不本意のデート(3)
私は、予定もなかったのに、スカイに強引に連れられ、レストランでディナーを食べていた。
「サフィリア、今日は楽しかったかい?」
「まあ、そうですね。」
スカイの問いかけに対し、適当に返事をして、出てきたヒラメのカルパッチョに手をつける。
「ここの店は、君がお勧めだと言っていただけあって、美味しいな。メインディッシュが楽しみだ。」
「はい。たまに家族で来るんです。」
そう言ってカルパッチョを味わっていると、次は海老の冷製スープがテーブルに届いた。
それにしても、こんなにも時間が遅くなってしまった。杖を作ってもらった後に、護衛の1人に伝言を頼んでいたから、心配されるということはないだろう。だが、ディナーまで外で済ませてしまったとなると、流石に怒られるのは目に見えている。
そう思案しながらスープを飲み切ると、丁度メインディッシュのラムチョップが届いた様だった。スカイが、
「ラムチョップかぁ…骨から取るのが苦手なんだよな…」
と呟いたのは、見なかった事にしておいてやろう。
ラムチョップは、とてもジューシーで、羊の独特な嫌な臭いも少なくて、とても美味しかった。
ただどうしても、スカイのナイフさばきが下手なのが気になる。まあ、仕方ない。ほっとこう。
惜しみながらラムチョップを食べ終わり、デザートが届くのを待っていると、おもむろにスカイが口を開く。
「今日は本当に楽しかったよ。また、こんな風に、一緒に街を見て回ってくれるかい?」
「……機会があれば。」
「……そうか。」
恐らく、もうこんな風に街を歩くのは、これが最後だろう。
全く惜しいと思えない事から、私はもう吹っ切れたのだなと感じる。
黙って食べるデザートは、爽やかな味がした。
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スカイがどうしても送りたいと言うので、エリオンス家の馬車に乗り込んだ。
「今日は本当に楽しかったな。そう思うだろう?」
「……そうですね。」
下手なことを言うと面倒くさそうなので、問い掛けには素直に答えておく。
ぼんやりと外を眺めると、楽しげに笑う親子、仲の良さそうなカップル、幸せそうな老夫婦。
そんな人々が見えた。どれも、かつて私が夢見ていたものだ。でも、今はちっとも羨ましく思わないのである。
「空が綺麗だな。君の瞳のようだ。」
「はぁ。ありがとうございます。」
唐突なスカイの褒め言葉に、少し困惑する。
「僕は、今まで君を大切にしなかったことを後悔しているんだ。」
馬車が止まる。スカイが立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「君は綺麗だ。黒い艶のある髪に、夜空のような瞳。その服も、君にとても似合っている。」
スカイが私の顔に触れる。馬車が動き出す。
「なぁ、何で婚約破棄したいなんて言ったんだ?君はずっと、僕の事を好きだと言ってくれていたじゃないか。」
「スカイ様、座ってくださ…」
「悪かったよ。これからは、婚約者らしく仲良くしよう。だから…」
スカイの顔が近づく。生暖かい息がかかる。
口づけされる。そう思った時。
馬車が急ブレーキで止まったのと、私がスカイを突き飛ばしたのは、ほぼ同時のことだった。
「すみません、急ブレーキになっちゃって。リーレット邸に到着しましたよ。」
馬車の運転手が降りてきて、到着を伝えた。
助かった。と思った。そそくさと馬車を降りて、スカイに挨拶し、小走りで公爵邸へと向かう。
悲痛な、私を呼び止める声がしたような気がした。
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