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出発信仰!  作者: もちもち物質
第二章:アイドルとは神である
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手段と目的*1

 ナビスの言葉を聞いて、澪は瞬時に『あっこれやっちゃったやつだ!』と悟る。

「え、あ、ナビス、もしかしてさっき、起きてた……?」

「ええと……はい。途中から、だと思いますが……」

 どうやら、先程の澪と王子の会話はナビスに丸聞こえだったらしい。狸寝入りだったらしいナビスのことを思うと、なんとも気まずい。

 一方のナビスもまた、『盗み聞きのような真似をしてしまいました』と気まずげにしているが、お互いにもじもじしていても仕方がない。澪は気を取り直し、何なら一周回って『そうだそうだ、もうこういう風にぶちまけられちゃった方が楽だったから結果オーライ!』と開きなおることにした。

「じゃあもう何も隠し事ナシで話そっか。その方がお互い、やりやすそうだし」

「ええ。私もその方がやりやすいです。……その、ミオ様に気を遣って頂いているのが、申し訳なかったので」

 もじもじ、とそう言うナビスを澪は内心で反省しつつ、だが、今はとにかく前進あるのみ!と早速、ナビスの問いに答えることにした。

「えーと、じゃあさ。さっきの……『王城に行くべきか』ってやつ、なんだけど」

「……はい」

 固唾を飲んで澪を見つめてくるナビスに負けじと澪もナビスを見つめ返しつつ……言った。

「現状、なんもわかんなくない……?」

「……あ、やっぱり、そうですか?」

 そう。分からないのである。分からないものをどうこう言っても、仕方がないのである!


「まず、王子様の今後の出方が分かんないじゃん?それ次第ではナビスも巻き込まれるかもしれないけど、逆に言えば、王子様次第ではナビスは全く巻き込まれないじゃん?」

 まず、分からないところ1つ目は、王子の出方である。

 カリニオス王子はこれから、王位を継承するつもり、ということだろうか。だとすると、彼の実の娘であるナビスは王女様になってしまうので、王城に行かざるを得なくなる……と思われる。

 だが一方で、王子が王位継承権を破棄するようなことがあれば、ナビスは今まで通り、ポルタナの聖女ということでいいだろう。……それから、もし、王子自身が『ナビスとの関係を公表しない』ということに決めたなら、やはり、ナビスはこのままで居ることになる。

「それから2つ目に、実際に王城に行ったらどういう扱いになるか、ってのも分かんないじゃん?」

 続いて2つ目。これは澪とナビスの想像力が及ばないということもあるだろうが……ナビスが王城へ行った際の扱われ方が、分からない。

 ナビスは王子の実の娘、であろう、と、思われる。

 だが、DNA鑑定がある世界でもないので、実親子関係を証明するのは難しいのかもしれない。……何か、方法があるような気もするが。

 まあ、それはさておき、『正式な婚姻関係にあったわけでもない女との間に生まれた娘』である。更に、『今まで存在すら分かっていなかった娘』でもある。

 ……この場合、ナビスはどのような扱われ方をすることになるのだろうか。

 今まで行方不明であったお姫様として迎えられることになるのか、厄介ごとの種として疎まれるのか。

 ついでに、王子がうっかり王位を継承しようものなら、更にその次の王はナビス、ということにならないだろうか。しかしそれは果たして本当にそうなり得るのか。

 ……結局のところ、そのあたりも今一つ分からないのである。

「それで3つ目に……えーと、まあ、これはちょっとアレだけど……」

 そして、3つ目。

「王城に行った時のメリットとデメリット……えーと、長所と短所、分からなくない?」

「分からない、ですねえ……如何せん、遠すぎる世界のことですから……」

 澪もナビスも、『実際にそうなった時にどんなメリットとデメリットがあるか』すら、分からないのだ!




