雨と傘の女
その日は雨だった。朝からずっと雨が降るいやーな天気。俺は学校から家に帰る途中だった。雨は嫌いな方だ。憂鬱になるし、道路は水溜まりだらけだし、傘は邪魔くさいし、帰るのも面倒になる。傘の隙間から空を見上げると空は灰色の雲で覆われていて、青空なんて最近見てないなぁ、と思った。
ため息を1つつくとしぶしぶ歩きだした。
家の近くの線路に差し掛かった時、線路の反対側に誰かが立って居た。別に当たり前のことで、全く気にして居なかった。立っているのは、女だろうか。普通より少し大きめの真っ黄色の傘は嫌でも目に入った。傘のせいで顔はよく見えないが真っ白なワンピースを着ている事はわかった。
俺はそのままそこを立ち去った。
次の日も雨でその日も同じ場所にあの黄色い傘の女は立っていた。流石に不思議に思う。だってこんな雨の日に2日連続て同じ場所に立ってるなんて。俺は最近見た心霊番組を思い出して、まさかなと自嘲した。
ちょうど女が立っている反対側のいつも通る道を歩いていると、突然声が聞こえた。
『…き、いろ、黄色…あぶ、危ない、危ないよ…』
「え、…?」
振り向くと黄色い傘の女はまっすぐこっちを見ていた。真っ黒い血まみれの顔で。
「う、うわわわわわわあああああああああ!!!!!!!!!」
俺は悲鳴をあげてその場から逃げた。
次の日、俺はその道を通るねが怖くて友達に頼んで一緒に帰ってもらった。帰り道、俺は友達に昨日あったことを話した。友達は見間違いないだろ、と笑った。そして線路の近くに来た時、また声がした。
『…き、いろ、黄色…あぶ、危ない、危ないよ…』
俺はとっさに耳をふさいだ。隣の友達には声は聞こえていないらしく俺の行動に驚いていた。
『き、いろ、黄色…あぶ、危ない、危ないよ…』
「何だよ…、何なんだよぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
「お、おいどうしたんだよ」
「やめろやめろ、やめてくれ!!」
友達は怖くなったのか俺を置いて逃げて行った。けれど、声はどんどん大きくなってゆく。俺は耳をふさいで叫び続けた。
「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺がそう叫ぶと、突然声が止まった。驚いて女の立っているところを見るといつもの黄色い傘が、
赤い傘になっていた。
するとまた声が聞こえた。いままでなないくらい大きい声が。
「あ、あか、赤、赤赤赤赤、赤赤赤赤赤止まれと、とま、れ、止まれ止まれ止まれ止まれ赤赤赤止まれ赤赤赤止まれ赤赤赤止まれ赤危ない、あぶ、ない危ない止まれ赤止まれ赤危ない危ない止まれ赤赤赤赤赤止まれ危ない!!」
次の瞬間トラックが突っ込んできて、俺は宙を舞った。地面に叩き付けられ激痛とともに意識は薄れていった。雨は止むことなく俺も濡らしてゆく。ああ、やっぱり雨は嫌いだ。
意識が切れるまぎわ、また声が聞こえた。
『あーあ、危ないって言ったのに』
そして、俺は死んだ。
結局あの女は、何だったんだろう。




