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家出した魔王の息子、勇者一行に入る 〜最強メンバーで憎き父に復讐したい〜  作者: 谷 風汰


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第2話 「死にかけの勇者」

 俺はしばらく、突っ伏している男を見つめていた。

 まだ息はあるようだが、確実に虫の息。

 もし俺が魔王であれば狂喜乱舞するだろう。


 そして殺す。


 だが、そうする気は全くなかった。

 むしろ、ひと目見たいとさえ思っていた。

 魔王を狙う人族のリーダー、その存在が、今、目の前にいる。


 懐から治癒薬を取り出した。

 万病に効く薬草から作られた高価な薬。

 いざというときのために持ち出してきたが、もう使うことになるとは思わなかった。

 しかし一つしかない。 


 どうするか。


 女の方を見た。

 相変わらず、ナイフをしっかりと握りしめたまま、虚ろな目でこちらを見ている。

 濁った水たまりのような目。

 

 聞いたことがある。

 人族の強さ、それは身体を治癒する魔術だと。

 その発明はみるみる戦況を覆し、ついには魔王城まで戦いを挑むところまできた。


 さっきの光、もしやそれか?


「飲め」


 俺はしゃがみ、女に薬を突き出した。

 しかし反応はない。


 手に持っているナイフを奪った。


「あ」


 声を出した。

 かすかな断末魔のような。


 空いた手に薬の瓶を握らせる。

 その手を掴み、口元まで運んでやった。

 いとも簡単に動いた。


 女は拒絶することなく飲んだ。


 顔色が戻っていき、何が起こったのか理解できぬように両手を見つめている。


 そしてハッとすると、勇者に手をかざした。

 さっき見た緑色の光が現れる。

 

 俺は離れたところに座った。

 横目でその様子を眺める。

 女も、警戒を怠らないように、常にこちらを目で捉えている。


 しばらく経つと光が収まった。

 

「カイン!!」


 女が叫んだ。

 

 いくら魔術とはいえ、恐ろしい回復力だ。

 勇者自身の力もあるのだろう。


 横目で確認すると、そいつ、金髪の青年は体を起こした。


「アリア⋯⋯?」


 女の方を見て言う。


「良かった⋯⋯生きていて⋯⋯」

「ああ、お前が?」


 そう言うと、こちらを見た。

 一瞬固まり、横に置いてある剣を取った。


 まあそうなるか。


 とんでもない速度でこちらに迫ってきた。

 さっきまでは座っていたのに、すでに、俺の顔に剣を向けている。

 

「何者だ?」


 勇者は言った。


「⋯⋯魔族の兵士。軍を抜け出した」


 適当だった。


「なぜ?」

「魔王軍は嫌いだ。滅べばいいと思っている」


 本音だった。


 勇者は怪しそうにこちらを見ている。

 剣は下ろさない。


「その魔族が私に治癒薬を。何が目的か分からない」


 女は言った。


「どういうことだ?」


 俺に聞く。


「倒れていたから助けた。それだけだ」


 勇者は剣を下ろした。

 

「カイン!?」

「考えてもみろよ、アリア。

 もし魔王軍の手先ならとっくに僕を殺してる」


 そう言うと俺から距離を取り、女の隣に座った。


「僕はカイン。名前は?」

「ロベル」

「そうか、礼を言うよ、ロベル。

 まじで死ぬところだった。あ、こっちはアリア」


 勇者は人懐っこく笑った。

 対称的に、女は魔物でも見るかのような目で俺を睨んでいる。


「そんで⋯⋯」


 勇者は何か言おうとしたが直前でやめた。


「分かっている。お前は勇者だ」

「バレてたか。まあ君は悪いやつではなさそうだし、いいか。

 アリアは僧侶だ」

「他には?」

「死んだ」


 勇者は何の感情もなく言った。


 そうだ。

 魔王軍との戦いの後だとしたら、もしかして、奴は⋯⋯。


「戦いは?」

「負けたよ」


 ぶっきらぼうに言った。

 

 奴は生きている。

 まだ、あいつは。

 

「なあ、ロベル」

「何だ?」

「僕と一緒に、魔王を倒さないか?」

「は?」


 俺は驚いた。

 女も、同様に目を見開いている。


「魔王軍なんて滅べばいいって、そう言ってたじゃないか」

「言ったが」

「敵地をよく知っているロベルがいれば、こちらとしてはかなり嬉しい。

 それに何より、相当強いってのは直感的に分かる」


 真っ直ぐな眼差しが俺を射抜いた。

 こんな目で見られたことなんて、人生で一度もなかった。

 強く、気高き瞳。

 俺自身を見つめる瞳。


「ああ⋯⋯」


 気づけば返事をしていた。

 俺の意志なのか、そうでないのか分からないほどあっさりと。

 父への恨みもある、これからすることもない、でも人族は敵だ、色んな考えが複雑に入り組んでいた。


 それでも、答えた。


 勇者は立ち上がり、こちらに歩み寄った。

 笑顔で手を差し伸べる。


「よろしく、ロベル」

「⋯⋯よろしく」


 俺は、恐る恐る、その手を握った。



‐‐‐



 ガルシア王国、魔王城の南に位置する国。

 その王都の近くにある村に、俺はいた。


 ボロい小屋の椅子に座っている。

 ここは勇者の所有する家屋らしく、旅の出発地点としてよく使っているそうだ。


 あれから数日をかけてここに来た。

 次の魔王討伐に向けた準備をするため、一旦帰ることになったのだ。

 彼らは王への報告があるらしい。

 今は朝で、昼過ぎには戻ると。


 ぽつんと残されてしまった。

 することはない。


 外に出てみようかとも思ったが、人族にこの姿を見られるのはまずい。

 灰色の肌ならまだしも、頭についている二本の角はどうしようもない。

 一発で魔族だとバレるだろう。

 

