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ー【第2節】音程のズレが気になりすぎて我慢できず、無意識にアイドルの歌声に合わせて完璧なアレンジ伴奏を弾いてしまった

第2節 音程のズレが気になりすぎて我慢できず、無意識にアイドルの歌声に合わせて完璧なアレンジ伴奏を弾いてしまった


 身体が勝手に動いた。

 これはもう、作曲家のさがとしか言いようがない。

 俺はミウに背を向けたまま、鍵盤に指を置いた。


「……そこ、EマイナーじゃなくてCメジャーに転調した方がいいよ」


 俺の声に、ミウが驚いて振り返る。

 だが俺は構わず、指を走らせた。

 ポロン、と透明感のある和音が響く。

 俺が弾いたのは、原曲の重厚なコード進行ではなく、ミウの声質に合わせた軽やかで伸びのあるアルペジオだった。


「え?」


 ミウが戸惑いの声を上げる。

 だが、音楽は止まらない。俺は彼女の呼吸に合わせて、伴奏をリードしていく。

 《歌え》

 俺の指がそう告げていた。

 ミウは反射的に息を吸い込み、俺の伴奏に乗った。


「♪――錆びついた 感情の 海を越えて……!」


 空気が震えた。

 さっきまで詰まっていた喉が嘘のように開き、クリスタルのような高音が真っ直ぐに伸びていく。

 俺のアレンジは、彼女の一番美味しい音域を引き出すための特注品オーダーメイドだった。

 原曲にはない、即興の対旋律カウンターメロディが、彼女の声を優しく包み込み、そして押し上げる。

 俺自身も驚いていた。

 自分の指が、これほど滑らかに動くとは。

 まるで、彼女の声という最高の楽器を手に入れた喜びで、俺の才能が歓喜しているかのようだった。

 サビの終わり、俺はあえて原曲とは違う、静かな余韻を残すコードで締めくくった。

 ジャーン……という残響が、夕焼けの教室に溶けていく。


「…………」


 静寂が戻った。

 俺はハッとして、鍵盤から手を離した。

 やってしまった。

 完全に無意識だった。ただのクラスメイトである俺が、国民的アイドルの練習に口を出し、あまつさえ勝手なアレンジを加えるなんて。

 怒られるか? それとも「素人が何様のつもり?」と呆れられるか?

 恐る恐る振り返ると、ミウは放心状態で立ち尽くしていた。

 その瞳は大きく見開かれ、唇は微かに震えている。


「……な、なに今の……?」


 彼女が搾り出すように言った。


「魔法? 嘘でしょ……原曲より、私の喉に馴染むんだけど……まるで、私のために作られた曲みたい……」


 彼女の目には、明らかな衝撃と、それを上回る感動の色があった。

 マズい。

 俺は冷や汗をかいた。

 今の演奏は、俺の手癖ノイズとしてのシグネチャーが全開だった。

 もし彼女が熱心なファンなら、このコード進行やフレージングから、俺の正体を嗅ぎつけるかもしれない。


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