ー【第2節】正体を秘密にする代わりに提示された条件は「専属プロデューサーになって一生私だけを愛して」という事実上のプロポーズだった
第2節 正体を秘密にする代わりに提示された条件は「専属プロデューサーになって一生私だけを愛して」という事実上のプロポーズだった
騒動が一段落し、教師たちによって野次馬が解散させられた後。
俺たちは改めて、音楽準備室で向き合っていた。
ミウは少し落ち着きを取り戻していたが、その瞳の輝きは増すばかりだ。
彼女はハンカチで涙を拭うと、ビシッと俺を指差した。
「いい? リツ君の正体が『ノイズ』だってことは、今のところ私と君だけの秘密よ」
彼女は真剣な表情で切り出した。
「もし世間にバレたら、君の平穏な生活は終わる。マスコミに追い回されて、曲作りどころじゃなくなるわ」
その通りだ。
俺が一番恐れていたことだ。
顔出しなしの覆面Pだからこそ、自由に曲が作れていたのだから。
「だから、私が君を守ってあげる。事務所の力も使って、徹底的に情報を隠蔽するわ」
「えっ、いいの? そんなことして」
「ただし!」
ミウは言葉を遮り、一歩踏み出した。
その顔が、フワリと綻ぶ。
それはアイドルとしての営業スマイルではなく、獲物を前にした肉食獣のような、妖艶で独占欲に満ちた笑みだった。
「条件があるの」
「じょ、条件?」
「私の専属プロデューサーになって」
彼女は告げた。
「これから君が作る曲は、全部私が歌う。他の女に提供するのは禁止。ボカロもダメ。私の声だけを使って、私のための曲だけを書いて」
それは、音楽家としての自由を奪う、奴隷契約のようなものだった。
だが、今の俺にはそれが「呪い」ではなく「祝福」に聞こえてしまった。
だって、俺の曲をここまで深く理解し、表現してくれるシンガーは、世界中を探しても彼女しかいないのだから。
「一生よ」
ミウは俺の手を取り、自分の頬に寄せた。
「一生、私の声だけを愛して。その代わり、私は君の曲を世界で一番輝かせてみせるから」
それは、音楽を通したプロポーズだった。
俺の人生を、才能を、全て彼女に捧げろという契約。
重い。重すぎる。
普通なら逃げ出すレベルだ。
でも、俺の心臓は高鳴っていた。
退屈だった日常が、鮮やかに塗り替えられていく予感。
「……分かったよ」
俺は観念して頷いた。
「俺の音は、全部お前にやる。その代わり、中途半端な歌い方したら承知しないからな」
「ふふっ、望むところよ。私の神様」
ミウは満足げに微笑み、俺の手の甲にキスをした。
こうして、表向きは「クラスメイト兼楽曲提供者(仮)」だが、実質的には運命共同体とも言えるパートナー契約が結ばれたのだった。




