08.人機一体
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「そう言えば、プラチナムは剣術もできる筈だよな」
数か月が立ち、新体制がようやく少しづつ回り出した頃、俺は刀を倉庫から引っ張り出した。
そろそろカーラが機装騎士の改装を始めるとのことで、その際にある程度の運動能力を見たいとのことだ。
だからと思って引っ張り出したのだが、プラチナムの言はすげがなかった。
「はじめから魔剣の類はやめましょう」
彼女は今動きやすい恰好...具体的に言うとジャージっぽい恰好をしている。野暮ったい恰好のはずだが見眼がいいと言うのは最強だな。まるでドレスの様だ。
「はい...」
と、いう訳でプラチナムがどこからか持ってきた木刀を構える。...ん?
「...なあ、庭木が一本減ってないか?」
おいこら目を逸らすな。確かにこの木は丈夫な種類だけど。...まあいいや、思い入れもないし。だけど後であっちの方で途方に暮れている庭師には謝っとけよ、悪戯の範疇は超えてると思うぞ俺は。
「...おほん。アルクス様は、剣術の方は?」
「基礎だけは親父から...ってところかな」
半身になり、木刀を肩口に持ち上げ、刃を上に向け、切っ先を前へ...プラチナムへ向ける。
「雄牛の構え、ですか。...攻め気が強いのですね」
「まあな」
親父がそうだったからな。基礎だけとは言えやはり師に似るものだ。
「しかし、両手剣を用いた剣術と、刀を用いた剣術は様相が大きく異なります。...恐らくは、今まで習得してきた技術はあまり役に立たないかと」
「いい、新たな挑戦は嫌いではない。そもあの刀は扱えて置いたほうがよさそうな気がするしな」
物語知識なのは認めるが、強力な宙賊退治というとどうしても一騎打ちを思い出す。大概は砲撃で消し飛ばすのが常識だが...ないとは限らない。
「では」
そう言ってプラチナムは俺に剣術を叩き込んだ。
そう。
文字通り。
「いってえ.........」
「ははは、ガイノイドに痛めつけられに行くなんて超級のドMくらいなんだがねえ」
さらに三週間後。カーラの運営するジャンク屋である”ルビコンダイス”のアジトにて、俺はなぜかカーラに湿布を貼られていた。
「...いや、なんで湿布なんてあるんだ。確か古代世紀で使われてたものだろう」
「平民の技師には必須さ。治療ポッドだって動かすのはタダじゃない」
「最終的に行き着くのはアナログか」
「そういうこった」
そう考えると貴族に平民の怪しげな薬を渡したって結構ヤバいことなのではと思うが、まあいい。
「というか、意外と近所だったんだな、お前ら」
王都周辺とか、この辺境からは遠いところにあると思っていたのだが、せいぜい五個くらいの領地を移動したのみだった。まあそれでも超光速航行ですら日単位の旅だが。
「ジャンク屋なんて大抵は退廃地区の出身さ。中央に近づける奴は少ない。あたしは違うが、働く奴らも客も、集めようとしたら辺境の方が都合がいいのさ」
ああ、なるほどね...。
「そい」
いってえ!
