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10 そのゴーストは二千歳


「ふーん。やっぱりそこそこ強いね。ベラスケット」


 僕はベラスケットと悪霊の戦いを物陰からぼんやりと眺めていた。


 多分ベラスケットに悪霊の透明化したゴーストハンドは見えていない。ある程度霊力に親和性がある人だったり、ゴーストとかならまだ見えるかもだけれど、ベラスケットにはそういう才能はないようだ。

 またベラスケットが見えないはずのゴーストハンドを回避する。うん。無駄の少ない動きだ。


「当然でしょう。ベラスケットは霊視はできないけれど、その分技術で補えるのよ。見ていれば格の違いがわかったでしょう?」


「まあ、普通の除霊師とはやっぱり違う」


 今ベラスケットは、素手で悪霊の四本腕とゴーストハンドを捌いている。手数の差を技術で補っているのもだし、見えないゴーストハンドへの対応もできている。常人じゃないのは間違いない。


 でもね。


「あのままだと負けるよ」


「……そうね」


 戦えてはいる。勝つために防御に魔法は使わず、攻撃のベラスケットウォーターだけに集中している。今できる最善だと思わなくもない。


「それでも攻撃力が足りない」


「その通りね。せめて霊核を狙えれば違うのでしょうけど」


「あの攻撃を躱しながら小さいリンゴぐらいの大きさの霊核を探して撃ち抜くのは至難だよ」


 どこにあるかも不確かな霊核を分厚い体を貫通させて破壊する。ベラスケットのレベルならできるとは思うけれど、あくまで怪我をしてなくて距離が保てている前提でだ。今のベラスケットはその条件をどちらも満たしていない。


 青く輝くベラスケットウォーターが悪霊の表面を撃ち、代わりに悪霊の四つの手の一つがベラスケットの頬を掠める。痛み分けに見えるが、血を流している分ベラスケットのほうがマイナス。


 もう少し見ていたかったけど仕方ないね。


「じゃあ、行ってくるね」


「ちょっと待ちなさい。まさか助けに行くつもり? やめておきなさい。あの悪霊に敵うわけがないでしょ」


 アレアが僕の手を上手に掴んで引き留めた。思っていたよりも力が入っている。


 なんでそんなに心配してるんだろう? あー。そうか。


「ベラスケットウォーターを飲んで絶賛不調だけど、あの程度なら大丈夫」


「ふざけている場面ではないのよ。相手はおそらく百歳を越える悪霊よ。ベラスケットが手を焼く相手。いくらゴーストハンドが使えるぐらいの実力のあなたでも、相手にならないわ」


「えー」


「あなたが私の目的のために悪霊へ向かっていこうとしているのは理解できるけれど、それであなたが消滅したら意味がないのよ」


「ほー」


「聞いているの?」


 これまで冷たかったアレアが心配してくれてる。なんだかんだ文句とか言ってくるけれど、本心では優しいところがあったみたいだ。うんうん。じゃあ、少しだけ意見を聞いておこう。


「じゃあどうするの?」


「私がベラスケットをサポートしてみるわ」


「うーん。無理がありそう。アレアって魔法使いだよね。邪魔になるよ」


 魔法使いと除霊師は似ているようでかなり違う。魔法は生き物への攻撃で、除霊師は死者への攻撃。そもそもの目的が違うから、魔法使いだとゴーストはほとんど倒せない。まあ、一応アレアはそこら辺の知識はかじっているようではあるが、ベラスケットの力にはなれない。悪霊には通用しない。


 それなら仕方がない。あとできることは一つ。というよりも、一番手っ取り早い方法だ。


「だから行ってくるね」


「ちょっと、話を……」


 またしても僕を引き留めようとアレアが手を伸ばしてきた。けれど、今回はうまく手から逃れる。でも、それだけだとアレアが心配して強引に戦いに混ざってきそうな雰囲気はあった。


 それなら安心させておこう。


「大丈夫だよ。だって……」


 僕は振り返る。その先に唇を結んでいたアレアはやはり不安そうな顔をしていた。


 ありがとう。無駄な心配だよ。簡単な話だ。相手が百歳を越える悪霊の力を持ってる? うん。大変だ。でもね……


「僕は二千歳を越える地縛霊だよ」


 アレアが鋭い目を丸くなった。初めて見せるその表情に僕の悪戯な部分が刺激されたけれど、そういう空気じゃなかったから耐える。


「嘘……じゃないのよね?」


「嘘をついているように見えた?」


「いえ……そうね。もう少し早く気づくべきだったわ」


 そこで、アレアは空を切った右手を別の形に変える。そして、そのままアレアは僕の胸元を指差した。


「ゴーストなんだから二度は死なないでしょう? さっさと悪霊を倒して私に有能なところを見せてみなさい」


「はい。お嬢様ー」


 うん。なんて優しい応援なんだ。頑張ろー。


 そして、僕は激しいように見える戦闘の渦中へと、スキップしながら向かっていた。


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