「……まあ、1つ目と2つ目、もしかしたら3つ目も、王子様本人に聞けばある程度は分かると思うんだけどね」

「ええ、まあ、そう、ですよね……」

 まあ、分からないので考えてもしょうがないのである。澪は、はあどっこいしょ、とばかり、椅子の上で伸びをする。それを見ていたナビスは、ほんのり安心感を覚えたらしくて、『やっぱり考えても仕方がないですよねえ』と落ち着いてきたらしい。

「まあ、王子に直接聞くのが気まずいってのも分かるんだけどさ」

「あああ……そう、そうなのです、ミオ様!私、本当に気まずくて気まずくて……!」

 そして落ち着いてきたナビスは、このように心情を吐き出すこともできるようになってきた。いいぞいいぞー、と澪は内心でにこにこしつつ、ナビスを、きゅ、と抱きしめてみた。

「あああ、私、どんな顔をすればよいのでしょうか。まさか、カリニオス王子が私のお父様かもしれない、だなんて……」

「あはは。それ、王子様も言ってたよ」

「ですよね!?ああ、よかった!お互いに気まずいのですね!?あああ、でも、あまり良くないかもしれません!双方共に気まずいと話が進みませんよね!?」

「まあ、それはそうだ」

 ナビスが澪の腕の中に抱きしめられながらわたわたする様子がなんとも可愛らしい。ナビス自身も、今はとりあえず『わたわたすることで吐き出せるものは全て吐き出して、取り乱すだけ取り乱して、それから落ち着く』という方針で居るらしいので、澪はそんなナビスを温かく見守ることにした。

「ううう……せめて、王子様に直接お話を伺う前に、何か、もう少し段階を踏んでから……外側から徐々に、という訳には、いかないでしょうか……?」

「あー、だったらクライフ所長に聞いてみる?」

「あの方もあの方でなんとなく気まずいです、ミオ様ぁ!」

「うん、気持ちは分かる。あー……えーと、じゃあ、なんかこう、王族に詳しそうな人に話、聞いてみるとか……?」

 きゅうきゅうくっついてくるナビスに合わせて、よいしょ、と澪はナビスの隣……ベッドの縁に移動して、改めてナビスをきゅうきゅうやりつつ、考える。

 はて、澪とナビスの人脈で、そのあたりに詳しい人は居るだろうか、と。

 ……まあ、深く考えるまでもない。こういうことを気軽に相談できて、かつ、ズバッとした意見をくれそうな人には、心当たりがあるのだから。

「ってことで、マルちゃんに話、してみる?」

 そう。マルちゃんだ。マルちゃんは貴族であるので、そのあたりの事情は澪やナビスよりも良く知っているだろう。そして彼女のものの見方がシビアでキレがよいことも、澪は良く知っている。こういう時の相談相手にはピッタリであろう。




 ということで、その日と翌日はナビスの体調のために、大事を取って休むことにした。

 澪はナビスの為にお湯を沸かして、タライで湯浴みさせた。お湯にはジャルディン土産の香油を垂らしてみたので、オレンジのようなさわやかな香りがして気分を切り替えるのにちょうど良かっただろう。

 そうして澪は、なんとなくオレンジっぽい美味しそうな匂いになったナビスの髪をタオルで拭いて乾かしてやって、それからナビスを寝かしつけた。『ナビスー、良い子だねんねしな』と歌ってみたところ、ナビスに何故かとても好評であった。

 ナビスが眠ったら、澪もタライでざっと湯浴みして、それから晩御飯の支度をする。

 メニューは病人のナビスを気にして、お粥にする。くたくたになるまで煮込んだ野菜と押し麦のお粥は優しい味で、澪も納得のいく出来栄えになった。

 ついでに、庭の白鶏から卵をもらってきて、ふわふわつるん、とした茶わん蒸しを作る。こちらは野菜屑とポルタナの海で獲れた魚(石魚、というらしい。後でシベッドから聞いた。)で出汁を取って仕上げたのだが、こちらも想像以上に美味しいものができた。

 ……夕方になってからナビスを起こして食事を摂らせてみたところ、茶わん蒸しがとても好評であった。目を輝かせて『ぷるぷるですね!』と喜ぶナビスを見た澪は、今後も定期的に茶わん蒸しを作ることを決めたのだった。今日もうちの聖女様がかわいいのである。


 ……そうして栄養を摂らせて、ナビスをまた寝かしつけて、澪も早めに就寝して……そうして、翌日にはナビスの体調も良くなってきていたのだが、まあ、『そもそもマルちゃん達、まだレギナに戻ってなくない……?』ということで、もう1日、休暇とした。