「ボス、あんまやると斬られますぜ...」
ひげ面のおっさんが俺とカーラのやり取りを見てビビっている。普通平民が貴族と話すっていうとああなるのが普通なんだがな。大丈夫かコイツ。
「っていうか宇宙船の中でも剣...刀か。刀を振ってたのかい?」
おっさんの言葉を完全に黙殺し、俺に引き続き話しかける。
「ええ。剣術は一日にして成らず。継続は力なり。一日たりとも欠かすことは出来ませんから」
答えたのは俺ではなくプラチナムだった。
先ほどまで来ていた訓練服からいつものメイド服に代わっている。
「でも船内で刀が振れるのかい?」
「貴族の座乗艦は広いスペースがあるのが基本なんだよ、最低でも船内パーティが開ける程度にはな」
俺の乗る”オール・ディ”号はあくまで元旗艦のオマケ...というか予備機だったから狭い方だが、訓練が出来る程度には広くて天井が高いスペースはある。
「貴族も大変だねえ。見得と意地の世界か」
「威張りの世界だよ」
実利なんか二の次だ。ただただ威張り散らすだけ、それが王国辺境の貴族共だった。
「...まあいいか、とりあえず、今日来てもらったのは他でもない。あんたの機装騎士を作り始める」
いよいよか。企画を立ててジャンク屋ギルドに話を通す、などしてのこれだ。数週間がかかるのは仕方がないが、正直やきもきしていたのは仕方がないと言っていいだろう。
「来てくれ」
こつこつとリノリウムの床に足音を響かせてカーラが歩いていく。俺はプラチナムに起こして貰い、少々痛む背中を庇いながらそれに続いた。
「思ったより広いもんだな」
「まあ戦艦の整備くらいなら出来るだけのサイズの船渠はあるし、そこそこの”在庫”を抱えられる程度の格納庫もあるからねえ」
ひゅううん...とモーター音を低く響かせて電動台車が行きかっている。...おお、器用に避けるもんだな。
「あんま邪魔してやるんじゃないよ」
すまんすまん。
「ボス!」
そう声を上げたのは禿げた、いや、あえて頭をスキンヘッドにした強面のオッサンだ。何やら三輪の大型の台車の様なものに乗っている。
「オウ、出迎えご苦労さん」
掛け声と思ったら本当に名前がオウらしいオッサンが、大型台車を操作して俺達の横に着ける。
「ツクツクって言うらしい。これで中々便利なんだ」
なんでも二輪車を改装しているんだとか。増設された後部座席は四人乗り。...改造としては随分派手だな。
乗り込むと思ったより力強いモーター音を鳴らして加速する。おんぼろ臭い見た目とは裏腹に高い安定感とスピードで、あっという間に目的地にたどり着いた。
「G-6区画、40m級15番ハンガー。ここがアンタの相棒になる予定のコがいるハンガーさ」
ぴ、ぽ、ぱ、と今時直接入力式の端末を操作すると、ごお、ん、と重々しい音と共に金属製の壁...いや、扉が開いていく。しゅごお、と気圧差があったのかそこそこの勢いで空気が引き込まれ、温度差で生じた蒸気が帯の様に棚引く。次第に散り、明朗に見通せる様になった。
そこには、巨大な騎士が、鋼鉄の梁に縛り付けられていた。
だが。
「...ダサくね?」
そう、推定俺の愛機となる機体は...端的に言ってダサかった。
「...まあ、同意はするよ」
カーラが溜息を吐く。
怪生物の如き一つ目に、異様に細い腰と穴の開いた、ずんぐりむっくりな胸部、パンタロンを強烈にしたような末広がりにも程がある上になぜか三本もある脚部、いかつい棘が生えた肩に支えられた右側だけ太い腕、やたらと武器だったものが詰め込まれた背負いもの。異形的な格好良さを狙って大外ししたような外見だった。
「胸の穴は...デザインじゃないよな?」
「それは流石に戦闘痕だねえ。けれど、他には傷もなく、ソレ一撃しか残ってないってことは...」
戦場に出て一撃でやられたってことか。哀れな話だ。
「約35mか。...でかいな」
現在主流な機装騎士は18から22mだ。18m級からすると倍近いサイズである。
「ま、6000年も前の主流だからねぇ。そんな骨董品でもこんな変わり種は初めてだが。なにせ3本目の脚は股間前部から生えてるし。...ナニにしか見えないねえ」
少なくとも自分で乗る機体にこんなデザインは施したくはない...と思う。
「恐らくは局地戦...ホバー能力も見込んでの設計。搭載されていたらしき武装数から見ても確実に機動砲撃戦仕様...ってところか。あとで話すが、出力は怪物級だからねえ」
つまるところは単なる脚と言うよりは噴射肢を増やしたと言ったところか。それにしても異形だが。
