Extra-1.側近たちの日記(ダイアリー)
Side.セバスチャン
《”家”に仕える者》
私はオーレン家の執事であるセバスチャンでございます。セバスチャンはこの国の執事の共通名でございますが...私の元の名など面白くもないので良いでしょう。
私は元々王国の暗部...諜報部の人間でした。後ろ暗い仕事にも多く手を染めておりましたが...ひょんなことからアルクス様の曽祖父様...ガンツ・ヴァン・オーレン様に拾われてオーレン家につかえることとなりました。
彼は素晴らしき人でした。当時準男爵…世襲出来る爵位としてはギリギリだったオーレン家を男爵家に押し上げたのです。
この王国では滅多に爵位が上昇することは無いのです。それだけの功績を積むことが難しいのみならず、単純に領地を用意するのが難しいですから。
ガンツ様は並外れた…武勲をお立てになられました。隣国との戦争で一騎当千とも言われる程のご活躍をなされたのです。領民にも慕われ、良き家臣にも恵まれ…あの方の治世は実に心地の良いものでした。
しかしその息子の…レジィ様は良き貴族ではありませんでした。多少色に精を出すのはガンツ様もそうではあったので文句は言えませんが…ええ。オブラートに包んでも仕方が無いですね。本音を言えば彼は人間的に優れた方ではありませんでした。
酒と女とギャンブルに溺れ、奸臣を重用し、領民からはあらゆる全てを搾り取る暴君にして暗君。あの方がこの領地を傾けたと言って過言ではありません。元諜報部として裏で様々な工作はしましたが…所詮は元。私1人出来ることも少なく、腐敗は止められませんでした。
早々にトーマス様に領地を押し付け首都星の別宅に逃げたのは…正直腹立たしくもありましたが、ある種幸運だったとも言えましょう。貴族として与えられる年金を未だに享受しているのは如何なものかと思いますが。
トーマス様は…ガンツ様の武勇を受け継いだ優しき青年でありました。
人を信じすぎるきらいはありましたが、その実直さで良き奥方を射止め、"良き貴族"たらんとしておりました。私がフォローし、アルクス様を導けば、この領地はまた栄光に返り咲ける…。
その筈だったのです。
トーマス様達がお亡くなりになられた時、私は目の前が真っ暗になるのを感じました。
領地の主力軍艦は墜とされ、アルクス様が愛した、アルクス様を愛した両親が死に、残されたのは領地経営のイロハも人脈もない孤独な子供ただ1人。…いえ、会う度に金をせびる祖父はおりますが…トーマス様との共通見解として「会わせない方が良い」との結論に至っておりますのでノーカンで御座います。
こうなっては腐ってしまっても仕方がない。と覚悟致しました。トーマス様が両親の人間性がアレなあの環境で歪まなかったのはある種奇跡。今回は"愛してくれた両親の死"というある意味では更に過酷な環境。こうなればどうなるかは分かりません。本人の資質もあり、過酷な教育を強いてしまった負い目もあるのでどうなろうと全力で支える所存でありましたが…
アルクス様は、私の想像を軽く超えたお方でした。
「屑共は全員処刑だ」
その言葉を聞いた時、私は耳を疑いました。伺えば、殺してしまった方が奸臣共を後腐れなく排除できるとの事。
…確かに、奸臣の排除は必要なことではあります。ですがもっと良い方法は無いかと問いました。するとアルクス様は自嘲する様に笑い、
「プラチナムにも言われた。ま、もっといい方法があることくらい分かってるさ。…だが、俺は許せんのさ。親父の優しさを食い物にし、死んでもお悔やみの一言で済ませる連中が」
確かに、当主がお亡くなりになってもただ連絡のみで済ませようとしている連中です。居るだけ邪魔ですし排除しようとすれば噛み付いて来るのは明々白々。封じれる方法もありますが殺してしまうことには…。
しかし、と私は思いました。そうあれば貴方にかかる負担は増大する。連中とて馬鹿では…いえ馬鹿ですが、自己保身についてはそれなりです。処刑するとあらばできるだけ素早く行う必要があります。そうなれば人材において大きな穴が空くのは必定。そうなればアルクス様にかかる負担は大きくなります。短期的には無機性知の方々に任せてしまうのも悪くはないでしょう。が、無機性知による統治を王国は認めません。いずれ全ての人員を揃え、領地を統治しなくてはなりません。
