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Galaxy Fantasia  作者: N-マイト
第一節 宇宙もまた海ゆえに賊もあり
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11.宇宙海賊は精強なれど

A.C.854季72年。ならず者の賊共らしく、時間にルーズな奴らは。俺達の予測からさらに一年遅れで、漸く動き出した。


「ライメイ宇宙海賊団が宣戦布告をしてきましたッ!」


息せき切って文官の一人が書斎に飛び込んでくる。()()()()()とした屋敷に作り直しているこの屋敷。玄関からこの部屋に辿り着くのはいつもよりほんの少し難しくなっているのだが...っと、阿呆な事を考えている場合ではないな。


「ついにか」


「...はい」


鷹揚に頷くと、プラチナムが返す。

...十一年、この時を目指して備えてきたのだ。


食いつぶして見せるさ。


「主要な者共を集めろ。...作戦会議だ」



─主星”オルレアン”政庁舎─



領内で最も発展している星。それが我らが主星”オルレアン”である。基本は領主は主星...一番最初に開拓した星に居を構えるものだが、ウチは初代が奇特な奴だったせいでオルレアンの”衛星”オーレン”に居を構えたせいで、こうして主星に来るのにもちょっとした宇宙船(シャトル)が必要になる。大概は通信で済むとは言えちょっと面倒ではある。軌道エレベーターでも立てるかとも思ったのだが、今のところ俺はそんなにこっちには来ないし、な...。


とはいえ、この領地の(まつりごと)を行う場があるのはこの星だ。故に俺は腰を上げてこちらへと飛んできたのである。

オルレアンの政庁舎は巨大なビルである。馬鹿...もとい、センスのある貴族だとここでもデザイン性を狙ったりするらしいが...そうではないことは感謝すべきだろうか。それはそれとして複数の星を束ねる分ビルの大きさも尋常でないのだが。ビルと言いつつ、その実態は一辺約1kmの立方体(キューブ)状、ガラス張りの構造物である。


「よーっす」


気の抜けた声を引き連れて会議室に入室する。主要な人物とはいっても二桁後半、十数メートル四方の部屋が埋め尽くされ、微妙に熱気を放っている。


「...エアコン効いてないの?」


「効いてますよ?」


つまりこれは単なる威圧感でそう見えるだけか。...気持ち悪いな。


「なんですかその冷めた目は!?」


俺に向かって叫ぶその青年は現在の庁舎長...この領地における首相に当たる役職に就く人物だ。粛清の際(あのとき)、一番前でガタガタ震えていた男である。始めは俺の事を相当恐れていたが、十年で多少は打ち解けた...と、思う。


「いや、むさいなって」


「それは...まあ、すみません」


言うとどこからか「女だっているんですよ」と言う声がする。...割合男性(むさいほう)が勝ちだろう。具体的には7:3くらい。


「さぁて、前々から伝えてはいたがライメイ宙賊団(ヤツら)がついに宣戦を布告してきやがったわけだ」


ぴり、と微妙に弛緩していた空気が一気に引き締まる。


「要求は?」


聞くと男が立ちあがり、浪々とホロウインドウに記された内容を読み上げる。


「『オーレン家の所有するすべての財及び主星の支配権、並びに養子に優れる男女の捕虜を9万づつ』...だそうです」


ふざけてる、と声が漏れる。ちらりとあたりを見渡せば、その場にいるすべての眼が見える。

...ふむ。いい目だ...と思う。たった十年で集められた者が大半にしては。

たった十年。それで優秀な者を集めるのは並大抵のものではない。だから俺が寄越せと言った時の文言はこれだ。

『”気に入らない奴”。なんでもいいから気に入らない奴をウチで受け入れる』

腐敗と癒着の蔓延する世の中だ、馬鹿で知られている貴族共に連絡を取ればわんさと送られてくる。

清廉な頑固者共が。

軍属、文官に関わらず、元々我が領地には左遷された連中が主に所属していた。文官共は腐敗しきった連中であったのだが、軍属はそうでもなかった。真面目で優秀、賄賂その他を拒絶する、澄んだ水でしか生きられない哀れな魚。それを見て文官でも行けるんじゃないかと思ったんだが、まあ見事に釣れる釣れる。流石に10年程度では文官の方は定員に達する程は集められはしなかったが、軍属は揃えられた。十分だ。

俺は別に腐敗は兎も角癒着は嫌いではないが...ま、金がなくても動くことはかなりのメリットだろ。


「この場に居るのはその大半がこの11年で俺が集めた連中だ。だが採用するときに俺は行ったはずだ。”親父の仇を取る”と。それに同意してここにいる以上。お前らは俺の剣だ。俺の銃だ。...連中ののど元に鉛玉と刃をぶち込むぞ」


「「「「応!!」」」」


この日から数日、連日の様に議論は紛糾した。

三週間後。

俺たちは宇宙に出る。

親父の弔い合戦及び俺の初陣である、宙賊狩りへと、向かうために。



side.ドラン

─ライメイ宇宙海賊団旗艦”サンダーブリッツ”─


ライメイ宇宙海賊団。総艦艇数1,200隻を誇る最大級の宇宙海賊団。その中でもひときわ大きく、異彩を放つのが、宇宙海賊団のキャプテン(リーダー)であるドランの乗る船だ。


