act10.アンマンの恥じらい!
やってるぜ!
こんなものを見つけてくるなんて、柚希は天才か!
「即買いだあ! この可愛さを見せびらかしに行くぞ!」
アンマンを小脇に抱えてレジへと向かおうとする。
が、襟首を掴まれて何者かに止められた。
後ろを振り返ると、柚希の足が俺の側頭部に突き刺さった。
足に巻きこまれる形で地面にキスをしてしまったが、アンマンだけは守ったぞ。
って、くそ痛いんですが。
「待って」
「しょれしゃきにいっへ」
足で頭を押さえられているため起き上がれない。地面ともキスしたままなのでうまく喋れない。
攻撃しないってアンマンと約束したじゃん!
「だ、大丈夫ですか!?」
金井さんの心配する声が聞こえる。
「……ダメでふ」
「問題ない。それより、他にも買わないと明日の分がない」
問題オオアリですよ。早く足どけてください。
「はひ、はんと買いまふ」
漸く足がどけられた。
身体を起こすとアンマンが心配そうにこちらを見ていた。
うん! 可愛くてよろしい! 元気百倍だ!
「うおっしゃ!」
元気だということをアンマンにわからせるために無駄にテンションをあげて起き上がった。
俺、アンマンのためならなんだか頑張れる気がしているの。最初は邪険にしてごめんな。
「あははは、元気ですね」
金井さんは笑わなくていいですから。
まぁアンマンが心配そうじゃなくなったから良しとしよう。
それで何を買えばいいのか。俺が選んだらアンマンの魅力を引き出すにも限界があるな。そうだ。
「金井さん、笑ったから何かアンマンに似合いそうな服選んでください」
「僕が選ぶんですか? 別にいいですけど、センスあるわけじゃないですよ」
俺と柚希は変な風に偏ってるからな。自覚はある。金井さんに選んでもらえば普通に可愛らしいものを選んでくれる、と思う。俺たちが選ぶよりはまともになるはずだ。
「まぁまぁ、値段だけ気にしてくれたらいいですから」
「私ももう一着選ぶ」
「お、おう、お前は勝手に買ってこい。一旦これだけ会計済ませて俺はアンマンと待ってるわ」
二人と別れ、アンマンを連れて会計を済ませた。
またもや店員さんに変な目で見られたが気にしない。あからさまな反応だったけど気にしない。
「くそ、人を変質者を見るような目で見やがって」
「おにいちゃん?」
怪獣姿のアンマンが不思議そうにこちらを見ている。
「アンマンの可愛さでなんでもなくなったよ」
アンマンを連れてさっきと同じベンチに座って休む。
そういえばアンマンが先ほどからモジモジしている。小便でもしたいのかと思ったが、試着室でもモジモジチラチラしていた。恥ずかしいのだろうか。朝は裸でも恥ずかしくない感じだったがどんな心境の変化だろう。
まぁ恥ずかしがる幼女というのは可愛いものだからいいけどさ。
「あのね、おにいちゃん」
急に改まったようにアンマンに呼ばれた。
「どうした?」
「あのね、あのね、……さっきは、ありがとぅ」
尻すぼみなお礼を言われた。言い終えたときには顔を伏せてしまった。
服を買ってやった礼だけでそんな恥ずかしがることないだろうに。
「服のことはいいよ。なかったら大変だしな。人型になれるんだ、そのほうがいいだろ」
服に対してのお礼だと思ったらそうじゃないようで、アンマンはフルフルと顔を振った。
「ちがう。わたしがあぶなかったときにたすけてくれたから」
そっちか。
「礼はいいよ。アンマンが悲しいと俺も悲しいからな」
ただの藻だったらそうは思わなかったかもな。
こんなに可愛くてこれから強くなっていく可能性もあるからね。大切にしないと。
……それになんだかんだ、俺のピンチを助けてくれるしな。基本的にあんまんという報酬のためだが。
「うん……わたしもおにいちゃんがかなしいとかなしい」
うんうん、いい子だ。
俺のことを思ってか、ギュッとこちらの服を掴んできたのでお返しに頭を撫でてやった。
怪獣のキグルミの上からだが、アンマンは嬉しそうに目を細めた。
ふっふっふ、お兄ちゃん思いの可愛い奴め。
「二人が戻ってきたらあんまん買ってやるな」
「あんまん!」
パァッと目を見開いてキラキラさせている。
先ほどよりも嬉しそうなんですが……。
お読みいただきありがとうございます。
恥じらいよりも食い気なアンマンです。