act6.持っててよかった女児用パンツ!
私も魔王欲しい。
カーテンの隙間から光が差し込んでいるのか、目を閉じているのにも関わらずチラチラと光が見え隠れする。
もう朝か。あーまだ寝てたいな。
会社クビになったし水曜日でもまだ寝ていていいんだよね!
顔を横に背けて光を避けようと寝返りを打つと、なんだか柔らかい感触のモノに覆いかぶさる形になった。
なんだこりゃ。小さくていい感じの抱き枕じゃないか。これを抱いて寝れば二度寝が捗りそうだ。
ほんのり温かくてすべすべしてて気持ちいー!
……ふふふふふ、もう一回寝よ。
「ごしゅじんさま」
んあ? 聞きなれない単語だな。ごしゅじんさま?
「ごしゅじんさま!」
あぁ、ご主人さまか。
そういや昨日寝るときにアンマンが言ってたな。
この声アンマンか。アンマンもう起きちゃったのか。俺も起きないといけないかな。
「ごしゅじんさま! 起きて!」
「あーはいはい起きますよ」
パチリと目を開けると――幼女の顔があった!
「ふえぇ、幼女だよぉ」
突然のことに俺まで幼女になるところだった。
なぜ俺の布団に幼女が紛れ込んでいるんだ。
ははは、俺よ、妄想も大概にしろ。寝起きで寝ぼけすぎだろ。
これも会社をクビになったショックだろうか。
「ごしゅじんさまはなして」
……これアンマン?
「どっへええええええええい!!」
驚きのあまり部屋の隅まで転がるように逃げた。その際にかけてあった毛布まで巻き込んだせいで、アンマンのあられもない姿が晒された。
アンマンのツルペタ幼女な姿である。小学一年生くらいかな?
……お巡りさん、俺です。
「ア、アンマンさん、どうしてそのようなお姿になっているのでしょうか?」
それに対してアンマンは小首を傾げるだけ。
可愛いなこんちくしょー!
とりあえず隠さないと。いや、幼女の身体に興奮してないですよ。まだ裸は寒いだろうからね。……俺もパンイチで裸だよ。だ、大丈夫だ。何もしていない。
「ほら、アンマン。とりあえずこれ身体に巻いて隠せ」
またアンマンは小首を傾げる。なんで理解していないんですかね。
しょうがないので毛布を体に被せてやった。
そこから顔だけすっぽり出している。
「あーそういや確か」
確かここにアレがあったはず。
押入れにある俺の秘密ゾーンを漁ると、例の物が現れた。
「持っててよかった女児用パンツ!」
これは特典です。
大人向け女児用アニメのブルーレイボックスの特典で手に入れたのです。決して自分でこれが欲しくて買ったわけじゃないのです。
あとは適当に俺のシャツでいいか。
「アンマン、とりあえずこれ着とけ」
パンツとシャツを投げ渡す。
アンマンは素直にそれを受け取ると毛布から出て着替え始めた。
「うえっへええええええい!!」
高速で首を九〇度回転させる。
視線を逸らせ俺!
横目で指の間からチラチラ見るんじゃない!
「きがえたよ!」
ふぅ、これで一安心か。
首を戻してアンマンを見据えるとシャツが大きくてパンツ履いてないように見える。なんだかいけない気持ちになっちゃうぞ。
ちゃんと服とか買ってやろう。
「ごしゅじんさま! あんまんたべたい!」
アンマンは立ち上がると俺の方へ無邪気な子供のように向かってくる。
待ってー、その姿で近づかんといてー!
「待て! 待つんだアンマン! それ以上近づくと俺の魔王が復活してしまう!」
手を前に出してアンマンを静止させる。
素直なアンマンはピタッと止まってくれた。
「ごしゅじんさまもまおうなのか?」
「いや、違う、そうじゃないんだ。とりあえずあんまん買ってくるからここで少し待っててくれ」
「……わかった」
なんで悲しそうな顔をするんだ。アンマンの大好きなあんまんを買ってきてやるんだぞ?
心が痛くなる。
「いいこでまってる」
なんて健気なんだ。涙が止まらない。
「すぐ戻るからな!」
言いながらパパッと着替えて財布を持ち、近くのコンビニまで全速力で走る。
コンビニにたどり着いたら迷わずレジに並ぶ。
くそっ、なんで朝から並んでんだよ。てめぇらさっさと会社行けよ!
五分後、漸く俺の番になる。
「あんまん一つください」
「あんまんおひとつですね?」
「そうですから早く」
時間が惜しい。アンマンを一人部屋に置いてきたのが心配だ。何もなければいいのだが。
店員があんまんを持ってくる前に二百円をレジに置く。
「お会計一一九円になります」
「釣りいいです!」
店員が持っているあんまんの入った袋を奪い取り、走ってアパートまで戻った。
そういえば鍵を閉め忘れた! アンマンがいるとはいえ、不用心すぎた!
まぁ誰も来ていないだろうから大丈夫だろう。
「アンマン! あんまん買ってきたぞ!」
扉を開けて部屋に入ると――
妹の柚希がアンマンと遊んでいた。
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