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出発信仰!  作者: もちもち物質
第二章:アイドルとは神である
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大きな神霊樹の下で*10

 その日、澪とナビスはギルド横の宿を取って宿泊することにした。

 例の病人本人に会ってしまうと何かと厄介な気がするが、それはそれとして、病人の容態は知りたい。一応、そこは責任感の強い澪とナビスなのである。

 ……ということで、一泊して翌日、2人はギルドへ向かうことになったのである。


「おはようございまーす」

 かろろん、とドアベルを鳴らしてギルドに入れば、早速、受付嬢が取り次いでくれた。奥の所長室へと通されれば、そこには所長さんとその他、例の病人について頭を悩ませていた昨日の面々が揃っていた。

「おお、聖女ナビス様!おはようございます!」

「おはようございます。あの、例の彼の容体は……?」

 ナビスを見て早速腰を浮かせかけた所長達は、どうぞどうぞ、とソファを澪とナビスに勧めてくれつつ、嬉しそうに笑みを零して答えてくれた。

「ええ。おかげ様で、どうやら持ち直したらしい、と。医者の見立てでは、このまま滋養のある食べ物を摂って休養していれば、いずれ体に残った病魔も全て消え失せるだろう、とのことでした」

「ああ……よかった」

 ナビスはほっとした様子でにこにこと笑う。澪は『やっぱりナビスはすごい!』という自慢めいた気持ちになると同時に、『病気も神の力で治っちゃうんだ……不思議!』という気持ちにもなった。

 現代日本人の澪としては、祈って病気が治ってしまうのは、なんとなく、こう、不可解ではある。まあ、こういう世界なので仕方がないのだが……。


 さて、澪が『すごい!』と『不思議!』の間を彷徨っている間に、ふと、所長がため息を吐いた。

「……ただ、それで、やはり『何故治ったか』を不審に思われているようでしてね」

 そう。例の患者は、厄介な患者らしいのだ。どうも、神の力を嫌っているとのことで、聖女の治療を拒んでいた、と。

 医者には掛かっているようなので、澪としては『まあ現実的だよね』と思うのだが、この世界の常識と事実から考えると、まあ、理解し難い行動、ということになるだろう。

「勿論、ナビス様のことは内密にしてあります。あなたに害が及ぶようなことには、絶対にしません。ですが……」

「ご本人が訝しがっておられるということでしたら、私達も姿を隠した方がよいでしょうか」

「ええ……わざわざお越しいただいておいて、大変に、申し訳ないのですが……」

 所長は、心底申し訳なさそうに頭を下げて、そう言った。

「『もしや、聖女が治療したのか?その聖女は、今、どこに?』と、起きてすぐ、ベッドから抜け出そうとする始末でして……」

「あらまあ」

「え、すっかり元気じゃん……すご……」

 昨日のあの病人ぶりを考えると、その人が昨日の今日でベッドから抜け出そうとしているとはにわかには信じがたい。それだけナビスの癒しの術が優れていたということか、はたまた……。

「勿論、何年ももうずっと寝たきりでおられた方です。突然歩けるようになるわけもありませんから、ベッドから落ちて、這いずろうとして止められている状態です」

「それはそれで気持ちが滅茶苦茶に元気ってことじゃん……?すっご……」

 ……どうやら、厄介な患者は、とてつもなく執念深い人らしい。澪は只々、『すご……』と、遠い目をするしかない。

「ひとまず我々は『聖女の力のような気配がする!』と騒がれるのを留めて、『気のせいですよ!』と誤魔化しておりますが、それもいつまで持つか……」

「わーお」

「彼が回復されて、自力で動かれるようになったなら、その時にはもう、私達はこの町に居ない方がよい……でしょうね?」

「はい……うう、本当に、本当に申し訳ないのですが……」

 所長が項垂れる横で、ギルドの面々が皆揃って心底申し訳なさそうな顔をする。

 だが、澪もナビスも特に気にしていない。聖女も神霊樹も無い町に神霊樹を植える、という目的は達成した。ついでに人が1人元気になったというのならば、それはそれでよいことなのだろうと思う。

