天水国の太子(3)
私だって、好きでこんなふうになったわけじゃない
女性を遠ざけるようになったのは元服の十五歳を意識しだした頃から。
祥の妃候補として貴族の子女がふるいにかけられていた。
親からの期待を背負って後宮に出仕する令嬢達は程なく失望することになる。
太子宮は遠く、子女たちの授業は年老いた宮女や官士が行う。
上位貴族の令嬢は侍女を従えて出仕する。
仕事ではないのだから出仕というのもおかしいのだが。行儀見習いとして王族を支える者達の働きぶりを知ることが皇太子妃の心得である、という名目であった。
中流の貴族には宮女として勤めて信頼を重ね太子宮に配属されるのが良いと願っていた。着替えを手伝う見目の良い者が側室になることもあるからだ。
気位の高い令嬢よりも寵愛された例もある。
しかし祥は乳母の李蓮衣をそのまま側に置いた。
乳兄弟の李絋は軍に入ってからは顔を合わす機会は無いが、姉の李芽衣が出仕している。
芽衣は祥たちより四歳年長で姉代わりだった。
適齢期なのだが仕事が面白いようでまだ独身である。
客の前に出るような表向きの用は芽衣がよく使われた。
まるで姉妹のような母娘は明るく、ころころとよく笑い太子宮を和ませてくれていた。
多分、正妃と妾妃を数人選び、公平に通うのだろうと思っていた。
父である王は妾妃を置かず、子供も少ない。
ゆえに自分にかけられる期待が大きい。
それを繰り返す気がないし自分は父と母のような劇的な恋をしないだろうと思った。
正妃には穏やかな者を迎え、国の行く末を話し合える聡明さと、妾妃には野心家ではない、孤独に強い者がいい。
希望と言えばそれだけだった。
見た目に惑わされて判断が狂うより良いと思った。