高速軌道戦闘艦”サンダーブリッツ”。嘗てとある亡国にて建造された戦艦。見た目は馬上槍(ランス)に羽を生やした様とも、大きく翼を広げた竜とも評される、流麗にして少々奇妙な形。そのサイズに反し機動性が高く、最高速度は類を見ない。通称は”最高速(マスタースピード)”。しかしその過去の威容はどこへやら。海賊らしい無駄にゴテゴテした装飾にまみれ、いっそ下品とすら形容出来る様を晒していた。


ブリッジの中央。人の剥製と骸骨で作られた非常に悪趣味な艦長席。

件のキャプテン、ドランは酒瓶を片手に呵々大笑していた。


「『受けて立つ』ぅ?がっはっは、おいおい、出涸らし艦隊しか持たないガキンチョが受けて立つってよ!!」


周りの宇宙海賊たちも合わせて笑う。

ばんばんと椅子...女性の臀部に当たる部分を叩きながら酒をあおる。びり、と皮が破れて中の詰め物が見えた。


「おっと、壊しちまった。...後で適当な女の皮をはいで変えとけ。...あとついでだ。男数人から髑髏も引っこ抜いておけよ」


へい、と近くに居た宙賊の一人が敬礼し走っていく。()()に保管されている()()から見繕うためだろう。()()担当であるその宙賊は椅子の寸法を大体記憶していた。


まるで今が戦闘の前とは思えないやり取り。それはそうだ。今まで一度も負けず、その勢力を拡大し続けてきたのだ。高々辺境の男爵領。戦力差は五倍以上。それも主力は自分たちが別の領地で滅ぼしたとあれば負けると思う方が無理な話だった。


「中々威勢のいいガキだな、ああいう五月蠅いのは玩具(ペット)にするに限る」


「キャプテンも好きですねえ」


「オスガキを甚振るのが一番好きなのはお前だろうがクルス(Culs)


クルスと呼ばれた、この船でも珍しい女宙賊は嗤う。


「世間知らずの威勢だけのクソガキを泣かすのは楽しいからね。...楽しみだよ」


”宙賊はクズの煮凝りである”。王国...いや、この宇宙での通説だ。

この宙賊達はその通説を裏付ける...いや、それ以上の外道たちであった。


「ま、俺達にはこれがある。奴らの領地がどんだけ搾りかすだろうと大丈夫さ」


既にかった後の事を考えているドランは、手元にある玉の様なモノを愛おしそうに撫でた。




side.アルクス

─オーレン家施設宇宙軍旗艦(仮)”グリーンスクラッパー”─


百人近くの乗組員が右往左往する中、俺は艦長席...貴族の席としては少々以上にみすぼらしい椅子にふんぞり返っていた。

戦術の指標の様なモノは出したが、爆速で教育を終わらせたとは言え結局俺もずぶの素人。細かいことは本職(プロ)に任せるに限る。


「...展開率はどんなもんだ?」


俺は近くを通った女軍人を呼び止める。


「ええと...現在84%、と言ったところでしょうか。敵側はまだ60%を超えたところですね。...正直、ジャンク屋の機体と言うことで舐めてたところはありますが、思ったよりは身軽ですね」


ふむ、このままいけばこちらが先制攻撃を出来ると言ったところか。ジャンク屋の作った戦闘艦は足が速いものが多かった。その代わりに防御力はお察しだが...この作戦が成功するなら問題はない。

俺の乗る旗艦(仮)はとりあえず手元にあるもので一番足が遅く、堅い艦だ。...俺は速い方がよかったのだが、強制的に放り込まれたのである。


ブリッジの中央部に目を向ける。巨大なホロウインドウで構成された(スフィア)が、レーダーに映る戦場の状況を映し出していた。


「両軍戦列陣か。予想通りだな」


宇宙戦におけるもっとも基本な陣形、戦列陣。格好良く行ってはいるが要するに横並びだ。宙賊共は練度が低いであろうことは解りきっていたが、ふむ。


「流石に見栄えが違う」


「戦力は五倍以上ですからね...」


壁の厚さが五倍と思うと辟易する。....ん?


「微妙に少なくね?」


「え?...あッ!」


俺の言葉にその場にいた船員(クルー)達が一斉に振り向き、何かに気づいた女軍人が短く叫ぶ。

その瞬間。


「ーーーっ!!敵艦直上!数100ッ!?」


崩す気かッ!


「たいおーーー」


「作戦開始だ!...俺も出る!」


な、と軍人たちの口が開く。黙っていることをいいことに俺はそれを了承とし格納庫に走...ろうとして、見覚えのある白い腕に捕まった。


「プラチナム!」


戦闘機能も充実している俺のメイドは、険しい顔をして立っていた。


「ダメです。ここにいてください」


心配気な声を上げ、まるで懇願するように言うプラチナムに、俺は首を振る。


「ダメだ。これは俺の我儘も多分に含んでいる戦いだ。俺がこの手でやらなければ示しがつかんし...俺が納得しない」


見つめあう。時間にして数秒、先に折れたのはプラチナムだった。


「...わかりました。私は、無機性知(ロゴシティ)は。結局最後には主様(マスター)には逆らえません。...ですが。プラチナム(わたし)()()()()()言わせていただきます。...死んだら、許しませんよ」


に、と笑うことで答えとする。

手を離された瞬間振り返り、猛ダッシュで俺は格納庫へと走ったのだった。

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