 おとなしく帰りを待つことにした。


 テーブルに置いてある果物を手に取った。

 ゆっくりと口に運ぶ。


 そのとき、コンコン、と音がした。


 もう帰ってきたのか。


 俺はドアに向かった。

 取っ手を握り、ガチャリと開けた。


 目が合った。

 顔に皺の入った初老の男。

 手に何かを持ち、呆然とこちらを見つめている。


「あ」


 と声を発すると、手を口にかざし、小刻みに震え始めた。


「ぎゃあああああああ!!!!!!」


 男は叫んだ。

 転びそうになりながら、慌てて走っていった。

 手に持っていた物は地面にぶちまけられた。

 

 俺は辺りを確認し、それを拾う。

 茶色くフワフワとしている物で、太い棒のような形をしていた。


 小屋に戻る。


 テーブルに置いた。

 食べ物だろうと思ったが、口にはつけなかった。

 どんな味か分からなかったのもある。


 だがそれよりも、自分が食べてはいけない気がした。

 申し訳ない気がした。


 天井を見上げた。

 たった一つのシミが見えた。

 綺麗な木目を汚すように、一点だけ。


 俺は、ここでは異物だ。



‐‐‐



 夜になった。

 二人は帰ってこなかった。


 少し寒い。

 勢いで飛び出して来たため、上に着るものを持ってきていなかった。


 何かないかと部屋を見回すが、暗くて何も見えない。

 魔術で火を灯すことも出来るが、闇の中に居る方が居心地が良かった。


 彼らは何をしているのだろうか。

 昼過ぎには戻ると言っていたが、全くその気配はない。


 立ち上がった。

 そっと足を運び、窓から外を覗く。

 小屋の周囲には誰もいない。


 もし、彼らが俺を殺そうと思っているのなら、夜、大勢の魔法使いがやってきて、この小屋ごと焼き討ちにでもするだろう。

 そのときはどうしようか。

 まだ死にたくはない。


 剣を取った。

 鞘から抜く。

 人差し指で刃を撫でる。


 結局人族にも、分かり合える奴はいないのか。


 コンコン、と音がした。


 扉を見る。

 さっきは考えなかったが、彼らなら叩かないだろう。

 しかし、敵もまた然り。


 誰だ?


 剣を持ったまま、ドアの前に向かった。

 そのままゆっくりと取っ手を握り、開けた。


 そこに立っていたのは、黒いローブを纏い、深々とフードを被った人間。

 暗くて細部までは見えないが、頭には妙な突起がついている。


 魔法使い⋯⋯か?


「じゃん!!!」


 陽気な声が聞こえたと思うと、そいつはフードを払い除けた。

 同時に横から炎が灯り、暗闇に顔が照らされた。


 現れたのは、金髪の青年、勇者だった。


「⋯⋯何をしている?」


 俺は言った。


「驚かそうと思って」


 笑顔でそう言うと、小屋に入ってきた。

 炎を灯している女も一緒。


「遅くなってごめん。アリアが買い物に時間かかって」

「はあ!? あんたでしょ!! こんなローブ一つで!!」


 女は呆れ顔で言った。


「勇者は遅れてやってくるんだ」


 そう言うと、身につけていたものを脱ぎ始めた。

 俺に渡す。


「着てみてよ」


 訳が分からなかったが、とりあえず従うことにした。

 袖を通し、体を包む。

 すっぽりと収まった。


「着た」

「フードも」


 何も言わず従った。


「被った」

「良い感じじゃん!!」


 勇者は女にそう言った。

 だが返事はない。


「何だ?」

「頭を触ってみてよ」


 再び従う。


 被ったときに何か違和感を感じてはいたが、その正体は分からなかった。

 いや、感じなかったのか。

 

 フードは頭にすっぽりとハマっている。

 普通あるはずの、違和感はない。


 角だ。


 モコモコしているものが二つの角を覆っていた。


「ロベルも王都に来てほしくてさ。

 でもその姿じゃ流石にまずいから、体を隠せるようなローブを探したんだ。

 フードで顔も隠せたら良かったけど、角があるだろ?

 そこで思い出した。

 獣耳がついてるやつがあったなーって」

 

 獣耳⋯⋯。

 何に使うのか分からないが、確かに、俺にはピッタリだった。

 これなら顔を隠せる。


「じゃあ、明日は王都に行こう!!」


 勇者は言った。

 俺は小さく頷いた。


 寝室に向かう彼らを尻目に、ローブの質感を確かめる。

 内側に毛が施されていて、素肌に柔らかく当たっている。

 体を優しく包んでいる。


 とても、温かい。

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