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出発信仰!  作者: もちもち物質
第三章:神は世界を救う
189/209

最後の課題*7

「は?魔物?居ねえが」

「わーおよかったぁー平和だったぁー」

 ということで慌ててポルタナへ戻った澪とナビスであったが、魔物は出ていなかった。よかった。シベちんに『何言ってんだこいつら』というような目で見られつつ、大いに安堵する。

「ああよかった、安心しました。ありがとうございます、シベッド」

「私達に安心をありがとうシベちん」

 この、只々呆れたような目で澪達を見てくるシベちんには、妙に安心感がある。『平和!』っていうかんじなのである。シベちんにはまるで意味が分からないらしく、眉間に皺を寄せていたが。

「しかしミオ様。一応、点検は必要なのではないかと思います」

「だよねえ。私もそんな気がする」

 さて、そんなシベちんはほっといて、澪とナビスは早速話を進めていく。これにより余計にシベちんの眉間の皺が深くなったがそれは気にしないものとする。

「ポルタナでは、かつて鉱山の中に突然魔物が湧きだしたという事例がございますので……何かがあるような気はするのです」

「分かる分かる。やっぱね、あの岩の割れ目のデカい版とかね、あるかもしれないし。一応見てこっかぁ」

「では早速参りましょう!ではシベッド、また!」

「じゃあねシベちん!ありがとね!」

 ……そうして澪とナビスは、『何の話だよ……』とすっかり置いてけぼりになっていたシベちんを更に置いてけぼりにして、ポルタナの海の祭壇へと向かうのだった。




 ざざん、ざざん、と波が鳴る。太陽の光に波が煌めき、ちらちらと光る水面と空の境が溶け合って、視界一面に青い世界が広がっている。

 初夏のポルタナの海は、今日も穏やかに美しい。澪とナビスは改めてそれを確認しつつ、海風に吹かれて海辺を歩く。少しばかり暑めの気温に、強めの海風がなんとも心地よかった。


 海辺の祭壇は、今日も穏やかな静謐さに包まれていた。

 洞窟の中、反射して入ってきた太陽の光に照らされて、白亜の石材でできた祭壇がほんのりと明るく見える。

「異常はありませんね」

「ねー。……よく考えたらこの洞窟の中、海水が聖水になってるようなもんだし、魔物が出ててもすぐ消えそうな気はする」

 ここは、ナビスや、その前にはアンケリーナもが長らく祈りを捧げ続けた祭壇だ。しみついた祈りが海に溶け出して魔除けになっているようであったし、こんなところに黒い靄が出そうにはない。

「ううん……しかし、ミオ様はここにいらっしゃったんですものねえ」

「ねー。なんでだろ。やっぱ私は黒い靄とはなんか違う仕組みでここに来たのかなあ」

 そういうもんかあ、と、澪はなんとなく釈然としないような気持ちで祭壇を見回す。だが、特に何がある訳でもなく、ただ美しく海面に煌めく光と揺らめく水、そして洞窟内に反響する波の音と、微かな風の音があるくらいで……。

 そこで澪は、おや、と思う。

 風の音が聞こえるのだ。それも……恐らく、外から、ではなくて、祭壇の、下から。


「この祭壇の石の下って、もしかして空洞?」

「へ?ああ、はい。空洞、というか……ええと」

 澪が尋ねると、よいしょ、とナビスは屈んで、祭壇の机めいた部分の石板を退かす。澪は『あっ、それ外れるんだ』と新発見したような気持ちになりつつ見守り……。

 ……小さな白磁の壺と、対面した。

「この中に、お母様の骨を入れてあるのです。ここは聖女にとって墓でもあるのですよ」

 ナビスの言葉を聞いて、澪はなんだか、神秘的なものを見たような、見てはいけないものを見たような、そんな気分になる。友達のお母さんのお墓の中を見る機会って、普通、無いのではないだろうか。こんなもの、澪に見せてしまっていいのだろうか。

 ……まあ、見せてもいいと思ったから、ナビスは見せてくれたんだろうなあ、と思って、澪は改めて、墓の中を覗く。暗くてよく分からないが、まあ、確かに空洞になっているようだ。

「それにしても、よくお分かりでしたね」

「あ、うん。なんか音が聞こえたから」

 そして澪がそう言うと。

「……音!?」

 ナビスは、ぴゃっ、と驚いて、それからたっぷり一呼吸の後、そろっ、と、お墓の蓋を戻した。

「……あ、いや、私の世界の音じゃなくって。なんか、風の音っていうか、下に空洞ありまーす、ってかんじの音……?」

「あ、ああ、そう、なのですか……なら、まあ、うん……」

 澪が説明すると、ナビスはまた、そろっ、とお墓の蓋を退けてくれた。……澪が、澪の世界に帰ってしまうことを危惧したらしい。大丈夫だよ、すぐに帰っちゃうようなことしないよ、と澪は思うのだが、まあ、ナビスの気持ちも分からないでもない。

「ええと、空洞がありそうな音、というと……確かに聞こえますね」

「ね?でしょ?」

 ナビスは、墓の中に半分ほど頭を突っ込んで、そして頷く。澪も同じように半分くらい突っ込んで、そこで確かに、ぴゅいい、と細く高く、風の音を聞いた。ついでに、微かな風が澪とナビスの顔に当たり、髪がふわり、と揺れる。

「……潮の満ち引きとかで、風が起きるような仕組みになってんのかな」

「ええと、そうなるとこのお墓はどこかに繋がっていることになりませんか……?」

 まあ、そういうことになるだろうか。だが、海のどこかに繋がっているにしては、空洞の中の空気は乾いている。苔の類が生えているでもないので、余程広い空間が墓の先に繋がっている、ということになるだろうか。

