表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家出した魔王の息子、勇者一行に入る 〜最強メンバーで憎き父に復讐したい〜  作者: 谷 風汰


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/16

第5話 「カインの気持ち」

 翌日、再び教会の近くにきた。


 笑顔で手を振っているカインが門の前にいる。

 腰には聖剣。 


「おはよう、ロベル」

「ああ、おはよう」


 珍しく朝が早い。

 カインは基本寝過ごすタイプだが、ここで働き出してから変わったのだろうか。


「それで、何をするんだ?」

「とりあえず、広場まで行こう。

 ちょっとここじゃね」


 俺は同意し、広場まで向かった。



 相変わらずの騒々しさで、目一杯の人がごった返している。

 隣で話しても何を言っているのか分からないくらいで、すこし離れたところにある長椅子に座った。


「それで?」

「新規客を狙うんだ」

「シンキキャク?」

「あの教会、街の隅っこにあるから客が少ないんだよ。

 だから、僕が新しい人たちを探すんだ」


 カインは自慢げに言った。

 人族の商売のことはよく分からないが、強くやる気になっているカインを見ると、こちらも嬉しくなってきた。

 

「教会というのはそういうものなのか?」

「そうさ、困っている人は大勢いる。

 誰かがやらないといけない」


 俺は頷いた。


「どうやって?」

「うーん、とにかく声をかけまくるとか?」

「なるほど。アリアには言わなくていいのか?」

「うん、内緒。

 びっくりさせてやるんだ」


 カインは楽しそうだった。

 だが同時に、少し早口で、感情的で、そこから焦りも感じた。

 何かに追われているような感じがした。



 俺たちはさっそく立ち上がり、シンキキャクを探すことになった。

 なぜ俺を呼んだのかと聞くと、一人では不安だから、ということだった。

 意外だと思った。


 大広場にいる人たちに、まず声をかけてみる。


「すいません」


 カインは言った。


「なんだい?」


 若い男は言った。


「僕、第五区のローズ教会の者なのですが、どうでしょうか?

 一度だけでも訪れて欲しいんです」

「いやあ、家の近くにあるからねえ。ごめんね」


 あっさりと拒否。


「はは、ありがとうございます」


 カインがそう言うと、男は去っていった。

 

「まあ、次だ」


 今度は、小さな子どもと歩いている女性に声をかける。


「ちょっといいですか?」


 女性は振り向く。


「僕、第五区の⋯⋯」


 説明する。


「ごめんなさいね、私、あなた達の教えには反対してるの」

「え?」

「声も聞きたくないわ」


 女性は吐き捨て、去っていった。


「なんだったんだ?」

「多分、別の宗教の人だね。しかもかなり仲が悪そう⋯⋯。

 ここでは珍しいんだけど、こういうこともあるね」


 かなりきついことを言われたが、カインはさらっと流しているようだった。

 

「次」


 それから大広場でかなりの人に声をかけたが、まったく成果は上がらなかった。

 俺はよく分からないが、そもそも教会の数が多いのだろう。

 もう馴染みの場所が決まっているらしい。


 それでも、カインはへこたれなかった。

 へこたれないように頑張っていた。


「ハハ、全部断られちゃった。こういうもんなのかな?」

「分からん。少し休んだらどうだ?」

「いや、大丈夫。早くしないと」

「早く?」

「⋯⋯もう失敗ばかりは嫌なんだ」


 カインはどこかを見ていた。

 俺の方ではなく、人混みの中をじっと見つめていた。


「教会の近くでやってみよう。

 あれだけ人が少ないんだ、気づいてない人もいるかもしれない」

「ああ⋯⋯」



‐‐‐



 全て駄目だった。

 ある人には『あんな小さい教会行かないよ』と言われ、ある人には『あそこ、ボロいからねえ』と言われた。

 どうやら近くに新しいところがあるらしく、みんなそっちの方に行っているようだ。


 カインと二人で、道に立ち尽くす。

 どう切り出していいのか分からず、会話はない。

 