 ……傲慢かもしれないが、やはり、生きていれば何か得られるものも、あると思うのだ。

 特に、あの患者には、ここに居るギルドの面々が付いているようなので。想ってくれる人々が近くに居るのならば、死んだ方がマシということもあるまい、と澪は思う。


「分かりました。では、この後すぐに出発させていただきます。何かあれば、ポルタナまでご連絡を」

 勿論、だからといって澪とナビスは厄介ごとに巻き込まれる気は無い。後始末はセグレードの人達に任せて、さっさと帰る所存である。

「ああ、ありがとうございます。せめて、せめてお土産を!」

 早速帰り支度を始めた澪とナビスに、所長達は慌てて袋を渡してくれた。

 袋の中を見てみると、それはハーブや薬草の類であるらしかった。この世界の植物には然程詳しくないが、澪もこの中のいくつかは、ナビスが台所で使っているのを見たことがある。袋の中を覗けば、ふわり、と爽やかな良い香りがして、澪は思わず顔を綻ばせた。料理にも使えるだろうし、ポプリにしてもいい。

「セグレードはハーブの栽培に力を入れていますので……それから、こちらも」

 続いて手渡されたものは、陶器の瓶だ。中には液体が入っているのだろう。そしてラベルを見る限り、どうやらお酒であるらしい。

「お酒、ですね?ふふ、喜びそうな人がポルタナには沢山いますね」

 澪は『ホネホネ……』と頭の中で思った。多分、酒を喜ぶ筆頭は彼らである。あのスケルトン達は、あれで案外、酒好きなのだ。勿論、他にもカルボ達鍛冶師や、漁師達……祭り好きの面々は皆、喜びそうだが。

「お礼と言っては何ですが、今後とも、ポルタナにセグレードの酒を送らせていただきます。恩人でもある聖女様方に無礼を働く分は、それで埋め合わせをさせてください」

「そんな、気にしなくていいのに……えーと」

 只々申し訳なさそうに縮こまる面々を見て、それから澪は、ちら、とナビスを見る。ナビスも『気にしなくていいのに……』という顔をしていたが、澪と目が合うと、ふ、と笑って、にっこり頷いた。

「……でしたら、神霊樹をどうかよろしくお願いします。皆様の祈りで、どうか、大きく育ててください。それが、私や、私だけではない、世界中の聖女、そして世界中の人々の助けになりますから」

 ナビスがそう言うと、ギルドの面々はナビスを拝みながら、『なんと心優しいお方……』『ああ、できることならセグレードに永住して頂きたいくらいなのに……』と言葉を漏らしていた。

 ついでにナビスへの信仰心が集まっているらしく、ナビスがぽやぽやと光り輝いていた。……これだけの信仰心が一気に集まるのだから、もしかすると、ここの神霊樹が育つのも案外早いかもしれない。

 そうして、大きな神霊樹の下で、のんびり笑える日がくればいい。

 ……あの厄介そうな患者も、そうできたらいいなあ、と、澪は思うのだった。




 さて。

 そうして、澪とナビスはセグレードのお土産をたっぷり馬車に積んで、のんびりと元来た道を戻ることになった。

「すごい早さで終わっちゃったねえ……」

「ええ。丸一日も滞在しませんでしたものね……」

 なんだかんだ、セグレードでの滞在時間は1日に満たない。まあ、特にゆっくりしたいという希望も無かったので、澪もナビスも、特にどうとも思っていない。

 むしろ、『王都に近づくとなんか良くない気がする』という観点からいけば、ポルタナより余程王都に近いセグレードでの滞在時間は短いに越したことは無い。今回の弾丸旅行も、そう考えれば悪くなかった。

「さて、これで金のどんぐりもあと1個かあ……どこに植えようねえ」

「うーん、他にも希望する町があれば、そこがよいと思うのですが……」

 セグレードは、自ら希望を出してくれたので神霊樹を植える場所探しが大変に楽だった。他の町も同じように希望を出してくれたら、もっと楽なのだが……流石にそう何件も希望が来ることは無いだろう。

「マルちゃん様やパディ様にも相談してみましょうか。彼女らも何か、情報を得ているかもしれませんから」

「そだねえ。じゃあ、このままレギナ寄って帰る?」

「そうしましょうか。セグレードでの滞在が短かった分、多少寄り道しても問題ないでしょうし」

 ということで、澪とナビスはポルタナへ帰る前にレギナへ寄り道することを決め、ついでに『でも帰り道でもジャルディンを通るからまた果物料理食べよう』『食べましょう!食べましょう!私、リンゴのパイが気になっていて……!』と、ジャルディンでの予定も立てて少しばかり浮かれるのだった。