「ま、一戦で落とされてるあたりどうしようもないが」
それはそう。
「で、どうする?最悪骨格単位まで削り上げて対応するから好き勝手要望を言って...ああいや、先に操縦適正を測っちまった方がいいかね、コニー!」
そういうと機体の腹のあたりから華奢な女性...恐らく彼女がコニーなのだろう...が顔を出した。
「はいボス!コクピットの調整は終わらしといたっすよー!」
はきはきとしたよく響く声だ。少々幼さが残っているような気もするが。
「よ、っと」
今気付いたがハンガー内は重力が低いようだ。コニーが10m近く飛び降りたが、ケガもなければ音もなく。ただふわりと着地したのみだった。
「あなたがこいつの新しいパイロットっすか、凄いっすねー、あたしよりも年下じゃないっすか」
小柄な彼女が俺を見上げながらちょろちょろと周りを動き回る。
「しかも魔力ビンビン。...いやー、ボスがアレを整備しろって言う訳っすよ」
うんうんと頷く。
「...魔力を扱えるのか?」
聞くとてへへと頭を掻いた。先ほどから表情がころころと変わる。恐らくは素直な性格なのだろう。
「ちょっとだけっすけどね。どちらかと言うと”視る”のが昔から得意なんすよ」
「...なるほど、魔眼、か」
魔眼。昔ながらの呼び方をするなら《魔を視る者》。魔力を視覚的にとらえることが出来る特殊な感覚であり、いまだ完全には仕組みが解明されていない超能力でもある。
「等級が低いんで何と言うか、だいたいの”濃さ”くらいしか分かんないっすけどね。それでも魔力がかかわる道具の修理には向いてるんで」
成程、断線している場所とか、魔導回路がショートしている場所なんかが一目で判るのか。そりゃ便利そうだ。
「で、...えーと、男爵様であってます?」
「ああ」
「男爵様はすっごい濃いっす。前にもお貴族様を”視た”ことがあるっすけど、ちょっと比べ物にならないっす」
まあ、天災級魔法を連発できる魔法使いは俺くらいだろうが。いや、広い宇宙にはお礼状もいるんだろうが...。少なくともこのへんでは俺だけ、だろう。
「コニー、無駄話もいいけど仕事をしな」
カーラが少し圧のある笑みをコニーに向けると、びくう!とたちまち飛びあがった。
「はいっす!...すんませんっす、男爵様、ちょっと来てくださいっす」
コニーに導かれるままに機体の腹の方へ...最初にコニーが出てきた部分へと向かう。ちょうどよく低重力なのでふわりふわりと翔びながら。
「よ、っと。ちょっと待ってくださいねー、ぽち、っとな」
装甲の継ぎ目のあたりに設置されているボタンを押すと扉が開き、操縦席が露わになる。
「乗ってくださいっす。仮想訓練装置を動かして操縦適正...運動適正を測るっす」
ぐいぐいと背中を押され乗り込むように促される。おい不敬だぞ。俺じゃなかったら斬られかねんぞおいこら。と、いうか。
「待て、”これ”を動かすのか?」
今まさに押し込まれんとしている機体を指さす。俺こんなのを一時的とは言え動かしたくない...というか動かせる気がしないんだが?
元々遊び程度に数回一般機の仮想訓練装置を動かした程度なのだ。こんな三本足でうまく行くわけがない。
そんな風に文句を言うとコニーの顔に苦笑が浮かぶ。
「そういうと思ったっす。なので一応仮想訓練装置上はこの機体の骨格の系列の”標準機”に近い設定をしたっす」
ぴぽ、とホロウインドウに表示されたのは、少々意匠は古臭いが一般的な形...そのまんま金属鎧を幾らかアレンジした程度のシンプルな機体だった。
「それならいいか...」
抵抗をやめて操縦席に乗り込む。機体サイズがでかいわりに家の仮想訓練装置より狭い。一応球体状になっている空間に、全方位ディスプレイが張り付いていて、電磁浮遊式シートが設置されているだけの、まあ骨董品と言っていい代物である。シートに座りパチンと電源を入れる。すると少々吸い付くような感覚と共にシートに体が固定される。元はベルトなどを使っていたらしいが今は昔。いやこいつも昔の機体だけれども。ともかく今の主流はこうした引力制御式だ。
「このフレーム...というかこの機体、っすかね。Brain Link Kinetic Control System...脳波制御がちょっと特殊なんすよね。何というか、敏感...と言うか」
どういうことだ?疑問満載の表情を察してか苦笑いと共に説明を始める。
