ー【第3節】自分の曲を崇める推しの熱量に耐えきれず、俺は現実逃避のために愛飲する「激強炭酸エナドリ」のプルタブを開けた
第3節 自分の曲を崇める推しの熱量に耐えきれず、俺は現実逃避のために愛飲する「激強炭酸エナドリ」のプルタブを開けた
ミウの熱弁は止まらない。
授業開始のチャイムが鳴っても、彼女は教科書を立てて隠れ蓑にし、小声で『ノイズ』の最新曲の考察を俺に語り続けている。
「……でね、あの3分20秒の転調がマジで天才なの。あれは社会へのアンチテーゼであり、孤独な魂の救済なわけ。分かる?」
分かるも何も、あそこは単にキーボードの操作ミスで音がズレたのを、修正するのが面倒くさくてそのまま採用しただけだ。
だが、そんな真実を言えるはずがない。
「へ、へえー。深いなぁ……」
俺の心の中に、重苦しい黒い霧が溜まっていく。
自己嫌悪だ。
彼女が崇拝している『ノイズ』は、虚像だ。
本当の中身は、こんな教室の隅っこで猫背になってPCを叩いている、冴えない陰キャなのだ。
そのギャップへの申し訳なさと、「俺は偽物だ」という強烈な劣等感。
息が詰まる。
俺は耐えきれなくなり、足元に置いていた通学リュックから、常備している銀色の缶を取り出した。
カフェイン含有量最大、炭酸強度MAXの、ヤバい色のエナジードリンク。
今の俺には、これが必要だった。
教師が黒板に向いた一瞬の隙を突き、俺はプルタブに指をかけた。
プシュッ。
静かな教室に、炭酸が弾ける音が小さく響く。
俺は喉に流し込む。強烈なシュワシュワ感と、化学的な甘さが脳髄を駆け巡る。
それと同時だった。
俺の視界の端、右肩の上に、ポスッという音と共に「重み」が乗った。
「…………」
見慣れた、しかし誰にも見えない相棒。
直径三〇センチほどの、白い綿毛のような毛玉。
目も口もない、ただのフワフワした塊。
俺が心に負荷を感じ、液体を摂取した瞬間にだけ現れる謎の存在――俺はこいつを「ふわふわ」と呼んでいる。
ふわふわは、俺の頭の周りに漂っていた「俺は偽物だ」「消えたい」「申し訳ない」というドス黒い思考のモヤを、掃除機のようにズズズッと吸い込み始めた。
物理的な感覚はないが、心がスッと軽くなる。
こいつは、俺の負の感情を主食にする妖怪のようなものらしい。
いつもなら、これで少し冷静になれるはずだった。
だが今日は違った。
負の感情を食い終わったふわふわが、満足げに震えると、ポンと隣の席へ飛び移ったのだ。
奏音ミウの肩の上に。
「え?」
俺が声を上げるのと、ミウが俺の方を見たのは同時だった。
彼女にはふわふわが見えていない。
だが、ふわふわはミウの耳元で何かを囁くように、微かに振動していた。
直後、俺の脳内に、直接『声』が響いてきた。




