第十五話(引っ張るな)
ある冬の夜、専門学校に通っていた頃のアパートで起きた出来事。
女友達2人と男友だち1人の4人でワイワイ宴会をしていた。
当然(?)友人間ではお化け屋敷として有名になっていた我が家では興が乗ると怪談話大会になるのが常だった。
実物が其処ここにいる部屋で夜中に怪談話もどうかと思うが、その頃は気にもしていなかったと思う。
順繰りに話を進めていくうちに、ビールを飲み飲み話していたためか女友達の1人が催して来てしまった。
「トイレ行きたい」
そのアパートは部屋にトイレは付いてない。
暗い中通路をアパートの最奥まで進んだ所にあった。
それは昔の学校のトイレのような汲み取り式のトイレと、その隣にある、チューリップ型の便器のない男子用のトイレが繋がっている形だった。
当然蛍光灯のスイッチは切れており、用足しに赴く場合にトイレの入り口まで行ってからスイッチを入れる。
こんなもんだから目的地に着くまではとても薄暗く気持ち悪い所だった。
全員で「いってらっしゃーい」とニコニコしながら見送るのだが、なかなか部屋から出ない女友達。
「誰かついて来てー」
顔が笑ってなかったのが面白いのだが、だったら怪談話なんかしなけりゃ良いのに。
「ついてってやりな」
ともう1人の女友達に言うのだが、
「ヤダヤダヤダ。2人じゃヤダ」
との事。
「家主のお前が付いてってやるのが義務だべー」
男友達がビール飲み飲み言ってきた。
めんどくさかったけど、部屋の中で漏らされても困るのと、自分もトイレに行きたくなってきていたこともあったので保護者?として2人に付いていく事になった。
部屋の扉を開けると、相変わらず薄暗い中通路の蛍光灯はブブブブと変な音を立てている。
その割にはアパート中静かで、前方に見えるトイレの角から何かが出てきても不思議ではない雰囲気だった。
その中女友達2人は肩を寄せ合いながらトイレに進み、蛍光灯のスイッチを入れて二つあった汲み取り式のトイレに入って行った。
さて、俺も用足しするかー。と、男子トイレの方で用を足し始めたとき、その汲み取り式のトイレの壁から腕が出て来た。コンクリート打ちっぱなしの壁である。
用足ししてる俺の左腕側だ。
『うぉ!』
とは思ったものの、声を出すと中に入ってる2人が大変な事になりそうだったので、出そうになった声を飲み込んだ直後。
その左側から出て来た手が、用足ししてる俺の左腕を掴んで壁側に引っ張りやがった!
『あー!濡れてしまうー!やめやめー』
壁に体が当たった所でその腕は消えた。
服が濡れずにすんだが、危うく漏らしたと疑われる所だった。
迷惑だからやめろやー。
これで終わりかも。