「⋯⋯また、明日に考えればいい」


 俺は言った。

 もうすぐ夕暮れだ。


「いや、まだ」

「焦っても仕方ないぞ」

「焦ってないよ」


 即答された。


「⋯⋯勇者ってさ、楽だったんだな」


 しばらく経ち、カインは言った。


「やれば成果は出た。

 剣を振れば魔物は死んだ。

 最後の最後でだめだったけど、それでも楽だったよ」

「死んでもか?」

「うん」


 俺は、堕ちていく太陽を見つめた。

 空は赤く染まり、夜の気配が漂っている。

 あと少しで、暗闇。


 すると、カインは何も言わず歩き出した。


「どうするんだ」

「少し奥の方まで行く。ちょっと危険だけど⋯⋯困っている人はこっちより多いはず」

「奥?」


 俺は訳が分からなかったが、着いていくしかなかった。


 

‐‐‐



「馬鹿!!!」


 翌日、カインは叱られていた。


 あれから朝までやり続けたが、結局何も成果はなかった。

 ひたすら断られ、だがカインは諦めず、抜けられない大きな穴に沈んでいくようだった。

 そして夜が明け、教会に戻り、待ち構えていたアリアに捕まった。

 今は父親も寝ているそうで、少しだけ俺も中に入れてもらえることになった。


 教会の端の方にある、小さな部屋。

 三人で机を囲んでいる。


「ここはね、小さな教会だから、そもそも人は少ないほうがいいの。

 大勢来てもこっちの手が足りなくなる。

 商売とは違う、分かる?」


 アリアは言った。

 いつもより何倍も語気が強くなっており、沸々とした怒りを感じた。

 心配もあるのだろう。


 カインはうなだれている。


「それに危ないところまで行って⋯⋯もし、おかしな人たちが集まってきたらどうすんのよ?」

「⋯⋯ごめんなさい」

「あなたは強いからいいけど、教会は違う」


 アリアは何度も繰り返す。


 カインは焦っているのだ。

 慣れない仕事、上手くいかないのもある。

 だが何よりも、『勇者』という過去の呪縛が彼を締め付けているように感じた。


 俺は、その気持ちが分かる。


「カイン、過去には縛られなくていい。

 まだ拘っているなら、自分から降りてもいいんだ」


 俺は、やんわりと言った。

 過去と決別した自分、『逃げた』、そのような言い方もできるが、今の生活が楽しいのは事実であり、間違ったことをしたつもりはなかった。


「ロベルに何が分かるんだよ」

「ちょっとカイン⋯⋯」


「俺は、魔王の子どもだ」


 言ってしまった。

 隠していたつもりはない。

 だが、言うタイミングが見つからなかったのだ。


 二人はこちらを見つめている。

 急に雨が降り出したときのような、一瞬だけ固まった表情。

 

「急にどうした?」

「だから、俺は、魔王の子どもだ。

 最初は魔王軍の兵士なんて言ったが、あれは嘘だ」

「⋯⋯いやいや」


 カインは信じていない様子。


「逃げ出したのは?」


 アリアが言った。


「本当だ。嫌になって飛び出した」

「魔王にはならないの?」

「ならない、あんなもの」


 俺は言った。


「だからカイン、俺は今が楽しい。

 お前たちに会えたからだ。

 難しいのは分かるが、少しずつ変わっていけばいい」


 カインは答えなかった。


 そしておもむろに立ち上がる。

 その左手は、しっかりと聖剣を握っている。


「寝るよ。ごめんな、ロベル。こんなことに付き合わせて」

「構わん」

「あと、さっきの言葉、嬉しかったよ。

 僕も、ロベルに会えてよかった。

 一行なんて関係ない。これからも、」


「ずっと仲間でいよう」


 カインは部屋を出た。


 俺は、しばらく座ったままでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