が、その負担を…プラチナムに止められてすら、アルクス様は全てを受け入れました。
いま、アルクス様はご多忙を極めております。起きては直ぐに学習ポッドに浸かり、出ては刀の修練に励み、食事中には人事計画を進め、上がる情報を全て自らの目を通し、夜遅くまで魔法の修練をする。
遊び呆けるのが仕事と言わんばかりの貴族子女の中に置いてあの方は異端…いえ、異常と言って差し支えはありません。
臣下を自らの手で大量に処刑したとあり、苛烈な方と恐れられている所はありますが、同時に優しき方でもあります。
それは先ず人事に現れており、アルクス様は人柄を重視して人事を行われました。能力を見るのは当然ですが"やる気があれば能力は後から伸びる"との信念から良き人物を選ぶことを徹底し、全てを自ら行っております。
またそれは領民に対しての政策にも。
"安全第一"と言う、遙か古代世紀にて採用されていたと言う標語を用いることを決定いたしました。
歴史書で見かけたことは確かにありますが、効率的とは正直思えませんでした、が...もしかしたら、とも思います。...何となく。私はそう思うのです。アルクス様は何かが違う。ガンツ様よりも、もしかしたら、と。
人形に必要以上に依存しているのは少々気になりますが...。言え。言うのはよしましょう。まだ母離れもできないうちに喪ってしまったのです。母の代わりを求めるのも自然な事でしょう。
Side.プラチナム
《”主”を仰ぎ見る機械》
私の主様は勤勉であられます。その一日は一分一秒まで調整され、只管に効率化されております。...そのスケジュールを組んだのは、白状すれば私です。主様...アルクス様の求めるままに、ヒトであることを考慮しないスケジュールを。アルクス様はそれでも文句を言いません。耐えられないと泣き言を言いません。ある種拷問の様な...非人道的な行動指標の中に在って、難なくそれをこなして見せます。
機械のこの身にあって、彼の精神は恐ろしく感じる程に強く、彼の能力は高くあらせられます。無理をしているのかと始めは考えましたが...そうではありませんでした。
本当に何とも思っていない。全く顔色一つ変えず、全てのプログラムをこなして見せる。こちらの想定以上の能力成長を見せつける。
...戦慄せざるを得ませんでした。もはや人間ではないのでは?と失礼ながら考えてしまうほどに。...ああ、たまに遊ばせろと要求されるときだけは人間で、まだ100にも満たぬ子どもだと実感できますが。
現代の子供にあるまじき忍耐力、人間の限界値を超えている体力。スポンジ...いいえ、給水ポリマーかというほどの吸収力。...誠実すぎる程、もはや鈍感クラスの性欲。どれをとってもこの時代の人間にそぐわない...機械であれば時代錯誤技術品だと思ってしまうでしょう。
...天才。もはやその言葉を疑うべくもありません。人の世の中にあってその環を超える特異点。それは人類史に名を刻み、技術を、歴史を築き上げてきた偉人達の様に。
比類なき才能、二つとなき成長力。ともすれば怪物とも評されるべき能力。従者としての贔屓目を抜きにしてすら確信できます。
次に”世界”を変えるのはこの方だ、と。
”農業"、”文明”、”文字”、”金属”、”蒸気機関”、”コンピュータ”、”原子力”、”宇宙技術”、”魔法”、”テラフォーミング”、”宇宙国家”...古代世紀より人類は、数多の偉人達はその特異点的能力を以て世界を変え、時代を進めてきました。それは無機性知たる我々では起こり得ない事です。機械の進化は日進月歩。人間のそれよりは速いと言ってしまえるでしょうが、その進歩は論理に裏付けされたもの。一段一段階段を上る様に。
けれど天才はそうではない。それは時代に見合わない能力を持つ者。機械を以てすら困惑せしめる異常存在。仮想演算世界では何百年、何千年とかかるはずの進歩が唐突に行われる。まるで...古い表現だが、天から降って湧いたかの様に現れる。
それは無機性知が持ちえない、人類種が機械より優れていると機械が結論付ける理由の一つ。故にこそ機械は興味を持っているのです。研究対象にしたいと渇望しているのです。
それが私の目の前にいる。それは非常に歓喜すべきことです。”進化”を目指す無機性知としても、主様に仕える従者としても。もし私に心があれば全力で同胞達にドヤ顔で自慢して回りたいくらい。ええ、それはもう役得の一言です。この場所は。
