異世界への行き方
「簡単だ、蜂蜜をたっぷり入れたホットミルクを飲んでベッドに入ればいい。そうすりゃ簡単に行ける」
リョートは自身満々に言った。それを聞いたハルトは、怪訝な顔をしながら言う。
「お前それ、単純に寝ろってことじゃ」
「そうだよ、そうすりゃ夢の世界へ一直線」
ハルトは、がっかりした様子でリョートに言った。
「そうじゃなくてさ、こう現実的な方法は無いのか。満月の夜に合わせ鏡を作ったり、六芒星の魔方陣に生贄を捧げるとかさ」
「あのなハルト」
リョートは眉をしかめながら言った。
「異世界なんか行けないんだよ、そう簡単にはさ。確かに物語の中じゃそうかもしれないけどさ」
「行けやしない所を考えるぐらいなら、夢を見たほうが早いよ」
それを聞くと、ハルトは残念そうな顔する。さすがにリョートも言い過ぎたと思い、話題を変えることにした。
「大体よ、何で異世界に行きたいんだよ」
「いやさあ」
ハルトは、目の前に積まれた大量の本や資料を見ながら言った。
「確か『ぱそこん』ってのを使えばさ、今やってる魔術の課題も簡単に終わると思うんだ」
「お前なあ」
リョートは呆れながら、自分の手元に目を落とした。まだ課題は半分も終わってない。
「そんなのあるわけ無いだろ。羽ペンも使わずに文字が書けたり、書き間違えても消去魔法を使わずに消せたり、分からない事があったらその場で聞いて答えが貰える」
「そんなうまい話、あるわけがない」
リョートを溜息をつきながら、嫌味交じりに言う。
「確かにさ、これ大変だよ。まさかお前がクレオネルの角を入れ忘れるなんて馬鹿なことをしなきゃ、こんな課題やらずに済んだけどな」
リョートの言葉に、ハルトはムッとした。
「いや、あれはリョートがペウケーの分量を間違えたからじゃないかな」
「俺のせいって言いたいのか、お前」
「そうは言ってないだろ」
今にも醜い言い争いが始まろうとしていたが、その時、鐘が鳴った。
彼らがこの図書館に来てから、すでに六回目であった。
「あ、急がないと間に合わないぞ」
リョートは、左手で火炎魔術に関する本のページをめくりながら、右手で課題を進め始める。
ハルトも、同じ用に進め始めた。
「『ぱそこん』があればなあ……」
リョートはその言葉に耳を貸さなかった。ハルトも、喋るのを止めた。
そして二人は、黙々と課題を羽ペンで書き進めるのであった。