「なんでも《人機一体》とかいうシステムを積んでるらしいっすよ。パイロット自身の運動能力を要求するとか。ウチじゃちょっと起動できるヒトがいなかったんでわからないっすけど、パイロットの感覚と機体を高度にリンクさせるとか。触覚とかもあるらしいっすよ」
なんだその妙なシステム。いや、唐突に剣術の修行を始めたのは、B.L.K.C.S.自体が自分の感覚を利用して一部機体を動かすものだから、というものではあるのだが...そこまでとは。
「それから魔導転換炉っすね。コイツ、とんでもない出力を誇るんすが、代わりに起動時に必要な魔力もとんでもないんすよね...」
魔導転換炉。周囲から取り込んだ魔素を空間”そのもの”から取り出したエネルギーにより励起させ魔力に変換する炉であり、条件が揃えば半永久的に動作すことから疑似的な永久機関ともされている。
「どんぐらいだ?」
ただ起動にはそこそこ大きな魔力の入力が必要となる。しかもそれは魔導転換炉の”制御”を行う者の魔力でなくてはならない。御者のいない転換炉は不安定で、直ぐに止まってしまうのだ。
「大体天災級二発分っす」
「それは...凄いな」
二桁以上連発できる俺が言うことではないが、天災級を放てる魔力を持つものなど、銀河中を探し回ったって数えられる程度の数しかいない。コイツが開発された当時はもう少し多かったのかもしれないが...問題は魔力の才能と操縦が上手いかは全く関係がないと言うことだ。両方を持ち合わせている者などそうはいない。そんな奴にお仕着せの高性能機を渡したって活かせないだろう。
「話は聞いてるっすし、さっき見た限りは大丈夫だと思うっすけど、念のため生命状態チェックはしとくっすので、注意しながら動かしてくださいっす。では」
ぴこ、とボタンが押され、がこんと扉が閉まった。
「ええと、コレか」
ぱち、とスイッチを入れるとディスプレイが輝き、灰色の空間が描写される。
『おっけーっす、こっちで仮想訓練装置を起動するので、魔導転換炉を起動してくださいっす』
「了解」
コニーの通信が入り、ディスプレイが暗く、きらきらと星が光る宇宙空間が映し出される。
どうもやはり機器の類は現行機と同じ...いや、もしかしたら同じに”した”のかもしれないが、経験のある配置なのはいい。ええと、炉の起動用のスロットルレバーは、と。
「...これか」
起動用魔力の入力装置を兼ねているのだろう。水晶が組み込まれた少々変わった造形のそれを掴む。ぐ、と力を込めてレバーを引くと、魔力を勢いよく吸い取られていく。
「...おおう、結構なパワーだな。大喰らいは伊達では無いか...!」
ぎゅんぎゅんと薄く燐光を放ちつつも水晶が、機体が魔力をかっ喰らう。そしてコニーの言った通り、天災級の...しかもその中でもかなり上側のもの二発分の魔力量を飲み下し、ようやく転換炉が嘶いた。
『すげえっす!ほんとに起動したっす!』
通信で興奮したコニーの声が届けられる。俺はと言えば脳に流れ込む情報量に戸惑っていた。
「ああ、くそ、なんだこれ」
右手を動かす。俺の腕は動かない。視界の中、仮想の鎧の腕がごごんと動いた。右手を動かす。俺の腕だけが動いた。
「やっべえ気持ち悪い」
『バイタルは安定してるっすよ?』
「違うそうじゃない。言うなれば体が二つある感覚だ。機械の身体が増設されたような。これは...ヤバいな」
操縦難易度とか言ってる場合じゃない。これは気合を入れないとヤバいかもしれない。
「ええと、多分...『機体』は普通に動かして...『操騎士』がスラスターなんかの操作をする...うーむ、酔いそうだな...」
鐙を踏みつつ左右の操縦桿を引く。機体は大きく背を逸らせつつ体を捻る...。
『おお、奇麗な宙返りだねえ!』
通信から興奮したカーラの声が聞こえる。
「ドラムとトロンボーンとピアノを同時に演奏してる気分だ」
『古代世紀にはそんなことができる猫がいたらしいぞ』
んな馬鹿な。
だが、まあ、楽器三つは兎も角こっちはやってやれないことはなさそうだ。
同時に魔法を展開するときの思考の振り方を参考に、完全にこちらと機体の思考を分離、転換炉の制御はほぼ無意識下で動かせそうなので気にしている思考領域を除外。考えてみればこちらの制御もあまり要らないか。腕や脚を固定した状態から操縦桿や鐙に沿って動かすだけで体は動かさないからな。
「こうかっ!」
横回転、八の字、縦回頭、捻り込み、推力偏向。回転蹴り、ミサイルキック、アッパーカット。