「ううん、先が見えませんね……えい」

 ナビスが魔除けの光の球をぽやん、と浮かべると、墓の中がほやりと明るくなる。

 ……そして。

「……穴が、続いてるねえ」

 灯りが届かないくらいにずっと、墓の奥に洞窟が続いているのが見えた。




 澪とナビスは一旦、戻った。そして、丁度海辺で漁の準備をしていた丁度いいシベちんを発見したので、『私達、ちょっと海辺の祭壇の下に続いてた謎の空間に入ってくるから!』『一日経っても戻らなかった場合には、伝心石通信をお願いします!』と伝えて、それから再び、海辺の祭壇へと向かう。

「じゃあ……えーと、お邪魔しまーす……え、いいの?これ、入っちゃっていいの?」

「はい。どうぞ。あの、狭いところで恐縮ですが……」

 そして洞窟の中へ入ってみるのだが、まあ、入り口がお墓であるので、澪としてはなんとなくちょっと気まずい。『私、ナビスと一緒のお墓に入っちゃったよ。物理的な意味で……』などと思いつつ、澪は一応、ナビスの母の遺骨が入っているという白磁の壺に、ぺこん、と頭を下げていくことにした。


 洞窟の奥へ進む前に、一応、澪が聖銀のラッパを吹いておいた。ぱーっ、と響くラッパの音は、美しくも光を放って広がっていき、そうして洞窟の先の方まで明るく照らしてくれると同時に、もし魔物が居たとしたら祓っておいてくれるというわけである。

「……ミオ様、魔除けの術がお上手になられたのでは?」

「え、そういうのあるの?まあなってたとしたら多分それ、ナビスのおかげだと思うなあ」

 どうやら澪には成長が見られるらしいので、ちょっと嬉しい。そんな気分で、澪はナビスを先導する形で進んでいく。

「これ、方向としてはどっちに進んでるのかな」

「ええと……今のところ、然程曲がっていませんから、陸の方に向かって下っていることになる、でしょうか」

 成程。つまり、ポルタナの村の方へと続いている洞窟であるらしい。ということは、いずれ、ポルタナの地下に到達するのだろうか。

「……共同墓地とかに繋がってたりする?」

「可能性が無いとは言えませんが、その場合、何のためにこんな造りになっているのかが分かりませんね……」

 墓だけに、墓に繋がっていたりするのかな、とも思ったのだが、まあ、それは意味が分からない。色々と。

 まあ、意味と言ってしまうと、そもそもこんな洞窟がある時点で大分、意味は分からないのだが……。




「……結構長いね、これ」

「そう、ですねえ……」

 さて。

 そうして澪とナビスは大分、洞窟を進んだ。道は半ばから下り坂から緩やかな上り坂に変わっている。だが、結構な距離を進んでも、まだ先に辿り着かない。

「もうポルタナの村は過ぎたくらいじゃない?」

「ええ。教会のあたりも過ぎたのではないかと……」

 ポルタナの村を縦断するような形で、この洞窟は延びているようだ。つまり、この先は……ポルタナ鉱山、ということになるだろうか。

「えーと……ポルタナ鉱山って、地下4階の下もあったよね、確か」

「はい。地下5階まであったと聞いております。そして、地下4階より下は長らく封印されていました」

 そう。ポルタナ鉱山には、まだ、未知の地下5階がある。鉄が採れる地下1階。金と宝石が採れる地下2階。聖銀と夜光石が採れる地下3階。オリハルコンと伝心石が採れる地下4階……。その先に続く、最下層があるのだ。

「……もしかするとさー、ポルタナ鉱山の魔物って、そこから出てるのかな」

「可能性は、高いかと。昨日の洞窟のように、岩の割れ目のようなものがあって、その先がミオ様の世界と繋がっている、なんてことも……」

 有り得る。

 そう。ポルタナ鉱山は、過去三度に亘って魔物の増殖を迎えている。

 1回目は、ナビスの母アンケリーナが地下4階と5階を封印せざるを得なかった時。

 2回目は、地下3階およびそこで採れる聖銀、そしてそこで働いていた鉱夫達と、聖女アンケリーナの命を失うことになった時。

 そして3回目は、澪が来る直前だ。

 ……それらの大増殖は、やはり、前回大蛇片結び洞窟で見たものと同じように起きているのではないだろうか。魔物が、魔物の素……澪の世界から来ていそうなかんじのある、あの謎の黒い靄。あれを呼んで、そうして魔物が増えている。そういう風に、思われる。

「まあ、ポルタナ鉱山は年季入ってそうだしさあ、調査するには丁度いいかもね」

 澪は、やや緊張した面持ちのナビスにそう言って笑いかける。

「魔物退治。ちゃちゃっとやっちゃお?」

「……はい」

 そうしてナビスもうなずいたところで、ようやく、洞窟の先の空間が広がり始める。


 そこには案の定、放置されて錆びたつるはしや、壊れたランタンが置き去りにされている。

 そう。ここが、ポルタナ鉱山地下5階。長きに亘って封印され続けていたのであろう、ポルタナ鉱山の最深部にして……聖女アンケリーナでさえも討伐しきれなかった魔物が住み着いているのであろう、最後のダンジョンである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 地下5階から100階くらいあったらどうしようとどきどきしますね!
[一言] 裏ダンジョンだ!
[一言]  シークレットダンジョン!!! ∩(´∀`∩)
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