入学式
突然だが、私には兄がいる。
リーレット公爵領は、魔物や竜が出没する頻度が、かなり高いのだ。そのため、いずれ公爵家を継ぐ兄は、そういった物の対策に長けている、隣国のケートルト王国に、留学しに行っていたのだ。だが、今日は私の入学式のため、急遽帰ってきていた。
「いやー、3年ぶりかな?サフィリア、こんなに成長してなぁ。兄ちゃん感慨深いよ〜」
「アレキサンドお兄様、2年ぶりです。それに、入学式当日に着くなんて相変わらず計画を立てるのが下手なのですね。それと、頭撫でないでください。せっかくセットしてもらったのに」
「ははは、悪い悪い。そういや髪型、変えたんだな。今のほうが似合ってる。」
はははと軽快に笑うお兄様は、私と2歳差である。
「そんなに感慨深くなるほど年の差ありませんよね?それと、入学式の後のパーティーでエスコートしてほしいのですが…」
「あれ、サフィリア婚約者いなかったか?確か名前はスカイとか……」
「今、婚約解消の話し合いをしているんです。色々ありまして……」
「……そうなんだな。ついに、愛想を尽かされちまったか……」
「違います。尽かしたのはこっちです。」
「え!?あんなに付きまとってたのに!?」
「2人とも、早く食べなさい。食事が冷めてしまうだろう。」
食事に手も付けずに話していると、怒られてしまった。当然か。
「お父様、すいません。……まあ、エスコートをするのはあちらから誘ってこなかったらだな。断るのもあまり良くないだろう?」
「まあ……そうですね。」
そう返事をして朝食に手を付ける。
何事も無く終わりますように……そう、心の中で呟きながら。
◇ ◇
リーレット邸のエントランスから出ると、エリオンス家の紋様が入った馬車が見えた。そこから、スカイが降りてくる。
「サフィリア、今日のパーティーはぜひ、俺にエスコートさせて欲しい」
まあ、そうだよな。そうなるよな。
渋々スカイの手を取ると、スカイは微笑んで馬車へとエスコートする。
馬車に乗り込み、お父様にまた会場でと告げて、ドアを閉める。
馬車が動き出すと、スカイが口を開いた。
「今日は入学式だね。」
「はい」
「緊張しているのかい?」
「いいえ」
「パーティー、楽しみだな」
「そうでしょうか」
スカイがむっとした顔で口を噤む。私の興味なさげな態度が気に食わないのだろう、多分。
「式が終わったら、僕の寮に来てみないか?そこで茶会でも……」
「異性の寮には原則立ち入り禁止です」
スカイが更にむっとした顔になる。というか、こんなことも知らなかったのか、こいつ。
「それに、式の後はクラスメイトや担任の先生との顔合わせに、入学記念のパーティーもあるんです。忘れていたのですか?」
「でも、校舎案内とパーティーの間の時間でどうかと…」
「学園でお茶会をする時はティーサロンが貸し出されますが、初日なので貸し出されていないと思いますよ」
そうばっさり切り捨てると、スカイは悔しそうに顔を歪めて、俯いてしまった。
しばらく経って窓の外を見ると、もう学園が見えてきていた。
「そろそろ学園に着く様子ですよ。制服が乱れているのではありませんか?」
「あっあぁ」
そう指摘されて、スカイは慌てて姿勢を正してネクタイを整える。
学園に着いて馬車から降りて会場に入ると、会場は人々の喧騒で埋め尽くされていた。
「では私は、家族と合流しますので。また後で会い」
「待って!」
大きな声で引き留められる。
「なんですか?」
「いや、えっと、その……何でもない」
それなら話しかけないでほしかった。ため息をついて歩き出すと、誰かとぶつかった。
思わず振り向く。
綺麗なプラチナブロンドに、ピンクのくりくりした瞳。紛うことなき、この国の第四王女のエイミール・フェネディクトだ。
謝ろうと思ったが、あちらは何故か、とても私を恨んでいるような、ひりつく視線で睨んてきた。
何故そんな事をされるのかもわからない私は、その剣幕に何もすることが出来ず、そのままその場を立ち去った。
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