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ー【第4節】謎の毛玉がアイドルの心の声を翻訳し始め、塩対応な彼女の脳内が俺への激甘な尊さで埋め尽くされていることが判明する

第4節 謎の毛玉がアイドルの心の声を翻訳し始め、塩対応な彼女の脳内が俺への激甘な尊さで埋め尽くされていることが判明する


 キン、という高い耳鳴りの後、ラジオのチューニングが合うような感覚があった。


『――うわああああ尊い尊い尊い! 無理! 死ぬ!』


 俺はビクッとして周囲を見回した。

 誰も叫んでいない。教師は淡々と数式を解説しているし、クラスメイトたちは眠そうにノートを取っている。

 じゃあ、今の絶叫は?

 俺は恐る恐る、隣のミウを見た。

 彼女はツンとした澄まし顔で、頬杖をつきながら俺の方を流し見ている。

 その唇が、小さく動いた。


「……ま、君も『ノイズ』の良さが分かるなんて、見かけによらず趣味がいいのは認めてあげるわ」


 上から目線の、いかにも高飛車なアイドルのセリフだ。

 だが、その音声に重なるようにして、脳内の『声』が爆音で響き渡った。


『(同志発見んんんんん! しかも男子! このクラス終わってると思ってたけど神かよ! ていうか近くで見るとこの子、手がメッチャ綺麗じゃない!? 指ながっ! この指でキーボード叩いてるの想像するだけでご飯三杯いけるわ!)』


「…………は?」


 俺は思わず間抜けな声を出した。

 ミウが怪訝そうに眉を寄せる。


「何? 褒めてあげたんだから、ありがたく思いなさいよ」


 口から出る言葉は、相変わらず冷たい。

 だが、ミウの肩に乗ったふわふわが、フルフルと震えるたびに、本音がダダ漏れてくる。


『(キャーッ! こっち見た! 伏し目がちな目元とか最高に陰キャっぽくてそそる! 私、キラキラしたイケメンよりこういう日陰の苔みたいな男子が好きなのよ! 守ってあげたい! いやむしろ踏まれたい! ああっ、もっと『ノイズ』様の話したい! 連絡先聞きたいけどアイドルとしてのプライドが邪魔するぅぅぅ!)』


 情報量が多すぎる。

 俺はこめかみを押さえた。

 どうやらこの「ふわふわ」には、負の感情を食べるだけでなく、対象の「建前」という防壁をすり抜け、深層心理にある「本音デレ」を翻訳して俺に届ける機能があるらしい。

 いや、知りたくなかった。

 国民的アイドルの脳内が、こんな限界オタク全開の欲望にまみれているなんて。

 しかも、「日陰の苔」ってなんだよ。褒めてるのかそれ。


『(あー、もう我慢できない。放課後、音楽室に誘っちゃおうかな。ダメかな。迷惑かな。でも『ノイズ』様の信者同士、魂の共鳴セッションが必要だと思うの!)』


 ミウは涼しい顔でノートを取りながら、心の中ではのた打ち回っている。

 そのギャップに、俺の処理能力はパンク寸前だった。

 俺は、ただ静かに曲を作っていたいだけなのに。

 俺の正体がバレるのは時間の問題かもしれない。

 いや、それよりも――。

 俺は、無自覚に彼女の「推し(ノイズ)」本人として、彼女の巨大すぎる愛(と欲望)を受け止めなければならない運命にあるのかもしれない。


 ふわふわが、俺を見てニヤリと笑った気がした。目も口もないくせに。

 こうして、俺の「空気」のような高校生活は、激強炭酸のエナドリよりも刺激的で、甘ったるいカオスへと突き落とされたのだった。


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