生き延びた少女
感じるのは、耳が痛いほどの沈黙。
それに熱。
戦闘でこの付近の温度が上がっているのだろう。
冷たい空気が、他のエリアから流れ込んでくる。
(あれ、この感覚は、確か前にも)
既視感を覚えながら、目を開く。
そこにはもう、黒き鱗も、巨大な爪もなかった。
──代わりに、細く、しなやかな腕。
──手には、血塗れの剣。
眼前には、倒れた火竜の亡骸。
(わたし)
手を見下ろす。
そして、気付いた。
寄生していた。
今度は、火竜を討った、あの銀髪の少女に。
小柄な冒険者の肉体に、リリィの意識は滑り込んでいたのだ。
「……あ」
喉から漏れる声すら、自分のものではない。
小さく、澄んだ少女の声だった。
(わたしは、また生き延びたんだ)
傷だらけの手で、剣を握り直す。
それは、確かな「生」だった。
けれど、この新しい生は、脆く儚いものだ。
火竜から人間へ。
寄生姫、リリィ。
彼女は、再び生きるために、新たな戦いを始めなければならなかった。
(今度こそ、静かに生きたい)
切なる願いを胸に、リリィはそっと剣の血をぬぐい鞘に収めた。
だがその背には、気付かぬうちに、小さな、黒き鱗の模様が浮かび上がっている。
寄生の痕跡は、決して消えることはないのだった。