8 そのゴーストはわからない
「こんな風にあとを付けなくてもよくない?」
「そうね。けれど、見ておきたいのよ。ベラスケットの本気を」
「まあ、僕も少し気になるけど、直接頼めばよかったのに」
今、僕とアレアはベラスケットの後を追っていた。町の中から町の外へ。建物の影に隠れて追っていく。透明化を使えばわざわざこそこそしなくてもいいけれど、なんか楽しいから実体化したまま十字架を背おったベラスケットの背中を追う。
「にしても、本当にベラスケット以外の除霊師は手伝わないんだね」
僕は人の気配のない周囲を眺める。意図的に避けたと思えるぐらいに人がいない。別にベラスケットが嫌われているからではないと思う。多分。
昼間の除霊師の見損なったと言いたげな眼差しを思い出してちょっと悩んだ。でも、嫌われてはないとは思った。
「聖銀七座と悪霊の戦いに助力なんて考えないのが普通よ。レベルが違うのだからいるだけ邪魔よ」
「そんなに差があるの?」
「除霊師の中に一般人が紛れている状態で戦うようなものよ。なにもできない守らなくてはならない障害物がそこにあるだけ。ベラスケットは決して口にはしないでしょうけれど、事実そんなものよ」
だそうだ。確かにそこそこできそうなベラスケットに、弱い除霊師が付いていっても邪魔。よかった。僕は強いからベラスケットを追っていっても邪魔にならない。
「アレアは邪魔じゃない?」
「遠回しに私が弱いみたいな言い回しね」
「アレアはそこそこ弱いよね」
「私自身そこまで強さを求めているわけではないけれど、私相手にそれを言えるのはなかなかよ。ベラスケットといい、私といい、あなたは相手の実力を見誤るのが得意のようね」
「そうかなぁ。自分基準で正確だと思うけど」
ちなみに自分基準で強いと思う人には今のところ会ったことがない。そこそこできるなと思ったゴーストとは会ったことがあるけれど、それ以上はゴーストでも人でも見たことがない。
引きこもってた弊害かな。
「ほら、そんなことより始まるわよ」
「ん?」
言われて僕もアレアが見ていたほうを向いた。
あー。いる。悪霊だね。でも、僕が出会ってきた中では小柄のほうだし、そこまで成長していないかな。
ベラスケットと向き合っていたのは一軒家と同じぐらいの身長をした悪霊。確かに成長してるけど、このレベルならベラスケットでもアレアでも余裕で勝てる。なんなら、そこら辺の除霊師を集めても勝てるぐらいだ。
「あの霊力。ただ者じゃないわ。二桁……いえ、三桁クラスの悪霊と同等ね」
「ん? 三桁?」
「ゴーストや悪霊は強さを年齢で区分するのよ。二桁の悪霊はそこら辺の除霊師が束になってギリギリのレベル。三桁は一年に一度現れるかどうかで聖銀七座以外太刀打ちできないレベルね」
たった三桁で聖銀七座でしか戦えないのか。僕は悪霊じゃないけど四桁なんだけど。
一応僕への評価も知りたくてアレアに訊いてみる。
「ちなみに四桁は?」
「いるはずないでしょ? 悪霊は目立つからすぐに祓われるし、その前段階のゴーストのほうは千年も自我を保つことができずに悪霊となる。当然よね。一生寝ることができず暇をもて余すことしかできない。そんな中で正気なんて保てるとはとても思えないわ」
「ふーん。でも、もしいたら?」
「この世の終わりね」
「そうなんだ。残念だね」
ここに二千年ゴーストとして生き続けている僕がいる。どうやら、世界の終焉も近いようだ。
「それよりも始まるわよ。悪霊とベラスケットの戦いが」
そう言いながら、アレアは紫色の巻き髪を揺らし、ベラスケットの戦いを見守った。