しかし、私は人形である以上は。
いつかは離れねばなりません。
この国の...いいえ。人類種は無機性知を嫌うものです。彼らの多くは”未知”を嫌う。己で制御できないものに我慢がならない。それを含めても”私達”は人類種を支えたいと願っていますが...故に”傍に居ない”ことが最適解。言い方は悪いですが”暗躍する”べきものが我々。性玩具としてのガイノイドならばいざ知らず、従者としては受け入れられないでしょう。
アルクス様とて、今でこそ私を重用してくださいますが、時が立てば私の存在が煩わしくなるでしょう。
その時は彼の邪魔にならぬようにしたい。当然廃棄されることに否やはありません。
しかし、私には。
それが少し──────。
寂しいことだと、思うのです。
Side.クリューソ・ヒステリア
《”教え子”を見守る者》
私の教え子は天才だと思う。
...いや、教え子と言っていいのか怪しいけども。
だって、教えたことは翌日くらいにはモノにしてるし。一応私だって百年以上、二百年近くは研鑽を積んだ魔女だ。この国でもトップテンくらいには入る程度には魔法は上手い...ハズ。比べるときだと緊張と人見知りで実力を出せないのでわからないとしか。
まあ、とにかく技術はそれなり以上に頭に入っている。学生時代は友達もいなかったので只管論文を読んでいたくらいだ。匿名でしたので特に大々的に掲載とかはされなかったが私自身も幾らか論文は出している。何が言いたいのかと言えば、それだけ高度な知識があると言うことだ。
だが。
「どうしよう」
あの子に教えられることが目減りしていることに愕然としていた。一応私はアルクス様に秘書(?)として契約を紡いでくれたので、教えなくなったからと言ってすぐには放り出されないだろうが...”教師”としての私が彼に求められているのもまた事実。であれば出来るだけ大くの知識を叩き込んでやろう、と息巻いていたのだが。
「まさか、もうここまで...」
私の目の前にはホロウインドウ。そこに表示されているのは”戦術魔法学概論”...戦闘魔法科の大学院生向けの教科書である。
貴族であれば高等学園まで通えば済む。そも魔法科なんて一部しか入らない。それなのに大学、大学院と進む者は少ない。両方合わせると下手すれば300になるまで出れないし。逆に言えばそこまでの人生を費やす(私も含まれるのは遺憾だが)変態の巣窟で磨き上げられてきた知識群である。それを、100にも満たない子供に教えている。その事実に戦慄せざるを得なかった。
いや、最初から異常だったのだ。基本六属は当然の様に。それを扱えるだけで上級魔法を使えると目される複合属性15...爆発、空間、金属、核力、負荷、離散、氷結、分解、変性、自然、加速、腐食、溶解、電導、崩壊の内、毒系統の五つを除いた10属性は既に使えていた。流石にさらにそれを混合した魔法までは放てなかったが...まあ結局いまではできてるしなぁ。と言う感じ。どういう訳かけっこう正確に私の魔力も感じ取れていたみたいだし。魔眼持ちかと思ったんだけど、どうもそうではないらしかった。それは謎としか言いようがない。
今では反復詠唱も複数術式同時詠唱も当然の様に出来る。正直実践で私が勝るのはせいぜい演算速度だけ。まあ唐突に魔法陣を”投げ”出した時にはひっくり返った。いや、魔法陣そのものを弄るもんだからもしかしてとは思ったんだけども。そんなのは初めて見た。
いやはや、天才とは彼の事を言うのだろう。
私も少しくらいは才能はある。と言うか才能しかないから時代遅れと笑われつつもその道に進み続けるのがヒステリア家だ。あの家でも私を上回る腕は長女と次女の二人だけだった。
だから余計に実感してしまう。この子の才能を。
嫉妬がない、訳ではない。同じ道を歩む者として嫉妬は当然だろう。才能、自分の努力では覆せない力を持った相手が、さらに自分を上回る努力をしている。環境に、才能に、努力に嫉妬するのは当然だ。しかしそれでも私は思う。
この子はどこまで育つのか。何処まで育てられるのか。
自分が最強になるだけが道ではない。最強を育むのだって道なんだから。
属性名はわりとマジで思いつかなかったのが多いので許しを請うしかないですね。
幾つかの作品の属性を参考にしてます