 その間、カリニオス王子が宿の周りをうろうろ散歩して『おお、ポルタナだ……』と感慨深げにしているところを目撃したり、鉱山に『もしカリニオスさんっていうおじさんが鉱山の見学に来たら見せてあげて欲しい』と伝えておいたり、シベッドが『なんか怪しい野郎が入ってきてるな』とカリニオス王子を訝しんでいるのに『あー、あれは無害だからそっとしておいてあげて……』と言い含めておいたり、のんびりと、それでいて忙しくポルタナの中で働いた。

 その日の晩御飯はナビスが作ってくれた。コニナ村で採れたらしい根菜をごろごろと煮込んだスープの他に、焼き立てのパン、そして魚のムニエルだった。ナビスの料理は優しくて暖かい味がするので、澪はこれが大好きである。2人で『美味しいねえ』『それはよかったです』とにこにこしながら食事を摂った。


 ……と、1日半ほどの休暇の後。

「じゃあ、ちょっとレギナまで行ってきまーす!」

「明日の夜には戻りますので!」

 澪とナビスは元気に、マルちゃんに会いにレギナへと向かうのだった。




 さて。ドラゴンタイヤの馬車のおかげで、その日の夕方前にはレギナに到着した。

 大聖堂へ向かえば、『ああ、聖女マルガリートでしたら戻ってきていますよ』と門番が教えてくれたので、取り次いでもらう。

 そのまま待っていれば案の定、マルガリートとパディエーラが揃ってやってきたのだった。

「ああ、ミオ!ナビス!よかったわぁ、あの後、何事もなく?大丈夫だった?」

「はい。おかげさまで。そちらは?」

「こちらも恙なく、といったところですわね。今、ひとまずレギナの監獄に連中を入れてありますの。王都に連れて行ってしまうと何かと大事になりそうでしょう?」

 どうやら、マルガリートとパディエーラの方……ロウターとロウターの従者達の処理については、『とりあえずレギナの監獄に入れてある』ということで一応片付いたらしい。今後の処遇については、また別途、王や王子が関わって決めていくことになるのだろう。

「ただ……1つ気になることがありましたのよね」

「え、何かあった?」

「うーん、どちらかと言うと『無かった』方なのよねえ」

 ……だが、マルガリートとパディエーラは少々、引っかかるような顔をしていた。

「聖女が居ませんでしたのよ。相手方も神の力による強化を行っていたようですから、相手にも聖女が居なければおかしかったと思うのですけれど」


 聖女が居なかった、となると、いよいよ不思議なことになる。

 マルガリートの言う通り、相手方には聖女が居るはずだった。だからこそ、ナビスの外にマルガリートとパディエーラも一緒に来て、澪の超強化が行われたのだから。

「まあ……実は、見当はついているのだけれどね」

 だがパディエーラは少し困ったような笑みを浮かべた。

「ほら、あの現場、多くはなかったけれど、一応、死体も出てたから。主に、私達の強化の度合いが強すぎて力加減を誤ったカリニオス王子側の人達が、ね……」

「うわーお」

「あああ……」

「まあ、色々と当たりどころが悪くて死んじゃった人の中に聖女が居た、とするのが妥当なのよ」

 ……まあ、そういうことなんだろうなあ、と澪は思いつつ、『死なれちゃってたら情報が得られないんだよなあ』とも思う。人が死んでしまったという悲劇を悲しむのはひとまず後回しだ。今は色々といっぱいいっぱいなので、それどころではない。

「そっかー……まあ、死んじゃったっていうならそれはそれで仕方ないか。うん。まあ、そっちはオーケーってことで……」

「……ミオ達の方は、何かありましたの?」

 マルガリートが『まさか何か事件が!?』と心配そうにするのを見て、それから、澪とナビスは顔を見合わせて……ここへ来た目的である相談について、口を開く。

「えーと、ナビスがどうも、お姫様だったっぽい、ということが、判明したんだけど……どうしたらいいと思う?」

「……はぇ?」

「あらぁ……え?え?……えっ……?」

 ……聖女2人がぽかーん、としてしまったのを眺めつつ、澪は、『さーて説明が大変だ!そりゃそうだ!知ってた知ってた!』と、半ば自棄になりつつ諸々の説明を始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ……もしかしてホネホネと王子って知り合いなのでは!?
[良い点] そりゃそうだ!知ってた知ってた!の澪感
[一言] シベちんがだんだんシベリアンハスキー(聖女の番犬)に見えてきた…。
2023/11/30 08:07 退会済み
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