 ジャルディンにはおやつ時に到着した。おやつ時に到着したのだからおやつを食べる。

 澪とナビスは早速、喫茶店に入って、煮て保存してあったのであろうリンゴをたっぷり詰めたパイと、オレンジのような果物のジャムを混ぜ込んだケーキとを注文して、互いにシェアしつつお茶を楽しんだ。

「ところでこのお茶、フルーツティーですね」

「ね。パディの物販で売ってるのもこういう奴だったなあ」

 パディエーラが物販で売っていたのは、ここジャルディンの特産品である果物を使ったお茶だった。フルーツティーは果物の香りと甘みと酸味がじんわりと溶けだした、華やかな味わいである。そこに更に果物のジャムを溶かしながら飲むのが、またなんとも美味しかった。

「ポルタナでも、物販に出してる塩とかを使った料理、もっと売りにしていってもいいかもね……」

「そうですね。ポルタナの塩で焼いたお魚とか……」

「あー、美味しそうだなあ、それ」

 そんな会話を交わしつつ、2人はのんびりとお茶のカップを傾け……そして。

 からん、と鳴ったドアベルに、なんとなくそちらを振り向いて……2人揃って、驚くことになった。

「あっ!?パディ!?」

「へ?……まあ!ミオにナビス!」

 なんと。そこには、パディエーラが勇者ランセアを伴って、やってきていたのであった。




「すごい偶然よねえ……丁度帰ってきたところで、あなた達に会うなんて」

 パディエーラもフルーツティーを飲みながら、そんなことを言って、ほう、と息を吐く。

 ……どうやら、パディエーラはレギナからこちらへ、一旦戻ってきたらしい。元々、パディエーラは定期的にレギナからジャルディンまで戻ってきているのだとか。定期的に故郷の様子を見て、何か困っていることが無いか確認しているらしい。

「丁度、セグレードに行っていたところだったんです。神霊樹を植えてほしい、という依頼があって」

「あら。じゃあ帰りだったのね?なら、会えたのは本当に偶然で、しかも幸運だった、っていうことね?」

「そういうこと。私達もまさか、パディに会えるとは思ってなかったよ」

 聖女2人に勇者1人は同じ卓できゃっきゃと話に花を咲かせる。……取り残されて若干気まずげにカップを傾けている勇者ランセアが居るわけだが、これは女子多数の中に紛れる男子1人の宿命である。


「本当は、ポルタナに帰る前にレギナへ寄り道していく予定だったんです。マルちゃん様やパディ様にお会いしたくて」

「ちょっと聞きたいことがあってね?パディは、神霊樹を植えてほしい場所、心当たり、なーい?」

 さて。花を咲かせるだけ咲かせたら、いよいよ本題に入る。ここでパディエーラから1つ以上何か心当たりを聞き出せたら、レギナへ寄り道せずともよくなるかもしれない。……マルちゃんが若干、拗ねそうな気もするが、まあ、それは仕方ないとして。

「神霊樹を?まだ植えられるの?」

「はい。あと1つ、神霊樹の実を持っていますので」

 ナビスが掌に神霊樹の実を乗せてパディエーラに見せると、パディエーラは『あら可愛いどんぐり……』と嬉しそうにして、それから、勇者ランセアの方を見た。

「……ということらしいけれど、ランス。あなた、どう思う?丁度いいんじゃないかしら」

 急に話を振られたランセアはぎょっとして、それからパディエーラがころころ笑うのを、じっとりとした目で見つめつつ、言った。

「……私に聞かなくてもいいだろう、パディ」

「あら。あなたの意見も尊重しようと思ったのだけれど」

 パディエーラがランセアの顔を覗き込むと、ランセアはため息を吐いて『やれやれ』というような素振りをしてみせた。

 2人のやり取りを見て、澪とナビスが首を傾げていると……。

「……実はね」

 パディエーラは、柔らかながら真剣な表情で、そっと、告げてきた。

「私、そろそろ聖女を引退するつもりなの」


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[一言] パディちゃん:「普通の女の子に戻りたいんです!」 えーーー勇者様とくっつくのかなーーーwktk
2023/11/14 23:19 退会済み
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