「コツと言う程ではないが...少しは掴めた、か?」
『いや、初めて乗った機体でそこまで動けるなら十分化物だと思うぞ』
そんなもんか。
「だが思考を”分ける”事が出来たらこっちのが寧ろ簡単だぞ」
『できなかったから前の持ち主は死んだんじゃないのかい?』
妙な機体特性が八割だと思うけど...ああ、”これ”も変な特性に含まれるのか。なるほど。
『気家具外少年っぽいのは伝わったんで...武器のほう行きましょっか。とりあえず最初はオーソドックスにプラズマソードとレーザーライフルからで。...標的も出すっすよ』
ばりり、と画面にノイズが走り、右手には剣、左手にはライフルが、周囲には味気ない赤色の正八面体が展開される。
「ふむ」
剣...プラズマソードを振ってみる。びゅうん、びゅうんと音が鳴る。さらに言えば軽い。刃が蒼く輝くプラズマで形成されているから...つまりは非実体だからだ。
これはあくまで仮想訓練装置だが、負荷の類はしっかりと反映されている筈。その類がなされていない程バージョンが古い機装騎士は現存していない。
形としては本当に単なる片手直剣。何の変哲も面白味も無いが、それだけに癖が少ないい武器だ。
ライフル…レーザーライフルを構えてみる。ライフルとは言っても片手で打てるように全長が切り詰められている、言わば銃身切り落としタイプ。純粋な光学兵器故に長い砲身を必要としないのである。
つい、と照準を滑らせて浮かぶ正八面体へ向ける。…ライフルに着いた照準器のせいか狙うのにソチラを向く必要は無さそうだ。違和感がすごいけども。
ライフル本体には引き金が無いのでコックピットから引き金を引く。ビッ!と短い音を残してレーザー弾が放たれる。本来光速故に"弾"等と描写出来るはずのないレーザーであるが、武装としての"レーザー"は"光属性"の魔力を媒介させて放つが故に、光速には遙か達しない。数種ある"特殊属性"の中で、唯一人類が才能に縛られること無く純粋に技術のみで操れる魔力。それが本来単なる熱線であるレーザーに破壊力を与えている。
ばりん、と正八面体がレーザー弾に反応して砕け散る。当たり。次はと切替装置を連射に入れて振り向きざまに引き金を引く。…ほとんどハズレ。単発に戻してもやはり命中率は五割程度。流石に射撃の方は一朝一夕じゃどうにもならなそうだ。
腰にライフルを収めると鐙を蹴りつけて推進器を全開に。操縦桿を引き回しつつ体勢を変え、一気に正八面体へと突貫する。ゆわり、と単なる視覚効果でしかないが故の無機質な動きで正八面体が逃げるが、操縦桿と脚の動きで軌道を変え、十拳...剣の間合いに踏み込んだ。
「セアッ」
短く気合を入れて剣を振り抜く。かしゃん、と砕け散る。近くに飛んできたものを繋げた突きで叩き落す。動きを止めた個体に向けてライフルを抜き打ち。今度は当たった。次へと推進機を吹かす。
疑似的な感覚なれど、確かな加速感と振動が伝わる。虚構でも、確かに血液が沸騰するかのような興奮を覚える。
まだだ。もっと行ける。もっと潜れ、さらに深く!
『おみごと』
その時。カーラの声が聞こえ、同時に残っていた正八面体が砕け散った。
「...まだやりたかったんだが」
『ちょっとバイタルの方が不安定になってきたから念のためさ』
ふむ?
『体の調子とか魔力異常と言うよりかは脳の問題だねえ。脳波が強すぎる。薬をキメた阿呆の様で...機械に喰われそうでもあったねえ』
...成程、思い当たる節はあるな。ただヤバそうにも思えなかったのが謎なんだが。
『実際危険性は無しと判断されてたよ。あたしも大丈夫だろうとは思ったんだが、万一お貴族様をおかしくしちゃったら責任取れないからねえ』
『一応こちらで解析はしておきますので』
無機性知が解析してくれるなら大丈夫だろう。
「大丈夫じゃなくても解決策を用意してくれ」
『無茶をおっしゃりますね...気に入りましたか?』
「まだカスタムしてないから判らんが、少なくともシステムは気に入った」
何と言うか、体が増えた感覚は奇妙だが、何となく全能感を感じる気がしたのだ。
ぱちぱちとロックを外し、扉を開ける。
目の前にはにやりと笑ったカーラと、少し心配そうな表情のプラチナム、ワクワクした顔のコニーが立っていた。
「んじゃ仕様を詰めようか」
「刀は付けてくれよ」
因みにプラチナムが教えたのは主に警視流をもとにしたちゃんぽん剣術的な感じです。居合は俄かなので技とかの描写は最低限に。ってか宇宙空間でそのまま使える筈がないので。