王女としての日常と、違和感
目覚めてから数日。
リリアは、思っていた以上に忙しい日々を送っていた。
「姫様、本日は午後にお茶会がございます」
「夕刻には舞踏会の簡単なご挨拶も……」
幼女であっても、王女は王女らしい。
国務と呼ぶにはささやかだが、
社交の場に顔を出すことも、立派な“仕事”なのだという。
正直、気が重かった。
(……中身は社畜会社員なんだけどな)
だが、拒否権はない。
言われるがまま、用意されたドレスに身を包み、
リリアはお茶会へと向かった。
驚いたのは、その最中だった。
紅茶のカップの持ち方。
椅子の座り方。
挨拶の角度や、言葉の選び方。
考えなくても、身体が勝手に動く。
(……あれ?)
教わった覚えはない。
だが、失礼になる動作は自然と避けている。
舞踏会でも同じだった。
音楽が流れ、手を取られる。
一歩、二歩。
小さな身体で踊るには複雑な動きのはずなのに、
足は迷わず、リズムに乗っていた。
(踊れてる……?)
内心で戸惑いながらも、
失敗することはなかった。
周囲の視線が集まる。
「まあ……」
「なんて愛らしい王女様でしょう」
ひそひそと、そんな声が聞こえる。
「お人形みたい」
「いえ、それ以上ね」
第三者の視線に映るリリアは、
どうやら“とてもかわいい幼女王女”らしい。
――それは、自分でも鏡を見れば分かる。
淡い色の髪。
大きな瞳。
小さな身体に、きちんと仕立てられたドレス。
(……客観的に見たら、かわいい、のか)
自覚すると少し居心地が悪い。
中身との落差が、どうしても気になる。
それでも、不思議だった。
礼儀作法も、踊りも、言葉遣いも。
すべてが「知っている」。
まるで、前からそうしてきたかのように。
(……この身体の記憶?
それとも、この世界に来た影響?)
答えは出ない。
ただ一つ分かるのは、
この世界が“異世界”であるという事実だけだった。
言葉は通じる。
本も読める。
文字は見慣れないのに、意味は分かる。
そして――魔法。
全員が使えるわけではないが、
火を灯し、水を運び、掃除をする。
魔法は特別な力というより、
生活を少し便利にする道具のように扱われていた。
状況は理解できた。
ここはニジア王国。
自分はその王女、リリア・レインフォルド。
見た目は幼女。
中身は、元・現代日本の会社員。
だが――
なぜ自分が、ここにいるのか。
それだけが、分からない。
考え込んでいた、そのときだった。
左目に、ちくりとした違和感が走る。
「……っ」
思わず目をこする。
ゴミでも入ったのだろうか。
その様子を見て、世話係のメイドが慌てて駆け寄ってきた。
「姫様、大丈夫ですか?」
心配そうな顔。
その問いかけに答えようとして、
リリアは無意識に左目を閉じた。
右目だけで、メイドを見る。
――瞬間。
メイドの隣に、
紙のようなものが、ふわりと浮かび上がった。
(……え?)
そこに書かれているのは、
数字でも、魔力量でもない。
これまでどんな役割を担ってきたか。
何を長く続け、何に向いていなかったか。
まるで――
職務経歴書のような情報。
(……なんだ、これ?)
そう心の中で呟いたところで、
第二話は終わる。




