ー【第4節】国民的アイドルの影のプロデューサーとして生きるのも悪くないと悟り、世界を揺るがす最強ユニットが密かに爆誕した
第4節 国民的アイドルの影のプロデューサーとして生きるのも悪くないと悟り、世界を揺るがす最強ユニットが密かに爆誕した
俺はチラリと隣を見た。
ミウは俺の視線に気づき、「なによ」と顔を背けたが、その耳は真っ赤だった。
愛おしい、と思った。
これまで俺は、世界なんてクソ食らえだと思って生きてきた。
誰にも理解されないノイズを撒き散らし、孤独に生きるのがカッコいいと思っていた。
でも、違った。
俺のノイズを「音楽」に変えてくれる存在が、こんな近くにいたのだ。
「……別に」
俺はココアを飲み干し、空き缶をゴミ箱に投げ入れた。
「まあ、悪い気はしないな、って思っただけだ」
俺の言葉に、ミウはきょとんとした後、パッと顔を輝かせた。
「でしょ? 私についてもらって光栄に思いなさいよね」
減らず口を叩く彼女の肩の上で、役目を終えたふわふわが、二人の間に漂う「甘酸っぱい幸福感」と「音楽への初期衝動」をデザートとして吸い込んだ。
そして、満足げに膨らみながら、夜空へと溶けて消えていった。
ふわふわがいなくなると、彼女の心の声は聞こえなくなる。
でも、もう翻訳なんて必要ない気がした。
彼女の瞳を見れば、そこに何が映っているのか、痛いほど分かるからだ。
「さあ、帰って曲作るぞ。リテイクは許さないからな」
「望むところよ。徹夜で付き合ってあげる」
俺たちは並んで歩き出した。
教会の鐘の代わりに、遠くで踏切の音が鳴っている。
これは、ただの始まりだ。
無自覚な天才プロデューサーと、愛が重すぎる国民的アイドル。
この歪で最強な二人が手を組んだ時、世界がどう変わるのか。
それはまだ、誰も知らない。
ただ一つ確かなのは、俺の「空気」のような日常は終わりを告げ、最高に騒がしくて愛おしい「音楽」の日々が始まったということだけだ。
俺は小さく鼻歌を歌った。
それはミウのために作った、あの『Unmask』のメロディだった。
隣でミウが、それに合わせて小さくハミングを重ねる。
二人の音が重なる。
それは、どんな神曲よりも美しく、夜の街に響き渡っていった。
(第5章 完)




