしたよね。声聞かせてもらってもいいですか?」
「まぁちょっとだけならいいですよ。ほら、アンマン、喋っていいから自己紹介してみて」
アンマンを撫でながら自己紹介するように促す。
「こんとんをつかさどるまおうのなかのまおう、わたしこそぜったいあくのあんら・まんゆだぞ! こわがれ!」
あ、それ俺を暗闇に閉じ込めたときに言ってたやつ。あれって自己紹介だったんだな。いやまぁ、確かに自己紹介だけど、怖がれって、そこまで言わなくていいだろ。
「わぁー、すごいですね。しっかり喋れて――」
店員さん――金井さんが黒い靄に飲み込まれた。
っておい! 何やってんの!
「ぎゃうぎゃう!」
サンドラちゃんがこっちに向かって吠えている。飼い主が黒い靄に飲み込まれてこちらを警戒しているみたいだ。
……口から炎が見えるんですが。おっかないんですが。
するとサンドラちゃんまで黒い靄に飲み込まれた。
なんてことを!
「こらアンマン! 早く出しなさい!」
「こわがらせないと」
なんでだよ! 義務でもあるのか!?
「いいから出しなさい」
「はーい」
アンマンはちょっと不貞腐れた声で返事をした。
すぐに金井さんとサンドラちゃんが黒い靄からニュルっと出てくる。
「あ、出れました」
金井さん結構暢気してるな。俺が言わなかったら三日くらいあのままだぞ。
「すみません、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。魔王のやったことですから」
ハハハって笑ってるけど、もしかしてサンドラちゃんによく燃やされたりしてるのかな。
「ハハハ、ソ、ソウデスカ」
怖くて聞けないよ。
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