act3.名前はアンマン!
婆さんの店からの帰り道、藻を肩に乗せてトボトボと歩いている。
結局マンユちゃんには闇に葬ってもらえなかった。
約束守ってくれたからだってさ。いい子だわ。
それじゃあ返品しようとしたら、今度はいい子にするからとか言うこと聞くからとか、すごいお願いされちゃっていじめているみたいでなんだか悲しくなったよ。
暗闇の中では強気だったのにどうしたんだろな。
婆さんに聞いたらマンユちゃんは寂しがりやらしい。それと俺に懐いてるってさ。なんでだろ。
可愛い声なのはいいけど、藻に懐かれてもなぁ。魔王の力も暗闇に閉じ込めるとか爽快感にかけるし、会社吹き飛ばせないじゃんな。
まぁ懐かれているみたいだからかごいらないし、マンユちゃん代の出費で済んで助かった。仕事なくなっちゃったし節約しなくちゃね!
節約しなくちゃって思ってすぐだけど、買い物袋も暗闇に飲まれて無くなっちゃったみたいだし、どっかで飯買わなきゃ。
さすがにこの時間帯じゃスーパーはやってないしコンビニだな。
ちょうど目の前にコンビニあるしあそこにするか。
「マンユちゃん、ちょっと寄り道するよ」
「どこいくの?」
「そこのコンビニだよ。ちょっとご飯買わないといけないからさ」
「うん、わかった」
マンユちゃんは素直でいい子だな。可愛い声にも癒されるよ。
「コンビニでは喋っちゃだめだよ?」
「なんで?」
「お兄ちゃんが店員さんに病気だと思われちゃうからね」
今現在、藻を肩に乗せてるだけでもどうなんだろうと思えるのに、裏声で藻の腹話術とか心に闇を抱えすぎてるからね。
「わかった。きをつける」
あぁいい子や。
コンビニに入店すると、入店メロディが流れる。
俺はあまりこの入店メロディが好きではない。寝ようとしているときなどにふと思い出しては脳内で勝手にループするからだ。
そんなことより飯だ。
適当に弁当とお茶でいいか。
その二つを手に持ちおっさんの後ろに並ぶ。
あーそういや、マンユちゃんは何か食べるのかな。マンユちゃん黒いし、なんか黒い奴でも買ってやろうかな。
てか俺、さっきからマンユちゃんマンユちゃん考えてるけど、マンユって字面的にギリギリだよなぁ。
マン○ちゃんって隠した瞬間アウトだし、ユって文字が似てるしな。空目してる人いるよな絶対。
この子にとってアンラ・マンユって種族名みたいなもんだよな。改めて名前とか考えてやったほうがいいかな。といっても、そんなポンと出てくるわけないないしな。なんかいいのあるかねぇ。
おっさんの会計が終わって俺の番になった。
名前はあとでいいや、なんか買ってやらないと。
なーにーがいいかなー。
レジ棚にあるのはから揚げにポテトに、おでんがなくて、肉まんは……ないか。お、あんまんがあるじゃん。あんまんの中身真っ黒だしいいんじゃね。
「あんまん一つください。あ、あと弁当温めてください」
レジに弁当とお茶を出しながら言う。
「……はい」
店員さん疲れてらっしゃる。深夜だししょうがないか。
お勤めご苦労様ですとか言いながら敬礼したらぶん殴られるのかな。まぁしないけど。
あー仕事どうしよ。ハロワかなぁ、それまではバイトか?
もしも俺がコンビニバイトしてて「お勤めご苦労様です」とか言いながら敬礼している奴来たら迷いなくぶん殴るな。
おおっと、くだらないこと考えてたら会計終わってた。さっさと金出さねーと。
スッと千円札を出して釣りをもらう。もう千円札とか今の俺にとっては貴重だわ。
「ありあとっしたー」
コンビニ店員の声を後ろに店を出る。
家で食ってゴミ出るのめんどいし、ここで食うか。
「ほらマンユちゃんご飯だよー」
「なんだなんだ?」
「君の大好物になる予定のあんまんだー。ほーらあんまんだよあんまん」
「……わたしのだいすきなあんまん」
いや予定って言ったじゃん。まだ食べてないのにもう大好きかよ。洗脳しちゃったか?
近くの縁石に座ってから、あんまんを袋から取り出してやる。
「うっ、しろい……」
白いの苦手か。こりゃあ白濁液はNGだな。って何考えてんだ俺は。相手は藻だぞ。可愛い声に揺らいでしまった。
あんまんを半分に割って中の黒い餡子を見せてやる。
「ほら、中は真っ黒だぞ」
「おーくろいー」
声のトーンが上がったな。テンションが上がっているのだろうか。
白いの苦手で黒いの好きなんだな。
「さぁお食べ」
と言ったはいいものの、どうやって食べるんだ?
とりあえず近づけてみると、しゅるしゅるとあんまんが紐解かれるように消えていく。
どういう食べ方だよ。
「あんまん、うまい! うまいうまい!」
「そうかそうか、それはよかったな。まだあるからゆっくり食べるんだぞ」
もう半分を差し出してから俺も自分の弁当を食べる。
「うまいあんまん! あんまんうまい! あんまん! あんまん!」
テンション上がりすぎだろ。あんまん中毒かよ
「あんまんそんなに大好きになったのか?」
「うん! あんまんだいすき!」
「そうか、それじゃあ君の名前はアンマンだ!」
あんまん大好きアンマン。
……安直すぎたか。
アンラ・マンユ、略してアンマン。
もう何でもいいや。
「わああああい! あんまんあんまん!」
よ、喜んでくれて何よりだ。
お読みいただきありがとうございます。