09.Meteor
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「カタナ...サムライソード、っすか...」
手を組んでコニーが唸る。何で言い直した。
「何か問題でも?」
何とも難しそうな表情をしているので聞いてみると、彼女ではなくカーラが答えた。
「定期的に注文はあるんだが動作がね」
「ああ、なるほど」
刀そのものの形は伝わっているが。その振り方はあまり現代には伝わっていない。プラチナム曰くWeb上のデータベースの、その端っこで埃をかぶっていたのだそうで。一応戦闘オプションの導入時にダウンロードされたそうだが、生かされるとは製作側も思っていなかったそうな。
「最悪モーションは要らないだろ」
「え?...あっそうっすね」
先ほどの文字通り脳と直結した俺の操縦を思い出したのかコニーが溜息を吐く。
「そう言えばあの機体、モーションプログラムの形跡が無かったんすよね。ブラックボックス化された部分がすごく多かったすから、その中にあるもんだとばかり思ってたっすけど、この分だと...」
「最初から入って無かったんでしょうね...」
プラチナムが呆れている。
「なんかあるのか?」
珍しく不快気な表情を見せるので思わず聞いてしまった。
「動作に関するあらゆる演算を使用者に担わせるなど機械の名折れです」
「...いや、乗ってる時点で大概じゃないか?」
「いやね、それは何と言うか、安全装置だよ。機械と戦争にならないための、ね」
俺の疑問に答えたのはカーラだった。皮肉気な笑みを浮かべた彼女は俺の表情をみて笑みを深める。
「納得いかない、って顔だな。...まあ正直、あたしは機械...無機性知が人を裏切るとは思ってない。そのメイドの忠誠心も本物だろうさ、多分だが。...だからそれは機械に対する安全装置じゃない。人間に対する安全装置。機械を恐れさせないため、人の手の中に在るための措置さ」
こんこんとカーラが装甲を叩く。
「自立して動ける。だが人の手を借りる...人間との共同作業それが機械の存在様式。そういう意味ではコイツは機械じゃないともいえる」
「はい。...限りなく、道具に近い存在です」
何と言うか、定義と言うか概念の問題か。
「考えないヒトはヒトなのか...みたいな?」
「言い得て妙だがその歳で哲学か...」
戯れだがな。良く分からんよあれは。
「...まあ最悪使えればいいさ」
「それはそうだが身も蓋も無いねえ」
「身も蓋も先立つものがなけりゃな」
家計は火の車である。文句なんか行ってられるか。
「...長話もいいっすけど、あたしこの後も予定あるんすよね...」
「ああ、そうだったね。脱線していた話を元に戻そう。楽しい楽しい改造計画の時間だ」
それから約四か月後。
「やっと、とは言わない方が良いんだろうな」
「そうですね。兵器の開発としては異例なほどには早いです」
俺達は届いたモノ...これから俺の愛機となるはずのソレを見上げていた。
あの異形の状態からよくここまでと言える程度にはヒロイックだ。白銀と青で塗られた速そうなペイント。騎士の様な、一部の星系で受け継がれていると言う”ヨロイムシャ”の様な、そんな意匠。徹底的に軽量化されつつも重装備であり、出来るだけ流線形を目指された見た目と共に歪でありながらもスタイリッシュな印象を与えている。
「速度!攻撃力!...うーん注文通り」
「無茶無謀を絵にかいた様ですね」
注文書を出してからちょっとプラチナムが冷たい。まあ指揮官なんだから後ろで指揮できるように重装甲を、と言うのは分かるが残念ながら俺は前線派の息子、脳みそ筋肉の遺伝子が組み込まれているのだ。憧れは止められない。
詳しく見ていこう。まずは頭部。一応指揮官機ということで大き目のアンテナと、今は消灯され黒い...点灯すると黄金色に輝く双眸。獣の口の様な部分にはちょっとした仕込みをしてある。
胴体。流線形の尖った胸部が特徴。俺としては装甲を排除してしまいたかったがプラチナムが強硬に反対するので妥協した。肉厚の装甲に大出力に任せた強力な防壁発生装置を搭載している。
腕。大きくがっしりとした肩に細い腕が繋がっている。だがこの巨大な肩は装甲ではない。前面にレーザーショットガンを、後方に大型の推進機を搭載したプラットフォームである。腕には前腕部に小型の偏向式防壁発生装置を搭載し、円盾の様に。
脚。細身の芯に推進機を兎角詰め込んだ。幾らか小さくなってはいるが、”元の機体”の名残が残っている唯一の場所だ。腰には大型の姿勢制御装置付きのサイドスカートが付いている。
背中。大型の尾の様な推進装置を3つ備え、それらが無骨なアームによってフレキシブルに稼働する仕組みになっている。
武装。腰の後ろに大型の特殊な実体剣...いや、大太刀、《試製8式大太刀”ドウジキリ”》がマウントされている。直刀に程近い反りの殆ど無い刃に、同軸に取り付けられた砲身が特徴の特殊武装。複雑な形の柄は射撃するにも向いた形になっている。...そう、それは所謂銃剣。刀の特製を維持しつつ射撃武装を組み込むのは大変だったそうだが、出来ているのだから問題はないな。
更に補助武装として銃剣付きレーザーガンを備える。全長が短い故に殆どナイフだが...まあないよりはましだろう。
総じてコンセプトは”突撃”と相成った。強力な防壁と爆発的な加速で敵陣に突っ込んで暴れ回る狂戦士。プラチナムやセバスはこれで最悪の時に逃げ回ることを期待しているようだが...ま、たとえ子供の憧れだとしても。前線で戦いたいものなのだ。
「名前は...入力するようになってるな。届いてから名付ける方式って流行ってるのか?」
「そこそこはあると思いますよ」
そうか。...ま、名前についてはすぐに思い付く。
「”ミーティア”。それがコイツの名前だよ」
ぴ、とホロウインドウに名前が入力される。
KFTX-Jrb-01"Meteor"。それが俺の、相棒となる機装騎士の名前だ。
尚型番はKingdom Frame Titan X - Jank rbicondiceの意味だそうな。最初のKTFXはどうも最初から機体に組み込まれた...どうもこの機体の骨格の名前だそうで。変えずに残しておく判断を下したとのこと。Jrbは「ジャンク屋ギルドのルビコンダイスが作った」という意味。んでこの型番としては初の仕事故に01号機、と。
「...うん、中々格好いいじゃないか。まだ本格的には動かしていないが、まさに”流星”の如く、だな」
「燃え尽きないでくださいよ...?」
プラチナムが溜息を吐く。はは、死ぬくらいならお前たちの言う通り逃げに使うさ。